霊山
1. ある日、生贄になる (1日目)
※この1はエグい描写が多少あります。お食事中でしたら飛ばしてください。
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まずは
欲を言えば、痛みなく死にたいのだが、物資の限られた現状では難問である。はてさて困ったクマった。
目を開けたら重厚な石造りの巨大な密室。
薄っすらと光る魔法陣もどきの真ん中で
一段高い中央で
大型
左右には、男が三人ずつ立っていた。
オウムの
傍に控える陰気な痩せ中年は、使いっパシリなのかな。オウム老人とは逆に、特徴の抜け落ちたチンアナゴみたいなぬぼ~とした顔と、
いかつい体格だが完全になで肩というゴマフアザラシ老人もいる。髪も
アンタは一昔前のホストですか、と突っ込みたくなるようなチャラい兄ちゃんもいた。センター分けした髪はチャドクガの雌のような黄色だけど、その下の濃い眉も、くるくる
……オシャレは細部に宿ると私は思う。手抜きせずにちゃんと染めようよ。
あとは、ニヤついたちょい悪オヤジ。過疎地のさびれた農場で、人生諦めきったメンドリ数羽を従えて、お山の大将してるオンドリと言うべきか。
でっぷりお腹の中年男は、全体的に油ギッシュなのに、なぜかおかっぱ頭だけはサラサラの爽やか路線。
――手がワキワキするっ。
以上、目の前には成人した女一人と男六人。
武術経験ゼロな私が体当たりしたとして、勝てる予感は
身に付けている装飾品が趣味はさておき無駄に高そうだし、ふんぞり返るのが妙に板についているし……こりゃ世界を
紋章とかあったら貴族の可能性が高いのだろうけど、皆がゴテゴテと付けている指輪の飾りまでは特定できない。
ま、スクールリングとかクラブリングなんかの可能性もあるが、この部屋から逃げおおせても使用人なり従業員なりが、わらわら追いかけてきそう。
とりあえず私がしゃがみ込んでいる魔法陣らしき円の中には誰も入ってこないので、ちょっくら周囲の内装も観察する。
ここは……四方ぐるりと窓ないなぁ。外の景色がちっとも見えない。大英博物館でも人があまり集まらない寂れた一室を思い出した。
古代の空気がひたひたと、どこかに隠したミイラの
大理石はどこにも使われていないから、イタリアっぽさはない。ゴテゴテと彫刻された装飾柱もないし、男女共に長身だし、ヨーロッパの北のほうだろうか。
パチパチと木のはぜる音が室内に響いてる。
主な照明は、魔法陣を囲む銀の
男女の後方には、金の枝つき
こうして部屋の上部をこっそり観察し終え、首を伸ばして魔法陣の向こう、数段下の床を
子どもっ! 死体! しかも何体もっ!
なんか見ちゃいけないものが横たわってる。一、二、三……六体も、お腹を引き裂かれて一糸まとわぬ姿で死んでいた。
真ん中の遺体だけはフリルのドレスを着せられていたけど、大きなナイフが心臓にでかでかと突き刺さっている。
おまけに違和感が拭えない。だって、どの子も肌が異様な土気色なのだ。しかも
遺体の傍に並べられた豪勢な金細工のゴブレットの下は、赤黒い
――うげぇ、この人達、血を
私は恐怖を通り越して、すっかり
ケダモノどもの服装は、頭からすっぽり被るフードとケープつき白ローブ。複雑な
肌の色もペイントしたみたいに薄青っぽかったり、紫がかって見えてしまう。照明のせいだと思うのだけど、オンドリ中年なんて、アニメとかで絶対改心しそうにない赤鬼ゴブリン色だよ。
てことは、私は秘密結社に召喚された“悪魔”ってことなのかな?
うおおう。脳内でヴァーチャル
さっきから残念
もしかして、あの超独特なフィンランド語なの? でも北欧系の人なら英語得意だよね、
情報は欲しいが、こっちから話しかけて友好関係を築く気はミジンコもないので、向こうが落ちつくのを待つことにした。
わたしゃあんた達と
普段であれば教科書やノートが所狭しと詰まったリュックは、今日は羽が生えたように軽い。
オレンジ色パーカーも、普段あまり着ないスポーツ仕様の化繊素材。登山靴は、ターコイズブルーとマゼンダピンクの二色使いの生地に、蛍光イエローの編み
だって私、一年ぶりに山に登ってたんだもの。それがなんでこーなった。
高校卒業記念で超久しぶりに日本に帰国して、おじいちゃんの家でおじいちゃんの仏壇にお線香あげて、ついでに一年前におじいちゃんの遺言で遺灰を
朝になって、登山口手前にある神社の里宮で
疲れて鳥居の傍にしゃがみ込んだら急に暗転して、禍々しく
~~~~って、ワケわからん! 悪魔崇拝の召喚儀式なんざ、夢でも嫌だーっ!
心の中で絶叫していたら、背後が急に開いた。さっきまで石壁に見えていたのに、いつの間にやら巨大扉が観音開き。何これ、ホログラム?
どぉん! という
≪ワタリビト!≫
いきなり頭の中に拡声器でシャウトされたかのような大音量が響き渡る。えーと、これってさっきから何たらかんたらくっちゃべってた残念美女の声だよね。なんで脳内?
≪クエ!≫
≪ヤクソク!≫
≪イクサ、コロセ!≫
今度は男どもの声。それぞれが一斉に私の頭の中で叫ぶものだから、キンキンする。言葉が強引にぐりぐり脳みそに
≪え、渡り人? わぁ、ホントだ! うっそぉ……≫
小さな男の子の声。同じく脳内に直接入ってくるのだけど、やっとまともな音量だった。
横手に置いていた藍色一色の大きなリュックサックをお腹に抱え直しながら、私はおずおずと顔を上げる。残念
≪え、でもホントにホント? きみって別の世界から来ちゃったの? ど、どうして?!≫
それな。私のほうが
でかい図体に似合わず、ピュアな声音の
背中の大きな羽をバサバサさせながら、小刻みに身体全体を揺らしている爬虫類。後ろ脚がひょこひょこ動いてて可愛いぞ。ついでに尻尾もぱこぱこ地面を
全身を
目はくりくりまん丸であんなに愛くるしいのに、なんだかとっても不安げ。
≪で、でも、ボクは人間食べないよ? ……もしかして、ボクが餌を吐きまくったせい?! うわぁぁぁっどおしよおっ、こわいよぉぉぉっ≫
まずは落ち着け。人間なんて丸っとプチっと踏み潰せそうなそこの巨大怪獣!
私は
あー、なるほどね。ティラノサウルスとか、あんな見事な羽しょってないもんね。頭に角二本生やしてるのは東洋の
などと完全に感性が
地球製のリュックサックに抱きついたまま恐怖で固まっていると、ぽんっと手の中に
握り潰さないように手の中にスペース空けてくれてるみたいなんだけど、そのせいで四方八方ゴロゴロ転がっては体を打ちつけてしまう。
い、痛い! き、気持ち悪い! 吐く! ヤダ何これ!
もうどっちが上でどっちが下なのかも判らない。おまけにふわんっふわんっと浮き沈みを繰り返すものだから、嵐の中で大波にでも
このままだと胃の中が絶対に逆流する。あるいはこの鋭利な爪にうっかりぶっすり突き刺さるのが先かも。
超怖い。もうムリ!
竜の指の隙間から、冷たい風が情け容赦なく
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※しょっぱなからエグい描写で申し訳ございません。でも、時空間を超えて生命体を召喚したがるような人達って、このくらいは一線越えちゃってる気がします。
次からは、ほのぼのもふもふライフへ進んで行きます。基本、ゆるかわ路線です。ここまででお見捨てなきよう、何卒お願いします。
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