第29.5話

「オーデンさん、また失敗ですかぁ? あれ? ニルエスさんはいないんですか?」

「……すまん、どうしても……馬が遅くて。ニルエスは別の仕事で、まだ戻っていない」

「あなたが身体を軽くしないと、駄目なんじゃないですかねぇ。馬術技能があるって言うから頼んだのに、ちゃんと馬を操れないなんて。三回続けての不達成なので、迷宮の荷運び、やってもらいますからね」

「荷運び……」

「少しは役に立ってもらわないと、借金ばかり増えますよぉ?」


「あたしも? なんであたしまで、荷運びなのよっ!」

「そんなの、無能だからに決まってるでしょ? あんたみたいになんの役にも立たない冒険者、本当に珍しいわ」


「ホントですよぅ。なんで、カースになんて来たんですか? ここら辺では銀段三位程度じゃ、仕事なんかありませんよ?」

「お、俺達は……迷宮に……」

「実力不足な冒険者に、迷宮探掘の許可は出せませんよぅ。迷宮に入れるのは、銀段二位以上です!」

「あら、良かったじゃない。迷宮に入れるわよ? 『荷運び』として」

「組合からの雑用なので、うまく最下層に辿り着いても『踏破証明』は出ませんけど。連団の人より先に戻ったりしたら罰則の対象になりますから、頑張ってくださいねぇ?」


「あ、あたし達が……なんでっ!」

「そうだ、無能だなどと言われる筋合いはない。ガイエスじゃあるまいし」

「止めてよ! あんなのと一緒にしないで!」



「あんた達、ちょっと聞きたいんだけど」

「なんだ……?」

「リーチェスって奴、一緒じゃなかったか?」

「……! し、知らないわよっ!」


「あ、あいつとは……意見が合わなくて、途中で別れた」

「そうか……どこで別れた?」

「イスグロリエストに着いてすぐよ!」


「あれ? どうかしたんですか? ミトカさん」

「衛兵団に話を聞いて、俺の探している奴を知っているはずだと思ったんだが。一緒じゃないなら……いい」

「ミトカさん、指名依頼、入ってますけどどうなさいます?」

「ああ、受けるよ。悪かったな、引き留めて」

「いや……」


「あっ! そうだ、ミトカさん帰化したんすよね? おめでとうございます! 金段冒険者の帰化は大歓迎ですよ!」

「ああ、ありがとうな。指名依頼ってこれか」

「ちょっと、東の方なんですけど……」

「いいよ。今は、この辺に入りたい迷宮もないし」

「助かりますー! やっぱり、優秀な方は行動力がありますねぇ」



「……あんな若造が……金段?」

「絶対に、裏で何かやってるのよ! そうじゃなきゃ……あり得ないわっ!」


「おいっ、荷物運び! 早くしろよ!」

「今、行くわよ」

「あ? おいおい、おまえみたいなのが荷運びか?」

(ほら、やっぱりあたしは、そんな仕事させるようには見えないって事よね)


「こんななんの役にも立たねぇ奴が、荷運びなんかできるわけねぇだろうが! いらねぇよ、こんなの!」

「え……?」

「えぇーー? まぁ、確かに信じられないくらい無能ですけど……荷物くらいは持てますよー?」

「邪魔、邪魔! こんな奴、誰が連れて行くんだよ! 足手まといなんてもんじゃねぇ! そっちの、デカイ男だけでいい!」

「しょうがないなぁ……じゃあ、酒場と宿屋の床磨きですね、あとは」



「くすくす」

「なぁに、あの子。冒険者の仕事に『床磨き』なんてあったかしら?」

「恥ずかしいー。ああはならないように、ちゃんと段位をあげなくっちゃねぇ」

「みっともねぇな」

「育成中の迷宮の中で死んだ方が、よっぽど役に立つんじゃねぇのか?」



(ひ、ひどい……酷いっ! なんであたしばっかり、こんな目に遭うのよ!)

(絶対に俺の実力を認めさせてやる……! その前に……金をどうにかせんと……)



(くっそ、これ以上こんな奴等と一緒にいたら俺まで……あの時、助けねぇでひとりでトンズラすりゃよかったぜ! こいつ等といた方が少しは金になるかと思ったけど、とんだ誤算だった!)

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