第43話 リント-1
ロカエから北西の、レクサナ湖付近にあるリントの村。
二階建ての屋根ほどの高さがある木々の森に囲まれている。
すっかり葉が落ち、果実も落ちているようで、物寂しい雰囲気だ。
「この森の木は全部、
カリナが言うにはこの榛果というのは鶏の餌にしているだけで、普段はたいして多くは採らずにいるようだ。
それは木の実を拾う作業自体が面倒であることも原因なのだが、今の季節だとこの森の奥にいる中型の獣が採取している者に襲いかかって来ることがあるのだそうだ。
「でも、ここら辺の獣は食べられないし、皮も売れないんだよ。その上、畑を荒らしに来る小さい獣を食べてくれるから、殺して欲しくないんだ」
「わかった。追い払うか一時的に動けなくする……ってことでいいのか?」
カリナは面倒なこと頼んじゃってすまないねぇ、と言うが、寧ろ殺さない方が楽だ。
売れる獣ならいいが、売れないとなれば処分に逆に金を払う必要が出てくる。
今の季節は大丈夫だろうが、死骸を放置すりゃ魔虫に集られる心配ある。
そういう獣を殺したら、その始末は殺した者がしなくてはいけない。
榛果の採取は大人数でやるのかと思ったが、そうでもないらしい。
カリナ達は風魔法で、地面に落ちているもの全てを巻き上げている。
そうして、下の方に隠れている榛果を見つけ易くしているのだろう。
巻き上げた枯れ葉などと一緒に腰の高さより少し高い大きめの台の上に広げ、そこで榛果だけを選別していくのだそうだ。
「鑑定系の魔法があったら便利なんだけど、あたし達、そういうのはなくって」
「そうよねぇ、じゃなかったら【植物魔法】があったら凄く便利なんだけど」
そんなことを喋りながらも、楽しげに選別作業をしている。
ん……?
『植物魔法の方陣』って覚えてたよな、俺。
「……【植物魔法】の方陣札だ。使えるか?」
「ええっ? いいのかい?」
「まぁ! こんな貴重魔法の札まで持ってるなんて、冒険者って凄いのねぇ!」
いや、どっちかっていうと、この国の魔法書が凄いだけだ。
俺には使い方の解らない魔法だったが、彼女たちはその方陣に魔力を入れて発動させているところを見ると知っているものなのだろう。
様子を見ていると、どうやら【植物魔法】では指定した植物だけを集めたり、その植物の状態が解るみたいだ。
「助かったよ。種の中に虫が入っているものなんて出せないからねぇ」
「そういうのも解るのか」
「ああ、その植物が発している微量の魔力が解る魔法なんだよ。だから、別の生き物が入り込んでいるものとか、傷が付いているものなんかも判るんだ。この魔法で選別すりゃ、他のものが混ざることもないから『植物魔法選定品』ってことで、高く売れるんだよ」
へぇ……
そういうものなのか。
「その方陣ならまだ札がある。俺には必要ないから、要るなら譲るぞ?」
「本当かい? そりゃあ、凄く助かるけど……」
「一枚百でいい。たいして魔力を入れていないからな」
彼女たちは互いに顔を見合わせて、戸惑っているような顔だ。
……高かったのかな?
相場がわからねぇ。
「あんた、自分が使わないからって、安売りし過ぎちゃ駄目だよ!」
「そうよ! その方陣札は、そんなふうに投げ売りしていいものじゃないわよ」
そう言うと、彼女たちは一枚あたり千七百も出して十枚程買ってくれた。
ごめんね、これでも安いんだけどこれくらいしか出せなくて……なんて言いながら。
充分すぎるぜ。
この国では、当たり前のように魔法の価値が護られているのだろう。
渡した札にもう少し魔力を入れといてあげればよかった、と、ちょっとだけ後悔した。
その日は、リントで用意してもらった宿に泊まった。
ここいら辺りの料理は、塩味が濃いみたいだ。
魚よりイノブタ料理が多いらしく、ただ焼いただけなのにめちゃくちゃ旨かった。
そうだ、塩と砂糖、それと香辛料を買っておこう。
絶対にストレステの方が、高価に決まってる。
あの国は殆どの食料を、他国からの輸入で賄っているって言ってたからな。
アーサスが戦争状態になったら、そっちからの物は何も入って来なくなるだろう。
他の国からは海路での輸入が中心だそうだが、イグロストかマイウリアくらいしか取引はなさそうだしな。
こんな風にゆとりができたのは予想外だったが、かなりツいていた。
できるだけちゃんと準備しないと、ストレステに入ってから後悔はできない。
特に、食い物は!
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