第6話 それは歪むさ
いや、待て。
落ち着け自分。
奴が送ってきた紙切れには、恩人の娘を連れて行く云々と書いてあった……。
ルーカッセン公爵のいう恩人の娘、それはつまり……。
(ゲームのヒロイン、ということになるよね。どれどれ?)
ルーカッセン公爵……奴の腕に抱えられている女の子を窓からこっそり確認する。
だいぶ視力が良くなった私の目は、その特徴をばっちりとらえた。
公爵に大人しく抱っこされているのは、ふわふわしたミルクティー色の髪に花のバレッタをつけた、可愛らしい女の子――記憶よりだいぶ小さいけれど、トレードマークのバレッタがあるから間違いないだろう。
あの子は、プレイヤーが操作するキャラ、つまりは主人公であるティアだ。
つまり、これが後々の禍根になる因縁の初対面。
(ルヴァイド・フォン・ルーカッセンが悪役かませになる、はじめの一歩……! でも、これって……)
ゲーム中ので回想を見た時は、さらっとしか触れられてなかったし、ルヴァイドがただキレてるだけとしか思わなかったけど――実際の光景を目にすると……。
(クソだ! あのクソオッサン、クソオブクソだ……! こんなの、父親による最低細工のやらかしじゃん!)
今の私の目には、公爵の行動は我が子の心を傷つける、最低な行為に見えた。
私は、なにも事案だから「やらかしだ」と言っているわけではない。
たしかにオッサンが抱っこしているのは血のつながりなんて一滴もない子どもだけれど、その子を見る目はとても優しい。
それこそ、実の父親を名乗っても信じてしまいそうなほどだ。
でも、こんな光景、母親を目の前で亡くした実子に見せてはいけない。
あまつさえ、父親としてなんのフォローもせずに放置しているという、決して消えない前科もあるのに……。
(コイツめ! なんだ、その顔は!!)
ルーカッセン公爵は、出迎えたルヴァを一瞥すると嫌そうに顔を歪め視線をそらした。
だが、腕の中の女の子が身じろぎすると、一変。
ルヴァとはカラーリング以外全然似ていない(ルヴァはお母さん似だ!)、精悍な顔を優しげに綻ばせ、腕に抱いている不安そうな表情の女の子になにか話しかけている。
そうすると、女の子の表情はぎこちなくだけど、やっと笑顔を浮かべた。
事情を知る私的には、慈愛に満ちた顔しているオッサンはキモい感があるのだけれど……なるほどなぁとも思う。
これならゲームの主人公、ティアも騙されるわ。
いい人に見えるもん。
そして、もうひとつ。
これなら、ゲームのルヴァイドは歪むわ、と思った。
自分を蔑ろにして、恩人の娘という他人に優しさをむける父親。
そして(ティア自身は事情を知らなかったわけだけど)それを享受している子ども。
あー、もう、ルヴァイド・フォン・ルーカッセンが「悪役かませ(笑)」なんて呼ばれるのは、完全にこのクソ親父のせいじゃないか!
(息子と同い年の女の子にデレデレしてんじゃねーよ! キモいわ! バーカ! 超級のバーカ!)
口が悪い上に低レベルな悪口だが、いざ腹が立ちすぎるとこんな文句しか出て来ない。
窓から彼らをのぞき見し罵倒する私は、きっとものすごい形相だったんだろう。
公爵から数歩ほど後方にいたローブ姿の男が、ふと顔を上げて……――こっちを見た。
「!!」
驚いて、思わず身を屈める。
(目、目が合った?)
いや、普通ならまず見えないはずだ。
私の体は半透明のスケスケだし、カーテンかなんかだと思うはず。
それなのに、私が恐る恐る窓から顔の上半分だけをのぞかせ確認すると、ローブの男はハッキリとこの部屋に視線を固定し、私を見ていた。
(やばぁぁい!!)
同時に、私も相手の顔をハッキリと確認した。
(あれは! 攻略キャラじゃんか!)
それも、周回プレイ前提の隠しキャラで「先見の才」という未来視の能力を持ってるっていう厄介キャラだ。
(ウソでしょ!? だって、ゲームだと、このキャラがティアとルヴァイドの初対面に付いてきてたって情報はどこにもなかったのに!)
一体なぜ、あの男がここにいるのか。
私はぶるぶる震えるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます