ストレスペイシェントは温泉旅館高校にやって来る
村雨流仁
第1話 温泉旅館高校
鳥のさえずりが耳をたたくと、そのさえずりは私の脳細胞を目覚めさせてくれる。
この学校に入ったばかりの頃はうるさいと感じていた。だが、1年も聞いていれば慣れてくるもので今やなくてはならない自然の目覚ましだ。
私こと美系?女子高生、登上夕日(とじょうゆうひ)16歳の1日の始まりである。
高校は全寮制で、1人に1部屋が与えられている。
広さは六畳一間。そこにベッドとタンス、机が配置されている。
まあ私には丁度いい部屋だ。
この学校は特殊な高校で旅館業務を実践的に学べる温泉旅館高校である。
温泉旅館業務実践は午後1時に始まる。それまで、午前は普通高校の授業を受ける。
最低限度の知識もあった方が良いということなんだろうけど、正直、勉強もテストも苦手だ。あんまり頭はよくないのだ。面倒くさいな――。
ベッドから起きると、窓を開け放つ。
春とはいえ、山はまだ寒い。
実はこの学校、山中の何処かにある。
何処かというのも私達生徒は学校の所在地を把握していないのだ。
この学校はある意味、幻の学校であり温泉旅館である。
なにかしらの神が人が簡単には来れないようにと移動を繰り返しさせているらしいのだ。教師らに質問したが、移動するのは事実だが、現在の所在地や移動の頻度も規則性もわからない――。というのが彼らの解答だった。それからはもうこの話題に触れていない。
この山は群馬県のやや北部にある。三角の形をしていて三角山と呼ばれている。
この山中を学校と旅館は移動を共にする。
山中の何処かに古びた趣きある旅館があり、旅館の裏手には年季のはいった木造校舎と寮がある。寮は、入口の摺りガラスの引き戸を開けると左通路を進むと男子寮、右通路を進むと女子寮になっている。
入浴室はなく、お客様がいない時間に旅館の温泉に入浴することを許されている。
私の住処は、1番奥の部屋。窓を開けると、樹齢数百年の大木を目にすることができる。
手を合わせ、今日の無事を願う。習慣化された行動である。ちなみにこの大木も学校と旅館と共に移動をするようだ。
窓を閉め、学制服に着替える。これから学食まで行って朝食を食べなければ、
腹ペコだ――。
部屋の壁に埋め込まれた姿見に目を遣る。
まあまあの美人女子高生が映っている。
背は高くもなく低くもなく、髪は長くも短くもない。足はきれいでやや長い。うん、長い、確かに長い足だ、うん、うん――。
胸はまあまあ、いや確かにある・・・しっかりある、うん、立派に――。
「夕日ちゃん、学食、一緒に行かない?」
突然の背後からの声に驚き、裏返ったような奇妙な声で返事をしてしまった。
姿見の小さなむ、いやいや、確かにある胸に夢中だったために部屋の戸がノックされたのも開いたのにも気付けなかった。
全くもって罪な胸だ――。
声の主は憧憬の的、エレン先輩だ。
エレン先輩は、日本とドイツのハーフ。
よくハーフは美しい顔で生まれてくるといわれるが、エレン先輩はまさにそれである。
眉目秀麗でスタイル抜群。その上、上品で優しいときてる。私だけでなく、誰もが憧れる存在に違いない。
まあ外見は絶世の美女で女子高生には見えない。24歳位の容姿の女性だ。大人?いやいや、老化だ。老化に違いない。うん、きっと――。
「なぁにぃ?取り込み中だったぁ?」
「いっ、いえ、何も・・・」
両手を顔の前でフリフリさせて弁解するかのような態度で答えてしまった。
「何だか、怪しいわね」
「いや、何もないですよ」
エレン先輩は鋭い人だ。心を読まれたのかと思った。はぁ、びっくりした――。
「夕日ちゃんてさ、時々、心がどこかに出張しちゃってるよね。気を付けないとね」
ご指摘、染みます。私はエレン先輩に敬礼をしつつ、はいっ。と返事をした。
「夕日ちゃん、おもしろ〜い」
エレン先輩は笑顔でそう言った。
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