第45話 ロカエからロートア
リントでの仕事は、思っていたより早く終わった。
【植物魔法】の方陣札のおかげで、質のよい榛果が早く集められたからだ。
カリナさんから『お礼よ』と言われて貰った蜂蜜の焼き菓子が、めちゃくちゃ旨かったな。
なんの礼かは……ちょっとよく解らなかったんだが。
懸念していた獣による襲撃もなかったので、ほのぼのとした雰囲気のまま多くの女性達に見送られてリントを後にした。
まずはロカエの冒険者組合に行って、依頼完了の報告だ。
「お疲れ様でした、ガイエスさん」
冒険者組合の受付で身分証を提示すると、やたらと首を傾げられた。
何か不備でもあったのだろうか?
「ガイエスさん……魔法師二等位なんですよねぇ? 身分証の冒険者段位の更新、していないんですか?」
「いや、イグロストに入ってからは、魔法師としてしか仕事をしていなかったんで……」
「ああー、それで組合事務所に来ていらっしゃらなかったんですね! 解りましたぁー! 更新手続き、しちゃいますね!」
期限切れとかそういうことか?
冒険者として活動していないと、期限が付けられちゃったりするのか?
いや、でも『段位』って言ってたな?
「おまたせしましたーっ!」
受付嬢が渡してくれた身分証を確かめると『冒険者組合 銀段一位』と書かれている
「なんで段位が上がっているんだ? 冒険者として受けた依頼は、今日完了したものだけだったはずだが」
「だって、二等位魔法師じゃないですか! イグロストの二等位は他国の一等位以上ですよ。無条件で、銀段二位です」
「いや、一位になってるぞ?」
「魔法師としての仕事で、エデルスの畑整備と方陣札作成での二件達成してますし、リグナでの護衛系も最高評価ですし、今回の冒険者としての依頼も最高評価の上に増額提示です。銀段一位になって、当然ですよっ!」
……そうなのか。
ガエスタでの三年間、銅段から銀段四位にすら上がらなかった俺が、たった二ヶ月で……
「今受けているセレステの依頼の最終評価次第では、金段に上がるかもしれません。頑張ってくださいね!」
「魔法師としての仕事まで、冒険者段位に関係しているとは思っていなかった」
「『イグロストの魔法師』っていうだけで特別ですからね。他の国の魔法師では、この国の依頼をこなすことなんかできません。魔力も実力も足りませんから。だからこの国の魔法師として依頼を達成できているってことは、冒険者としても高評価になってるんです」
どこまで魔法師に甘い国なんだよ、イグロストは……!
もの凄く嬉しいけど!
……甘やかされたこと、なかったもんなぁ。
セレステに戻るのは明日の予定なので、今日はロカエからロートアに行ってみることにした。
リントの男達が、牧場や加工工房で働いているという町だ。
なんでも、旨い乾酪や肉が沢山売っているらしい。
迷宮に行く前に寄りたいから、一度行っておけば方陣門で移動できる。
ロートアの町自体はさほど大きくはないが、広い広い牧畜地帯と更に広い小麦畑が西側に広がっている。
乾酪工房がいくつかあり、肉の加工工房も数多く並んでいる。
燻製肉は、絶対に買い溜めないとな!
今から目星を付けておこう。
お、魔具屋がある。
イグロストでは攻撃系の方陣札はなさそうだが、いい補助系の物があれば手に入れておきたい。
魔石も調達しておこう。
魔具屋で見つけたのは技能系の方陣だった。
『馬術技能』『弓術技能』!
どちらもかなり役に立つ。
この『馬術技能』があれば、馬に負担をかけずに乗りこなせるから移動時間も長くできる。
そして弓術が使えるなら、迷宮に辿り着くまでの間に出る地上の魔獣などには、魔法を使わずとも遠距離攻撃ができるのだ。
これは、弓矢も揃えておかないと!
セレステでの仕事も、あと一ヶ月程だ。
新しい年になり、春になったらストレステへと渡る。
俺が『本当の冒険者』になる場所、迷宮へと行くことのできる国。
不思議だよな、どんなに準備したってすぐに死んじまうかもしれないのに。
俺は今、楽しくて楽しくて仕方ない。
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