第34話

 そこに佇む一つの小さな存在。

 内包する魔力は僕の数百倍なんかではとてもじゃないが、効かないであろう。


「……」

 

 僕はこれからあれと戦うのか、今からでも憂鬱だね。うん。


「離れるよ」

 

 僕の隣で呆然としているラーニャを掴んで、唯一残った空飛ぶ王宮から離れる。

 ここにいるのは危険だろう。

 

「ここは……」

 

 度重なる人体改造の結果、異様なまでに優れている聴覚を手にしている僕は遥か遠くの魔王様の美しい声を聞くことが出来る。

 

 魔王様の声。

 それに反応するのは魔族たちである。

 声、というよりも魔王様の独特の、圧倒的なまでの魔力に、だけど。

 至るところから魔族たちが集まり、魔王様のもとに集っていく。

 

「「「おはようございます。魔王様」」」

 

 魔族たちは膝を付き、頭を垂れて一斉に口を開く。

 魔王様に跪く魔族たちの先頭に居るのは、僕とも深い交友のある男である。。


「……ふむ。そうか……私は」

 

 己の目の前にいる魔族たち。

 そして、かつてのような分厚い雲に覆われていない空を見て悟ったのだろう。

 封印は解かれ、遥か未来に復活したということを。


「……そうか。しばし離れる」

 

 魔王様は大地を蹴り、天空へと登る。

 その衝撃波で空飛ぶ王宮は完全に崩れ去り、残骸がその場に残された魔族たちへと降り注いでいく。


「……っ」

 

 魔王様は小さく唇を噛み締めた後、どこかへと飛び去っていった。

 この場に何もかもを残して。


「ここで少し待ってて」

 

 僕は宙に魔法で作った足場にラーニャを乗せ、どこかへと飛び去っていた魔王様を追いかけた。


「ふー」

 

 さて……ここからが正念場。

 本当の戦いの始まりである。


「……」

 

 僕は音速を超えて、駆け抜ける魔王様の後を必死に追いかけた。

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