第35話

 天空を駆け抜け、荒野を見下ろす。


「……あなたは一体何者かしら?」

 

 魔王様がピタリと動きを止め、後ろへと振り返る。

 その視線は姿を隠してついてきている僕の方に固定されている。


「むにゅ?」

 

 僕の動きを止め、かなりわざとらしく首を傾げる。


「……」


「見てわからない?僕は人間で、あなたは魔王。……状況的に起こりうることなんてたった一つでしょ?」


「……」

 

 僕の言葉。

 それに対して魔王様は無言を貫き、ただただ僕の方へと視線を向け続ける。

 ……。

 …………。


「……あいにくと」

 

 長い沈黙の末に……ようやく魔王様が口を開く。


「私はあなたなんかに殺されるつもりはないの。申し訳ないけど、抵抗させてもらうわね」


「……何当たり前のことを言っているの?」

 

 僕は魔王様の言葉に首を傾げる。


「あなたが抵抗しないだなんて僕はこれっぽちも思っていないんだけど……僕は実力であなたをねじ伏せるだけだよ」


「あら、随分と頼もしいことを言ってくれるのね。……でも、私の実力はあなたの思っているもの以上よ?」


 知っているとも。

 魔王様の実力は。あのチート主人公にバットエンドを与えるほどの実力を。

 凡人からしてみれば、絶望しかないその実力を。


「その言葉。そっくりそのまま返してあげるよ」


 ……返したくねぇ。

 でも、僕は今ここで魔王様をぶちのめすために多くの準備をしてきたんだ。勝つ自信はある。


「頼もしいわね……でも、実力の伴っていないその言葉はこれ以上ないまでに滑稽よ?」

 

 魔王様がゆっくりと地面へと降り、荒野の地へと足をつける。


「空中戦じゃなくて、地上戦を選んでくれるなんて随分とお優しいのだな、魔王っていう存在は」

 

 僕も魔王様同様に荒野へと足をつける。


「……」


 さて、と。

 凡人流のハッピーエンドを作って行こうか。


「呪杭」

 

 僕の両手を二つの杭が貫く。


「……ッ!?」


「ふー。やろうか」

 

 呪いの力が僕を蝕み……己にうずまき、存在そのものを塗り替えていく中。

 僕は笑みを浮かべて魔王様の方へと足を一歩踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る