第2話 たま姉
温泉旅館高校には、二人の教師が住み込みで勤務している。そのうちの一人が、女教師たま姉だ。
たま姉は教師兼学食の料理長である。
丸眼鏡をかけていて、大福のような丸顔。ふっくらとした体躯。一見、幼く感じる容姿をしているが年齢は28歳。しっかりとした大人である。
古びた校舎の1階、学食に私とエレン先輩は到着。
「あ、エレンちゃんと夕日ちゃん。おはようさん。今、盛り付けるわね〜」
学食といっても出てくるのは、たま姉の手料理である。
はいっ。と、プレートに乗って出てきたのは月見うどん、ホットカフェオレ、エビとカボチャの天ぷら。
「今日のメニューは、月見うどんセットでぇーす」
たま姉は腰に手を当て、得意気にそう言った。
『『ありがとうございます』』
2人で感謝の言葉。が、しかし・・・。
う〜ん、違和感――。
私が首を傾げていると、エレン先輩は表情ひとつ変えることなくテーブルにプレートを運んで行く。
私も遅ればせながら、エレン先輩の行動履歴をなぞった。
テーブルにプレート置き、椅子に腰掛ける。
パチリッとウインクするエレン先輩。
それにときめながら私はエレン先輩にならって、頂きますを口にした。
たま姉は料理が大得意。食べれば、必然的に美味しいを異口同音に唱えてしまう。だが、うどんにカフェオレというのは如何なものか――。
そんな小さな疑問を読みとったのか、エレン先輩が口を開いた。
「取り合わせ、少し変わってるわよね。たま姉って頑張り過ぎ屋さんだから、周りが見えにくいんだよね。まあ、そこが可愛くていいじゃない?」
「はあ、まあ私も可愛いいと思いますけど」
「でしょー。料理だって一生懸命やってるって伝わってくるでしょ。人ってさ、頑張ってるとこ、見せた方がいいんだよね。誰かが頑張ってると、自分もしっかりしなきゃって思えるでしょ。でもさ、たま姉はあんな大きな丸眼鏡かけてるのに周りが見えてないっていうのは面白いわよね」
フフッと笑うエレン先輩は、やはり女子高生には見えない。大人の自立した女子感が強い。
「エレン先輩は凄いです」
「えっ?」
不意に口から出た言葉。私はエレン先輩に、心底憧れているのだと確信した。
うどんを汁まで飲み干し、最後にカフェオレを喉に流し込むと、エレン先輩の
「じゃあ、そろそろ行きましょっ」
の号令で私達は席を立った。
プレートを返して、たま姉にごちそうさまを言うと、他の生徒が来る前に学食を後にした。
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