第3話 ネギ爺と温泉旅館高校 1
エレン先輩と別れた私は、2年生の自分の教室へと足を運んだ。
始業時間にはまだ早く、今のこの教室は誰もいない私だけの空間だ。
廊下も教室も老朽化が進んでいて、歩く度に、ミシッ、ミシッと床が泣く。
軋み音をBGMに窓際の席まで歩き座る。
カバン代わりのリュックサックを机に置いた。
さて、暇な時間をどう過ごすか?
教室にはスマホ持ち込み禁止のルールがある。故にやる事といえば、予習かボケーっとするかの2択だが、私は勉強が実に嫌いだ。選択の余地はないか――。
じゃあ――外の景色でもと、窓に目を遣る。
しかしそこには多少、端々に木々が見えるが全体的に真っ白な風景。そう、ここは山中である。山の景色は変わりやすいのだ。
まあ晴れていても基本、天気は悪い。今日は特に悪天候である。
真っ白景色を眺めること数10分。そろそろどこかの園児アニメキャラクター、ボーちゃんになりかけた時、後方から床の軋む音が響いた。
「おや、感心だね。夕日さんかな?」
音の発生源から声がかかる。
振り返らなくともわかる。
落ち着いた伸びのある低音ボイス、ネギ爺である。
学校には住み込みで働く教師が2人いる。1人は、たま姉。もう1人がこの教師、ネギ爺だ。
ネギ爺は、この温泉旅館高校の支部総責任者で、普通高校でいえば校長先生の役職に該当する。
白髪頭に細いフレームの眼鏡を乗っけているオシャレさんだ。
「始業時間前に来る。立派な心がけだね」
「あっ、いえ、そんなことないです」
たまたま早く来たことは黙っておこう――。
ネギ爺は、教卓に学生風の革鞄をコトンッと置いた。
「霧が濃いですね。悪天候で気温が低い。今日はストーブが必要ですね」
校舎はボロいが、エアコンはしっかりと完備されている。ちなみにエアコンは旧式ではあるが、ここ数年前の型である。
ネギ爺はリモコンを取ると、スイッチオン。エアコンを稼動させた。
「夕日さんは、寒くなかったですか?」
「あっ、はい、平気でした」
質問されて、寒さにに気が付いた。
先程までは、たま姉の月見うどんの温かさがお腹に残っていた。そのせいか、寒さに疎くなっていたようだ。
「そうですか。ならいいですが、エアコンは誰がつけても構いません。寒かったり、暑かったりしたら、我慢せずにつけてくださいね」
優しい瞳でこちらを見るネギ爺の視線。
温もりがあって仄かな癒やしを感じさせる。
冬になるとやってくるサンタクロースがネギ爺だったらいいなあ。プレゼントは貰えるし、視線に癒されるし、ちょっと恋しちゃうかも――。
うっとりしてると、ネギ爺が首を傾げた。私は慌てて妄想世界から現実世界へと出張していた意識を帰宅させた。
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