第7話 ナフトル村へ-1
それから暫くは森で『炎熱の方陣』の練習を兼ねて、食肉獣狩りの依頼を受け続けた。
残念ながら今の俺では、炎の大きさや熱の高さは操れなかった。
手袋に方陣を描き、指で目標を示して放つのだが、その指を魔法が発動している時に動かすと、その方向へ炎も一緒に動いていくことが解った。
これは、今までのどの火炎系魔法でも見られなかった特徴だ。
だいたい、炎は指で指定したからと言って、指先から出ているわけではない、
指先に集めた魔力が炎に変わり、それを飛ばす……というのが一般的だ。
方陣の魔法の場合も、その辺は変わらないようだ。
その指先に集める魔力量を増やすと魔法の規模が大きくなるから、炎が走っていくように見えるが基本は同じである。
そして一度放った炎の方向を変えるには、その炎に干渉できる別の魔法を発動するしかない。
だが、そんなことをしてまで行く先を変えるくらいなら、もう一度別方向を指定して炎魔法を放った方がはるかに早くて確実だ。
しかし、俺の手に入れた『炎熱の方陣』だと、魔力を溜めた所から炎が目標に向かって一直線に走る課程で方向転換ができるのである。
まるで炎の鞭のように、手元から伸びる炎を操れるのだ。
ただ、それを続けて繰り出すには、少々使用魔力量が多過ぎる。
一回の攻撃では五十程度だが、鞭にすると使用時間により三百から七百くらい持っていかれてしまう。
長時間の戦闘では使えないし、魔石があるか魔力回復の手立てがない場合には使わない方がいい。
狩りと練習を終え、冒険者組合に獲物を持って達成報告に来た。
そろそろ、別の町に向かって旅立ってもいいかもしれない。
ひとりだとこんなに稼げるってことは……今まで俺は、どれほど搾取されていたのだろうか……
「毎日お疲れさん。最近獲物の状態が良いみたいだが、コツでも掴んだか?」
「ああ、毎日同じ獣相手だと、ちょっとは上達するみたいだな」
獲物は基本的に剣で倒しているが、炎熱魔法で牽制や誘導ができるようになったから効果的に狩りができているのである。
金を受け取って戻ろうとした時、突然、大声が聞こえた。
依頼受け付けの窓口で揉めているみたいだ。
「だから! 討伐だけじゃなくって、迷宮を閉じて欲しいんです!」
「あんたのいうここ十年くらいのものだとしたら、まだろくな魔具もないから、依頼はできないんだよ」
「魔具が溜まるほど、魔獣が強大になるまで待てって言うの? その前にうちの村が全滅してしまうわ!」
「……だったら、避難するか移住すればいいだろう?」
「畑を放り出して、どこに行けって言うのよ!」
なるほど、村の近場で迷宮が育ち始めちまったってことか。
別に冒険者じゃなければ、迷宮に入ってはいけないという決まりはない。
身の危険があるというなら、自分たちで迷宮に入って討伐したっていいんだ。
ましてや、育っていない少ない階層の迷宮だとしたら、その方が手っ取り早いし安く上がるだろう。
そもそも『迷宮』というのは、魔獣や魔虫が作るものである。
地中に大きな魔力を帯びている何かが埋まっていて、その魔力を求めて魔獣達が蟻の巣のように迷宮を作り上げる。
初めは小さい魔虫から少しずつ大きな魔獣へと出入りする魔獣が変化し、種類も数も増えていく。
魔獣が溜まるとまた魔力が溜まりだし、更に大きな者達が集まり始め、どんどんと迷宮は時間が経つごとに複雑に、広くなっていく。
魔獣には自分たちが集めた『魔具』を迷宮に隠す習性があるので、多くの魔獣が集まれば迷宮内に魔具が増える。
その魔具が迷宮の魔力を吸い上げて強くなり、更に大量の魔力を保持するようになる。
そして最奥の『一番初めの魔力溜まり』……つまり『核』の魔力は大きくなり続け、迷宮が踏破され取り出されなければ魔獣達は途轍もなく強くなっていく。
冒険者達がある程度育ってからの迷宮に入るのは、強い魔力を持つ魔具を手に入れるためであり、強い魔獣が隠し持つ魔具を奪うためだ。
だから、十年かそこらの『できたて迷宮』になど、冒険者は誰も入らない。
しかし人里近くの迷宮だと、早いうちに魔力溜まりを散らさないと魔物に村が襲われる危険が出てくる。
それでも、冒険者はその迷宮を閉じてしまうようなことはしないだろう。
冒険者は……救済者ではないから。
だが、これは……逆に俺にとっては都合がいいかもしれない。
俺は受付で全く取り合ってもらえず、結局依頼を出さずに帰っていくその娘の後を追いかけた。
「おい、待ってくれ。あんた、村の近くに迷宮ができたって聞こえたんだが……」
突然声をかけた俺にびくっとして振り返ったその娘は、まだ成人したばかりくらいの幼さの残る顔立ちをしていた。
なんでこんな娘が?
依頼に来るなら村長とか、大人の誰かなんじゃないのか?
「あなた……冒険者なの?」
「ああ、今ちょっと小耳に挟んで。もしよければ、状況を教えてくれないか?」
「……! 迷宮を閉じてくれるの?」
「まだできるかどうか解らない。話を聞いてから決めるよ」
俺はその娘と話をすべく、一度宿屋へと戻ることにした。
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