第2話 裏切りで始まるひとり旅-2

 すっかり誰も信用できなくなって落ち込んでいた俺だったが、その日はなんとか安宿を見つけることができた。

 これからどうするかと思案したが、誰かと組んだところで結局お荷物扱いされるのだろう。

 ならば、ひとりでどこまでできるか、やってみるのもいいかもしれない。


 ダメだったら、その時は仕方ない。

 田舎に引っ込んでぼんやり暮らすか、死ぬだけだ。

 冒険者なんてそんなものだ。

 ……なんでだろう。

 落ち込んではいるが、悲しさとか悔しさなんてものは感じていない。

 俺も……あいつらのことは、なんとも思っていなかったんだろうな。


 気を取り直し、冒険者組合に行ってひとりででもできる仕事を探す。

 金は……少しはあるが、旅の路銀としては心許ない。

【収納魔法】で持っていた物まではなくなってはいないが、容量のこともあって大した物は持っていないので売れるほどの物はない。


 売れる物っていうのは、もの凄く手の込んだ工芸品とか業物の武器とか。

 もしくは、迷宮から持ち帰った『迷宮品』と呼ばれる魔具だ。

 あいつ等は……ストレステに行くって言っていた。

 迷宮が目当てだろう。


 迷宮には、俺も憧れがある。

 未知の魔具を探掘し、強い魔獣を狩り、金と賞賛を得る。

 迷宮に行きたがらない冒険者の方が少ないだろう。


 そう思いながら冒険者組合の依頼掲示板を見ていると、なんとか俺でもできそうな家畜番の依頼があったので受けることにした。

 夜通し番だが、昼間に眠れる小部屋と二食付きで期間が十日ほどだ。

 出荷までの間、大型の獣や盗人から守って欲しいってことだろう。

 報酬もそんなに悪くないのに、引き受ける奴がいないのはこの辺りでは毒持ちの獣が多く出るからだ。


 だが、俺には毒を消せる魔法がある。

 大概の奴は、一属性か二属性しか魔法は使えない。

 でも俺の魔法【方陣魔法】は、方陣を使えば全ての属性の魔法が発動できる。

 それが俺の唯一の取り柄だ。


【方陣魔法】は『方陣』と呼ばれる『図』を描くことで発動する魔法だ。

 火・水・風・土などの色相魔法も、回復も、毒消しも、難しいと言われる【耐性魔法】や【空間魔法】ですらその『方陣』さえ描ければ使えるのだ。


 ただし……今の俺はまだ使える方陣が多くはないし、発動できる魔法もさほど強くない。

 しかも、俺の魔法段位のせいか、事前に準備していなければ発動まで時間が掛かる。

 俺の【方陣魔法】の段位は、まだ第三位。

 大して使っていないからか、成人した時から殆ど上がっていない。


 そして、大きく開けた場所や、野外では俺の魔法は攻撃に向かないものばかりだ。

 現在、使えるものは支援系ばかりないせいもあって、攻撃に参加しているようにすら見えない。

 でもなぁ……俺の魔法は、迷宮でこそ役に立つ自信があるんだがなぁ……


「段位を上げることが、最優先だな。魔法は積極的に使っていこう」


 魔法を使えば使うほど、魔力総量と使用した魔法の段位が上がる。

 今でも魔力量は少なくはないはずだが、予め準備をしていない場合【方陣魔法】はかなり魔力を要するものが多いから増やすことは必要だ。


 俺がこの魔法を使えるようになったのは三年前の成人の儀の後だし、すぐに冒険者としてその町を出てしまった。

 冒険者として役に立つのは、やはり剣を使う戦闘方法だ。


 冒険者になりたての頃は剣ばかりだったが、剣技は技能があるにもかかわらず殆ど伸びていない。

 そして、連団で戦闘系の依頼を受けるようになってからも、団員達の支援くらいだったから剣技能も全然上がっていない。


 しかし、ひとりになったのであれば魔法の方が有効だ。

 広範囲に使える魔法だって、魔力量と段位が上がれば何回も使える。

 ひとりでだって戦えるように、戦闘の型を変えて行かなくては。

 正直、連団はもう懲り懲りだ。



 再出発だ。

 俺は最高の『魔法剣士』になって、ひとりでも迷宮踏破してやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る