第6.5話 

「……本当に、全く魔獣がいないんだなぁ」

「信じられないわ。街道でも町でも、帯刀しているのは衛兵ぐらいじゃない」

「冒険者も……殆どいないな」


「なんだとっ! なんでないんだよ!」

「どうしたんだリーチェス」

「ロンデェエスト領内じゃ、殆どの町に冒険者組合がないとかぬかしやがる!」

「はぁ?」

「じゃ、どーやって魔獣を……あ、いねぇのか、魔獣……」


「迷宮もないのよね、この国」

「信じられん。だが、これでは仕事が全くないということではないのか?」

「ああ! 何ひとつない! くそっ、おいっ! なんか売れるもの、持ってねぇのかよ?」


「……もう、ないわよ」

「この国じゃ女も売れないしな」

「おい、そういうことを言うな、リーチェス」

「ふんっ」


(最近何でこうもついてねぇんだ? 以前は歩いているだけで、薬草や売れる獣なんかが手に入っていたのに……馬車移動のせいか? くそっ、これじゃこいつらと連んでいる旨味もねぇや)


「兎に角、宿に戻りましょう。なるべく早く、ヘストレスティアへ移動する方法を考えなくちゃ」



コン、コン、コン。

「うるせぇ」

「……入るわよ、リーチェス」

「許可してねぇぞ」

「まだ、あたしはあんたの『賤棄』じゃないわ」


「ばーか。俺がおまえの書いた『これ』を教会に出しさえすれば、すぐにでもそうなるんだ。俺の言うことに逆らうなら……ただじゃおかねぇ」

「もう、いいでしょ。契約は終わったんだから、返してよ」

「……」


「あんただって、マグレットを売り飛ばしたがっていたじゃない! あたしにその話を持って来たのはあんたなんだから、もう……!」

「返した途端に、俺を裏切らねぇとも限らないからなぁ」

「そんな事しないわ。絶対に!」

「信じられるか。嘘つき性悪女が」


「あたしを……どうするつもりなの?」

「ふん、安心しろよ。俺はおまえみたいなつまらねぇ身体も、底意地悪い歪な顔も大っ嫌いだし、小汚い使い古しに『入れて』やるほど優しくもない。精々ぶん殴ったり、蹴り飛ばして憂さ晴らしする程度だ」

「………!」



(ふぅん……やっぱりなぁ。ナスティひとりであんな容赦ないこと、できる訳ないと思ったんだよな。こりゃ、早いところこいつ等と離れた方がいいのかもしれないけど……この国じゃ……ヘストレスティアに着くまでの辛抱だな。あの女が逃げ出さないように注意しなくちゃ。こっちにお鉢が回ってきたら堪らねぇ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る