2. 夜、月を眺める
あー。お星様がきれいだわ。
意識を取り戻した私は、地面に大の字で寝っ転がったまま、夜空を眺めていた。あっちこっち、やけに明るい星がキラキラ光っている。
あれって
数メートル先の周囲には背の高い針葉樹がうっそうと茂っているのに、私が寝かされた場所だけは草もほとんど生えていない。細かい砂利石が散らばる固い土の感触が、ひんやりしていて気持ちいい。
でも。異世界なんだよねー。
ふう、と
――地球だったら、どこから空眺めたって、お月様が四つってことはないと思うわけ。
なんかおかしいよね、ここ。電灯が一つも無いのに周囲が明るい。月光のせいだ。
ラベンダーのような薄紫の月に、レモンみたいな黄色の月。
何度数えても四つあるよ。……ははは。泣きたい。四つめでたく踊るぽんぽこりんだ。……私、ヤサグレていいですか。
あ、いや。現代科学が感知してないだけで、地球からも四つの衛星が見えた時代があるのかもしれない。うんと遠い過去とか、うんと遠い未来とか。……って結局、別の世界と同じことじゃん。
どこまで歩いたって、おじいちゃん家には戻れないよ。
人間って落ち込んで底の底まで到達してしまうと、もはや何も感じないのかな。悲しみも絶望も怒りも湧いてこない。私、もうどうでもいいや。
このままここに寝っ転がって、『
うむ。断食は何回かやっているし、食べないことは苦手じゃない。時々うちの親が食事とか食事代とか食糧とか用意し忘れることあるから、だいぶ慣れた。
ぽとん!
「うきょっ!」
何かが急に飛んできて、鼻先に着地した。びっくりして手で払うと、それは
痛みで
……そうだ、スマホ!
両手で踏ん張って、ちょん、と丁寧に置かれたリュックのところまで根性で移動する。でももう痛くて無理。右腕を精一杯伸ばしてリュックの端を
おおう、貴方は黄色い天道虫さんでしたか。背中のチャームポイントは
リュック上の
一応電源は入るみたいである。でも電波届いてない。
そらそーだ。いくら携帯電話が地球を席巻しつつあるといっても、月が四つ見えるとこに基地局立ってる気が
ふたたび
……そのほうがいいよね?
と
現実逃避の一種なのか、感情のバロメーターがおかしくなってる。がっくり項垂れながら、スマホをリュックのサイドポケットに戻す……のも、紛失盗難の可能性を考えてよそう。
ミーシュカ! ……
私は25cmほどの熊のぬいぐるみを取り出し、ぎゅぎゅぎゅっと抱きしめる。
誇らしげに首に巻かれた
しかもこの子、動かすと不思議な音がするでしょ。5cm大のガムランボールが心臓の位置に入っているのだよ。
六年前のクリスマス、おじいちゃんと一緒に私を訪ねてきたときは
月が四つあろうが、携帯の電波が届かなかろうが、ミーシュカと離れ離れになっていないのなら
私は愛熊の頭をなでなでしながら、夢オチかもしれない今日の奇怪な出来事をつぶさに語り聞かせようとした。
……んだけど、寒い! ここって何月よ?
これだけ立派な針葉樹林、冬の間は雪がたっぷり積るんじゃなかろうか。なんで熱帯雨林な世界にトリップしないのかね、私は。まぁでも、そうなったら今度は原因不明のウィルスとか熱病で、すぐあの世にスライド移動しそうなんだけど。
風邪もしょっちゅう引く虚弱体質だし、万年インドア派の本の虫だし……うん、未知の世界で
仕方ない。名残惜しいが、ミーシュカには隣で座って一時待機をお願いしよう。
リュックから薄手のカーディガンと木綿のスカーフを引っ張り出し、今まで羽織っていた化繊のパーカーの下に着込む。下半身は同じく化繊のストレッチ・ジーンズと登山用と言えなくもない厚手の靴下に、がっしりした登山靴だから多少は寒さをしのげるだろう。
あ、そういえば化繊のミニ巻きスカートも入れてたよね。お尻がかなり痛いんだけど動かせるかな。はりきって買い込んだ登山グッズ、いろいろと無駄に放り込んでおいて良かった。
寝転がっているんだか、上半身ちゃんと起こしているんだか、よく解らない芋虫さん体勢で、巻きスカートをもぞもぞと腰に装着する。
……ふむ。これで多少は温かくなった。……なるはずだ、心頭滅却すれば、たぶん?
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※少しも、という意味の「
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