第12話 縁の龍神祖父、孫兵衛
2021年3月30日 美琴の祖父、孫兵衛氏が還る
美琴の祖父(故人)であり、死後に縁の龍神さんとなっていた孫兵衛氏について、要子がメッセージを受け取ったらしい。
以下は、要子からのLINEの内容だ。
孫兵衛じいちゃんが龍神さんじゃなくてアンテナ発信しやすい小雪(飼い猫)になってる。
ごめん、頭整理したいのもあって送ってていい?
孫兵衛じいちゃん龍神さんであるのやめた。
本家の縁を結び直すにのは、無理と判断したんだ。
人間関係よくするのはもう無理だなって思ったって。
だから、輪廻転生の輪に入るから、せめてめて美琴と1杯のみたい。
許されるのであれば、本家の歪みを解決したかった。
なのに解決できぬまま、悠子という穢れを産む結果。
純粋培養するが如く、曾孫を救えなかった。
作り出してしまう状況を見逃し、見殺しにしてしまった。
縁(えにし)の龍神に登りつめても変えれなかった。
もう自分に与えられた力だけでは、歯がたたぬ。
できないなら役から降りねばならない。
だから、龍であることを継続できない。
ごめん、こっからは雑念多くて拾えない。
夕の薬飲む。
なんかおかしくなってる。
たぶんアンテナにひびヒビ入る前に折られたんだな…。
拾わねばいけないこと多かったから。
やべえ。
あんぽんたんなってら。
以上、要子からのLINEを転記したものだ。
夜には美琴が、酒を呑みながら電話をしてきた。
俺に電話すれば、孫兵衛氏が降りてきて、何かの会話をできるのではないかと思ったらしい。
しかし、電話していても孫兵衛氏は出てこなかった。
要子からLINEがきたあと、昼寝をしていた。
夢の中で諏訪野家のの神棚においてある孫兵衛氏の遺影と同じ姿をした人物が現れた。
そして俺は言う。
「龍神さんだったんですね。」
少し間をおいて、
「まあな。美琴のこと頼む。」
と言って去っていった夢だった。
この夢の話については、あえて伏せた。
以上、是宮の日記より。
実家に想いを馳せた時、龍神さんがいた。その龍神さんのことをいつのまにか縁(縁)の龍神さんと感じていた。
そして孫兵衛じいちゃんが、妹たちを守っていると感じた。
感じると同時に、失ったことを悟った時。
私の中で二度目の孫兵衛じいちゃんの死として受け入れなければならなかった。
孫兵衛じいちゃんは、本当に努力の人だった。
神職をしており、一年中その勤めのために、動いている様な祖父だった。
刀舞が得意で、若い宮司さんが祖父の元に舞を習いに来ていたことを、子供ながらの記憶で覚えている。
いつも穏やかで、荒い気性などは微塵も感じない。
しかし、父には厳しい面を持っている。
常に、こうあるべきだと言う姿勢を、言うのではなく見て学べ的な感じではなかろうか。
孫兵衛じいちゃんは、実は本家に嫁いできた婿養子でもある。
立派な人だった。
みんなに惜しまれ、そして最期の時を迎え…30年が経つ。
孫兵衛じいちゃんは、誕生日に亡くなった。
肺癌を患っていた。
タバコも吸わずお酒もほとんど飲まず…祖母を亡くしてから、寂しいだろうからと妹が一緒の部屋で大きくなるまで過ごしていた。
孫たちからしたら、自慢の祖父。
まさに神様の様な存在だっ'た。
努力の人で自分の仕事【神職】に対して、常に正しく有ろうとする姿は、今の私の中で生きている。
自分に厳しく、他者にも厳しい面と底知れぬ愛情を感じていた。
しかし、祖父の生きていた時代は、多くの困難と悲しみの時代だったのかも知れない。
兵士として召集され、その中でも部下だった方が、慕って会いにきたことを子供心の中でも、覚えている。
そして本家に婿養子として迎えられているが、
結婚が決まった後に、本家直系男子が誕生する。
本家はおそらく永年。
神主としてあった血筋てはないかと考える。
正しい情報を語る祖父も父も、もう居ない。
だから憶測の世界でしかない。
しかし、直系男子が生まれても、神事を司る神職として祖父が必要とされたなら、迎えられた背景には急いでその業を継ぐ人間が必要だったのではなかろうか?
そして本来家を継ぐはずの産まれたばかりの直系男子は、養子に出されている。
父とさほど年の変わらない、物静かで小柄な方だった。
本家の人間では無くなったとはいえ、お盆にはみんなで揃って、墓参りに行っていた。
祖父が生きていた頃は、何かと直系男子だった善吉のことを、気にかけ交流もあったし、いつでもバックアップできる様な体制も見受けられた。
それは、おそらく祖父ができる最大限の善吉に対する、敬意であったのかも知れない。
自分が婿とならなければ、善吉が家を継いで当たり前であったであろう未来。
そして養子に出された事で、したであろう苦労。
直系男子にあたる善吉が、決して裕福な状況ではないことを、子供心ながらにも感じていた。
そして本家自体、莫大な資産家である事も後々成長してゆく中で知る。
本来であれば恵まれていたであろう未来を、奪われた者という部分では私と善吉は似ているのかも知れない。
実際、その善吉に一緒に復讐しないかと言われたのは、2022年1月。
いずれ綴る出来事ではあるけれど…。
善吉の生涯こそ、おそらく不幸と穢れがつきまとう。
ものが溢れ食に困らない、平成の時代に善吉は孤独死している。
餓死の可能性が非常に高い。
終末期は家族すらバラバラだったと予測される。
幼いながらに、昭和の時代。
食べ物に困ってと、本家を頼りに何度も訪れる善吉の姿を知っていた。
しかし…祖父が生前何かと気にかけ、あった交流も父の代になると、パタリと無くなっている。
その頃私も家を出たので、定かではないけれど。
何度か耳にしたことがあった。
孫兵衛じいちゃんが婿に来てくれたからこその、安泰があったと。
養子に出された直系男子が継いだなら、おそらく繁栄はしかなっただろうと話しているのを聞いている。
古い家があった土地を売り、持っていた土地に家を建てた事もあるだろうけれど…。
家を二軒新築し現金で払える様な、資産家でもあった。
車もローンを組む事なく、購入していたはずである。高級な時計もキャッシュで買った事も知っている。
片方は繁栄し、養子に出された善吉は、その日の生活にも困る様な状況。
昔ながらのお陰様で気にかけていた時代は終わり、祖父母の思いは父母には伝わらず、一切の関わりがなくなりそして最期を迎える善吉。
先代がどうしても、そうしなければならなかった選択だとしても、
その想いすら正しく受け取る子孫がいなければ、結局想いを次の世代に託せない現実がある。
私の身の回りで起きる出来事は、世界の縮図と考える。
だからこそ、思うのである。
今ある幸せは、誰かの不幸の上で成り立っているかも知れない可能性。
今ある出来事が、当たり前になりすぎて、感謝する心すら無くなってしまっている現実。
もし、正しい想いを正しく継承できていたなら、善吉は餓死という可能性を回避できたのではないだろうか。
現金で高級時計を買える余裕があったなら、たとえ少しでも食料を届けたり生活のバックアップができたなら、違う未来があったのではないだろうか。
しかし、それはすぎた過去として見ているから言える事でしかない。
そして私が本家から離れ、その恩恵を受けることを許されなかったからこそ感じるリアルなのかも知れない。
しかし、人は煩悩があるように
満たされていても、気づかなければまだ足りないと執着する。
その想いこそ魔を呼び、人として内部から崩壊させられる思考なのである。
真逆の世界にあったからこそ、気づけたのなら、
私、諏訪野美琴は思う。
苦労は買ってでもしろという言葉。
苦しみの中でしか、導き出せない答えがあるのなら、私は苦しんできた人生を誇りに思う。
トラウマ的な思考に囚われ、苦しくなる日もあるけれど、それでも自分を育ててくれたのは、紛れもなく困難と試練だったと言える。
苦しみを知っているからこそ、苦しんでいる人の気持ちに寄り添える。
人生に深みを増すなら、トラウマになるような出来事すら、目を背けるのではなく、向き合う事で見える活路こそ、トラウマの乗り越え方だと感じている。
起きる出来事に、意味を持たせ何を学ぶかだとするならば、誰かを妬み恨む時間すら、私にとってはもったいないのだ。
なぜなら、何も生まないから。
生産性のない魔を引き寄せやすい思考こそ、敵だと今なら言えるのだ。
しかし、そんな相手の思考に巻き込まれる。
それなら受けて経つしかなかった。
私諏訪野美琴は、是宮をはじめとする
生涯を共に戦う仲間と共に歩いている。
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