第42話 セレステからリントへ
教会で手に入れた読めなかった方陣のうち、カルースで見つけた本に載っていたふたつはなんとか解読できた。
ひとつはなんと『雷光の方陣』だった!
これは素晴らしい!
炎や水などでは全く歯が立たない魔獣にも、魔魚にも雷光はかなり有用だ。
まぁ、英傑の迅雷のような、どでかい雷は出せないし一撃で仕留められるほど強くもない。
しかし、魔法が効きにくい魔獣にでも、必ず効果がある魔法だ。
魔力は大幅に使うが、複数の奴にお見舞いすることも可能な魔法である。
一度の魔法では弱くても方陣札を予め複数用意しておけば、かなり戦術的な選択肢が増える。
そしてもうひとつ、これも冒険者垂涎の魔法が手に入った。
『探知の方陣』
聖魔法分類のために、他の国では秘匿されている方陣のひとつだ。
これは魔力を探り出すもので、魔法師組合で『どこにいても魔法師を探し出せる』ってのはこの魔法を使っているはずだ。
どこの組合でも技能や魔法があるから登録しているので、登録者をこの方陣で捜すことはできる。
しかし、捜索範囲はとても狭い。
聖魔法は発動・維持するために必要な魔力が、ハンパなくデカイからだ。
イグロストの魔法師みたいに何千も魔力があれば、大陸全土の捜索が可能なのだろうが他国の奴には絶対に無理だ。
迷宮の魔具は『魔力溜まり』でできあがる。
つまり、『大きな魔力のある場所』が探知できれば、無駄な捜索をせずに済むということだ。
単独踏破をするならできるだけ効率よく、迷宮内で魔力を探知できるってのは最高の魔法だ。
魔獣の位置、他に潜っている冒険者がいればそいつ等の場所も解るってことだからな。
さすがイグロスト!
こんな方陣、他国では絶対に手に入らないだろう。
俺の四日間の休みは、もの凄く有意義に過ぎていった。
港事務所警備の仕事に戻って三日程経ったときに、またキエムから別の仕事をしてもらえないかと依頼された。
「護衛と、採取の仕事を頼みたいんだ。場所はロカエの北、リント村の森の中」
「かまわねぇが……こっちの仕事の最中だろう? それはいいのか?」
「この間捕まえてもらった奴等が根性なしで、あっさりといろいろな繋がりを喋ってくれたんでね。暫くは大丈夫そうだ」
きっと、捕らえた奴等を『根性なし』にしちまうくらいの追求があったのだろう……怖っ!
この国は『護る』ということに対して、もの凄く容赦がない印象だからな。
「それに……新しい方の依頼はたった三日間だし、冒険者組合からの仕事だからさ」
「この町には、なかったんじゃないのか?」
「依頼があったのは、ロカエの冒険者組合だよ。で、冒険者を捜したんだけど北側には全く適切な奴がいなくって、ガイエスを貸してもらえないかって話になっちゃってさ……」
キエムはちょっと不本意そうだが、多分俺のことを考えてくれているのだ。
『冒険者』としては、ここの仕事では実績にならないことを知っているのだろう。
「わかった。あんたが了承してくれるなら引き受ける。正直、冒険者としての依頼は、助かる」
「ははは、そうだよな。あ、でも、終わったらすぐに戻ってくれよ? うちではガイエスの力がまだ必要なんだからな!」
胸の奥が、くっ、と詰まる。
『必要』
キエムはきっと、なんの気なしに言ったのだろうが、その言葉を聞いて嬉しくない冒険者はいないだろう。
自分のために選んだ道で、それでも誰かに必要と思われたいなんて虫がいいと解っているから……余計に嬉しい。
「ああ、ありがとう。なるべく早く片付けてくる」
「頼むぜ、ガイエス」
キエムの屈託のない笑顔に、ちょっと泣きそうになった。
セレステから、先ずは隣の港町ロカエに移動する。
馬で行けば、デートルからカルースまでの半分もかからない時間で移動できる。
冒険者組合は……あ、あった。
港はここからは見えないが、市場があり賑わっている場所の一角だ。
俺は組合事務所で待っているという、依頼人のカリナという女性を探す。
冒険者組合の中も、閑散としていやがるな。
セイリーレ程ではないが、あまり依頼数もなく活気なんてものは全くない。
「あら、あなたがガイエスさんかしら?」
声をかけてきたのは明るい髪色の、はきはきと喋る女性だ。
「カリナ……さんか?」
「ええ! よかったわ、冒険者の人っていうから、もっとゴツイ人かと思っちゃったわ」
そう言ってケラケラと笑う。
確かに俺は、力自慢の奴等と比べられたら頼りねぇ体付きだろうけどよ。
「指名依頼はできないって聞いたけど、無理にこっちに来てもらうんだからちゃんとそれなりの報酬を支払うからね!」
ああ……そりゃ、ありがてぇけど、どうしてこの国の人達はやたらと背中とか肩とか叩くんだろうな!
結構痛いし!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます