第66話 『カース上級二番・藍迷宮』-2

 快適な休憩部屋の作り方を確立したおかげか、もの凄く回復が早い。

 まだ、半分以上の階層が残っている。

 最低でも、あと二日はかかるはずだ。

 だが、グズグズはしたくない。


 まだ『戻っていない三人』は見つかっていない。

 この更に下層にいる、ということだ。

 時間が経てば経つほど、彼等の身体は『なくなって』しまう。

 せめて、まだ毒に侵されていない部分が残っていたら持ち帰ってやりたい。

 次の階層辺りに、いてくれたらいいんだが。



 その後も殆ど戦わず、なんとか十九階層まで来た時に『彼等』を見つけた。

 頭部と身体の大部分はもう手の施しようがなかったが、手の指などの一部はまだかろうじて『人』のものだった。

 そして指輪や腕輪、身分証などの所持品を回収し、名前だけは判るように書き留めておく。

 浄化を終えたら、それぞれひとり分ずつ布にくるんで『菓子の空き袋』に入れる。


 よし。

 ここから先は、全部焼いちまって構わない。

 もう、ここには『誰もいない』。

 襲っては来ない魔虫を、苗床ごと炎熱で全て焼き尽くす。

 その煙は他の魔獣共の動きを止め、その間に俺は迷宮内を走り抜ける。


 次の階層も、その次も、魔虫を大量に焼くだけで魔獣達は逃げ出すか、倒れ悶えている。

 一桁台の迷宮はこのやり方ができると、とんでもなく簡単に通り抜けられる。

 あっという間に俺は、丸一日はかかるだろうと思っていた三十階層まで辿り着いた。


 ……腹の減り具合から、そろそろ飯にした方がいいだろう。

 小部屋を見つけ『休憩部屋』を作る。

『浄化門の方陣』を発動させて、やっと、落ち着いて腰を下ろす。


 魔虫を焼いた煙を吸った魔獣は、確かに動けなくなったものもいた。

 だが、十三番などでの煙では全ての魔獣が悉く全身を麻痺させ、中には瀕死の奴までいたはず。

 今回は……逃げ惑う余力がある魔獣や、倒れずただ動きを止めるだけの奴も少なくない。

 ……何が違うんだ?


 いままでは……そうだ、魔虫が向かって来たから、雷光剣で墜としてから焼いていた。

 ここでは、いきなり『炎熱の方陣』を使っている。

 もしかしたら、雷光剣の雷をくらった魔虫の煙の方が、魔獣に対して効果が高いのか?

 ……理屈は判らないが、試してみよう。


 俺は干し肉を囓りながら、なんで保存食に、いや、せめて燻製肉の方にしなかったんだろう……と、ちょっとだけ後悔した。

 不味くはないが、硬い……

 仕方ない、焼き菓子を食って元気を出そう。



 その下の階層も、魔虫で溢れている。

 今度は雷光剣で全ての魔虫を墜とし、下りの分岐近くまで行ってから焼き払う。

 暫く待ち、煙を旋風で吹き飛ばした後、三十一階層で動いている影は何ひとつなかった。

 上の階層では煙に巻かれてもふらふらとしながら歩いていた魔虎も、なんとか逃げようと必死に身体をばたつかせていた魔猩もピクリとも動かず倒れている。

 明らかに効力が違う。


「雷光剣と『炎熱の方陣』か。一桁台の迷宮でなら、ほぼ無敵……だな」

 魔虫がいればいるほど、簡単に攻略できるなんて!

 転がっている魔獣の中には魔黒猩が多く、そして更に大型の魔獰犀まどうせいと呼ばれるものまで転がっている。

 ……初めて見たな。


 太くて短足の四つ足魔獣だが移動速度はかなり速く、突進してくるだけでも恐怖そのものだ。

 しかもやたらデカイ口には、突き刺さる牙だけでなく磨り潰す臼のような歯が並んでいる。

 人を銜え込み骨までも砕いて磨り潰してから吐き出し、その上に卵を産むらしい。


 そんな魔獰犀の確認部位は、小さい耳。

 牙も売れるはずだから、もらっておこう。

 こいつがこの階で出るってことは、下にも何体か居るはず。

 そして……水が溜まっている。


 そう、魔獰犀は『半水魔獣』と言われる、水中と陸上を行き来する魔獣だ。

 転がっている全ての魔獣を焼き払いながら、焼けない場合はどうしたらいいんだろう……と考えていた。

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