第2話
目が覚めるとよくわからない場所に居た。
「最近これ多いなぁ」
「ん? 目が覚めたか」
「うぉっびっくりした。そんな部屋の隅っこでなにやってんだよ」
「そろそろ目が覚める時間だと思ってな、待っていたら寝てしまっていた」
「ところで、俺はなんでこんな立派な部屋にいるんだ?」
目が覚めると、どこかの貴族が寝ていてもおかしくない、それほど豪華な部屋で俺は眠っていた。
「その前に私は君に謝らねばいけない。私達は自らの私利私欲の為に君を拉致監禁し、耐え難いほどの苦痛を君に与えてしまった。いくら、王の命令といえども私達は逆らうべきだった。すまなかった」
グレブはそう言うと深く俺に頭を下げた。
「そのことなら、ジェイクに免じて許してやるよ。 それにお前はどちらかと言えば俺の脱走に協力してくれてた側だろ?感謝はすれど恨みはしねぇよ」
「ありがとう」
ジェイクは最後にグレブの元に行けといった。だからグレブは俺の味方だったんだろう。
あれ、そういえばジェイクは? ここで俺が起きるのを待っているとしたらそれはグレブじゃなくジェイクのはずだ。
グレブは将軍だからきっと忙しい。
今はただの教師のジェイクが待っているのが妥当だと思った。
そのことをグレブに尋ねるとグレブは少し驚いた顔をして、フォスを探しに旅に出たと言った。
どこに行ったのかもわからないらしい。
俺にも思うところはあった。連れていってほしかっただとか、一言欲しかっただとか。
だけど俺が着いて行ったところで足手まといにしかならないし、俺が目覚めるのを待っていたらフォスを追う手掛かりが無くなってしまうだとかを考えて胸にしまいこんだ。
「さて、君はこれからどうする? できることなら我々帝国はできる限り君を援助しよう。
今までの贖罪とまではいかないが、君の望むことを最大限協力しよう」
ああ、そういえば、これからどうしたらいいんだろう。
☆☆☆
私は今まで救う側だった。それはきっとこれからも変わらない。
だけど、今まで救って来たんだ。だから私も少しは、少しくらいは救われてもいいよね?
今日は最悪だ。善き王であろうとした人を殺さなくてはならない。
今まで鬼に成った者を何人も殺して、その苦痛から解放してきた。
まさか、王が鬼と成っているとは思わなかった。
鬼に成った理由は知らない。きっと余程のことがあったのだろう。
鬼に成る者は決まって心が傷つき、歪み、壊れている。
傷つき、歪んだ心を正すなんて、普通の人間では無理だ。人間離れした精神力があれば
或いは、と言ったところか。
その点に置いて、王もまた、普通の人間だった。
今では王国を滅ぼすことしか考えられない。
今その憎しみから解放してあげる。
だがどうしてだろう。そうしなければならないのはわかっている。わかっているのだけれど、この身体は動こうとしない。
きっと鬼に成る前の王を知っていたからだろう。優しく言葉をかけてくれた王を。
ああ、そうだ知っていた。知っていたからこそこの憎しみから解放して救わなければならない。
意を決して、腕を振り上げた時彼が言った。「俺が代わりに殺してやる」と。
彼はそう言うと、私から小太刀を奪い取りそのまま王の心臓に突き刺した。
そうして、その時ようやく気づいた。自分が泣いていたことに。
全く、情けない。知っていた人が鬼に成り、それを殺す時は決まって泣いてしまう。
彼は意図して私の代わりに殺してくれたのだろうか。私が泣いていたから手を貸してくれたのだろうか。いや、彼は私が泣いていたと知るよしもないだろう。あの時、私は認識を阻害する頭巾を着けていた。だから私の顔も表情も彼は見えない。
だからどこかのヒロインみたいに『君が泣いていたから助けた』。なんてことはないのだろう。だけど、もし、そうであったのなら少し嬉しい。 そう思ってしまっている。
その後、彼は王の心に呑み込まれてしまった。
王の魂を冥府へ送り彼を助ける為に加護の力を使ったけれどあの時、自分の名前を言ったのが少し恥ずかしい。
彼に私の名を知ってほしいとそう思い、言ってしまったがあの時の彼に聞こえていたとは思えない。全く私はどうしてしまったのだろうか。彼に会ってから少し、いや、かなりおかしい。
きっと救われた。そう思ってしまったからだ。
私は弱い人間だ。あれから一人で歩いて来た。だけどその足元は覚束なく、少しでも気を抜いたら、立ち止まってその場に座り込んでしまいそうになる。そうなったら私はきっともう歩けない。だけど、これが自分の選んだ道だとわかっている。だから私はふらふらでも歩き続ける。
彼はそんな私に少しだけ手を貸してくれた。それが嬉しかったんだ。
今まで私に手を貸してくれる人なんて、居なかった。
大事な時はいつも一人だ。
それが当然のように時間は、世界は、歩みを緩めてくれない。
いつもと同じように、ただ淡々と流れていく。
そうして、仕方なく決断してきた。
だけど、今回は彼がそれをしてくれた。
それが私にとっての初めての救いだった。
☆☆☆
自分が今、どうしたいかなんてわからない。
魔王を討伐する。
そんな使命があれば簡単なのになぁ。
呼び出された理由である王国との戦争は停戦に入って俺が呼ばれた理由は無くなった。
元々停戦の案はあったらしいけど、王がそれを拒み続けていた。でもそれを拒む王は死んだ。
グレブは俺のやりたいことをすればいいと言ってくれたけど、俺にはなにかをできるだけの力なんてないし、こんな中途半端な気持ちで兵士の厳しい訓練に耐えることなんてできないだろう。
結局、俺は一体なんの為にこの世界に来たのだろう。
気分転換に帝都を歩きながら考える。
辺りは喧騒に包まれている。
気づけば、どこかの市場に来ていたらしい。
値引きをする人、買い食いをする人、客引きをする人、いろんな人が辺りに溢れていた。
そんな日常を人の波が押し流す。
「化け物、化け物がでたぁぁー」
俺はそのまま人の波に押し流されてしまった。
☆☆☆
「化け物、化け物がでたぁぁー」
誰かがそう言った。
私はそれを聞くと、気持ちを切り替えた。
屋台の屋根の上に乗り、押し寄せてくる人の波と逆に向かって駆け出す。
しばらく走ると、衛兵達が大量のなにかと戦っていた。
「なにあれ!?」
驚愕のあまり声が漏れた。
身体は筋骨隆々でなんとか人の外見を保っている。
そして頭に角が生えている。
角は鬼の特徴だ。だけど彼らは鬼じゃない。
彼らは心がない。魂が存在していない。
人が鬼に成る時に心が壊れることがあるけど心が壊れた時かならず欠片が残る。だけどあれはそれがない。まるで最初からなにもなかったように。
気味が悪い。
あれじゃ、まるで人間の外側だけだ。
そんなことを考えているうちに衛兵が一人、また一人と倒れていく。
「影檻」
衛兵と化け物を分けるように真ん中に茨のような影の柵ができる。
「下がっていて」
私はそう言いながら自分の影から太刀を取り出す。
自分の背丈ほどある大きな太刀だ。
数十、下手をしたら百は居るであろう化け物達の一番後ろに降り立ち、そこにいたものを斬り捨てる。
すると仲間の死体を気にも留めず、こちらに向かってきた。
私はそれを下がりながら斬る。化け物の勢いが激しくすぐに囲まれて袋叩きにされそうな勢いだ。太刀が大きい分、一振りで纏めて相手を斬ることができる。しかし、それをすると隙が大きくなる。それにこの化け物は身体が硬い。纏めて斬ろうとすれば、傷が浅い者もでてくるだろう。
だから一人づつ確実に仕留めていく。
そして、手が足りなくなると、魔法を使う。
自分の影から剣山のように無数の太い針が飛び出す。
そうしてなんとか全体の半数ほど倒すことができた。
まずいな。このままじゃ全部倒す前に自分の体力が底をつく。
元々私は魔力量が乏しい。このままじゃあの柵を維持するのが精一杯だ。
化け物達の勢いが激しいせいで、数は倒せているけど柵を張ってからまだ数分しか経っていない。
衛兵の増援はまだ期待できないからあの柵を解くわけにはいかない。
傷が浅かったのか斬った化け物がタックルをしてきた。
私はそれになんとかガードをすることができたけど、2、3m吹き飛ばされた。
身体が軋む。大丈夫、まだ動ける。
なんとか身体を起き上がらせもう一度集中する。
その時。轟音と共に目の前に彼が現れた。
「手を貸すよ」
彼がそう言うと後ろに居た化け物に殴り飛ばされ吹っ飛んで行った。そのまま建物壁を砕きその瓦礫に埋もれ止まった。するとつぎの瞬間勢いよく瓦礫の山から飛び出し、殴られたやつを殴り返していた。
「今、かっこよく決めるとこだろ!?邪魔すんな!!」
彼がそう言うと。私は笑ってしまった。
「ふふふ…締まらないなぁ、ちゃんと手を貸してね?」
私は彼にそう言った。
☆☆☆
「ふふふ…締まらないなぁ、ちゃんと手を貸してよ?」
そう言った彼女は全身に小さな傷がいくつもあった。
地面に横たわる化け物の数が今までの壮絶な戦闘を物語っていた。
俺が人の波に飲み込まれずさっさとここに向かっていたら彼女はこんなに傷つかなかったのかもしれない。
だけどタイミングはすごくおいしいなと思ってしまった。
我ながらすごくいいタイミングで登場できたと思う。あいつの邪魔がなければ。
まぁそんなことは今は置いておこう。今はまだまだいるこいつらを倒さないといけない。
「素手じゃ無理だと思うからこれ使って」
彼女はそう言うと、俺に向かって小太刀を投げてきた。
あれ?この小太刀をどこかで見たことがある気がする。
ああ、そうか。彼女は…
「半分は殺ってね」
そう言って彼女は近くにいたやつを斬り捨てる。
「アリアは休んでてもいいぞ? 俺が全部片付けるから」
アリアは一瞬だけ目を見開いた。そして軽くハニカミながら言う
「それは頼もしいな」
俺はどうやら運がいいらしい。
会いたかった人に会うことができたのだから。
幸いこいつらの攻撃は俺にはあまり効かない。
だからできるだけアリアに気が向かないようにして、俺が盾役になる。だからやることは一つだ。
正面から馬鹿みたいに突っ込む。
一番前に居たやつに体当たりをして吹き飛ばし近くにいたやつの首を斬る。
後はただなるべく俺の後ろにこいつらを通さないように暴れまわる。
斬って、殴って、体当たりをして、また殴って、体当たりをして斬る。
相手の数が多いため、次第に抑え込まれる。
最初は一方的に攻撃できていたのに徐々に殴られる回数が増えて行った。
まずい、非常にまずい。
相手の攻撃があまり効かないと言ってもそれは一発だったらの話だ。
何発、何十発も受け続ければダメージは蓄積し次第に足元が覚束なくなる。
せっかくかっこよく助けに入れたのにこのままじゃやられる!
いや、かっこよくはなかったか。まぁそれはいい、助太刀に来てやられるとか世話ない。なんとかしないと。
「オンブル」
俺がそんな馬鹿なことを考えていると、アリアがそう言った。
するとアリアの言葉に応えるかのようのアリアの足元に有った影が動きだし辺りにいた化け物3人を貫く。
その三人が最後だった。
辺りに溢れるほどいた化け物はもういない。
「もう、無理」
そう言って倒れそうになったアリアを受け止める。
どうやら意識を失っているようだ。
とりあえず、城に行けば治療を受けられると思いアリアを抱こうとした時に気づいた。
アリアの身体はとても軽く、小さかった。
彼女はこんな身体であの化け物どもと戦っていた。
俺が来る前にはその半分ほどを倒し、俺が来た後も俺は無我夢中で暴れていただけだったからきっと、ほとんどアリアが倒したのだろう。
化け物と戦うには余りにも小さいその身体で。
自分が嫌になる。
この世界に来てからずっとだ。
もっと他にやりようが有ったはずだ。
最善の行動ができていない。
強くならないといけない。
力がありすぎて困ることなんてない。
後悔するのはいつも自分の力不足のせいだ。
城に着くと今起きたことを説明し、そしてグレブに稽古を頼んだ。
この時、強くならなきゃいけないと思ったけど、グレブを頼ったのは失敗だったのかもしれない。
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