第2話
暗い夜の中でテレスはふと目が覚めた。何か大きな音が聞こえた気がしたためである。外を気にしてみると何か騒がしかった。嫌な予感が横切ったテレスは横で寝ているルーナを揺さぶって起こそうとした。けれどなかなか起きないルーナにテレスは少し大きめの声をかけた。
「ルーナ!起きてくだい!ルーナ!」
「ん〜?どうしたのテレス?まだ暗いけどもう起きてるの?まだ眠いよ」
ルーナは朝に弱いためこの状況は仕方の無いことであった。しかしそんな寝ぼけたルーナを見つめるテレスはと言うと目を擦りながら起きようとする彼女を起こしたことを申し訳なく思ってしまっていた。
そんな時テレスの耳に足音が聞こえてきた。王女が眠る場所であるのだから防音はある程度出来ている。しかしそんな壁を超えて聞こえてくる足音は急いでいるように速いテンポである。そのことから慌てたようにテレスはルーナに話し出した。
「ルーナよく聞いてください。何かこの城で起きています。このままではまずいことになりますよ!」
「そんなこと言われても。でも何か起きてるんだね?」
ルーナは混乱しながらもテレスを信用した。その目には先程の眠そうな目はなく真剣な眼差しをしていた。それに嬉しさを感じたテレスは微笑みを浮かべていた。しかしそんな場合では無いため直ぐにシャキッと顔を変えた。城から聞こえてくる音はただ騒がしいだけでなくよく聞いてみれば悲鳴まで聞こえている。そのためにテレスは直ぐに動き出そうとベッドから降りようとした。すると部屋の扉を叩く音が聞こえた。
「テレスティーナ様!居ますか!居るなら此処を開けてください!」
先程の足音の主はいつの間にかというかテレスが悩んでいる間に部屋に着いてしまったようだ。敵なのかもしれないと思うもその声は女性のものでテレスは聞き覚えがあった。
頭の中にその人物像が浮かぶとテレスは直ぐにドアの前に走って行く。
「はい!少し待ってください!」
テレスがドアを開けるとそこには侍女と言う訳ではなく騎士がいた。しかも女性のである。騎士になる女性とは珍しいものでこの国では初になる女性騎士、名をクリスティン・アルセフト。騎士団では愛称でクリスと呼ばれている。
彼女は数多くいる男性騎士を圧倒し最年少で入隊した天才と呼ばれていて落ちこぼれと言われているテレスとは正反対の人間である。しかし時たまにお茶会をしている時に彼女の父である国王が将来の護衛として紹介して何度か話していた。
彼女はテレスを見ると安心したように息を吐いた。
「テレスティナ様…良かったご無事で、今城は帝国の奇襲によりほぼ陥落寸前です。国王陛下よりテレスティーナ様とルジアーナ様を秘密の抜け道より脱出させよと命令を受け参りました!」
「お父様達はどうするんですか?」
「陛下達はこの城に残り守る義務があると…」
後ろで話を聞いているルーナは困惑して居ました。
「お父さんは何処にいるの?」
「ルベリオス公爵は……帝国の情報を陛下に伝えた後お亡くなりに…」
「そんな!」
少し言い渋っていクリスはそのまま本当のことを言った。その事実にルーナは涙を流していた。その姿を見て逆に冷静になったテレスはクリスの方を見る。本当なら自身も家族のことが心配のはずで直ぐに向かいたいだろう。しかしそれでは無力な自分に何ができるのか、そんな思いと共に手を強く握っている。
「テレスティーナ様、ルジアーナ様、迷っている暇はございません。私が先導しますので後に着いてきてください!」
「「はっはい!」」
クリスは2人の様子を見て己の失敗を感じていた。しかし後の祭りであるために自身が授かった命令を遂行するために2人の迷いある感情を吹き飛ばすように強く言葉を発した。そのおかげか泣いているルーナもどうにか返事もできて嗚咽をしながらもクリスの方を向いていた。2人は互いに勇気を分け合うように手を握り覚悟を決めたように進んで行くクリスについて行く。
(覚悟を持たないと、父を母を見捨てる覚悟でなく託してもらった命を守る覚悟を)
心の中で家族の心配をしながらも自分たちを逃がしてくれようとクリスに託してくれたものを思いながらテレスは覚悟を決めた。
数時間後後
クリスの案内により王城の地下に存在していた隠し通路をクリスが開けてそれに2人は驚きながらその奥へと進んでいった。薄暗く真っ暗な闇の中でクリスの持つ松明がテレス達を照らしている。
そんな暗い道を進む中でテレスは何度も後ろを振り向きそうになっていた。抜け道に行くまでに運良く3人は侵入者に相対することは無かったがそれでも襲われている人はいるわけで多くの悲鳴がその耳の中へと吸い込まれていた。女の人の悲鳴や男の人の悲鳴、それはテレスやルーナは聞き覚えのある声もあった。しかしそれ自体が誰なのかを判別することを彼女達の心が拒んでいた。
テレスは大好きであった父の、母の、兄達の安否を確認したい気持ちでいっぱいになっている。それでも決してテレス達が後ろを振り向くことは無かった。それは振り向いては行けないという使命でもあった。何故なら前を歩くクリスもまた悲鳴が聞こえる度に震え、何も持っていない手は強く握りしめ、もう片方は松明自体が悲鳴をあげるくらいに力が入っていた。それが逆にテレス達の心を冷静にさせてもいた。だからこそ2人は我慢をして前に進んでいた。
「テレスティーナ様もうすぐ出口です」
クリスはテレスにそうはっきりと言った。それはルーナよりも不安を抱いているテレスに気を使ってのことである。
「テレスもうすぐだって、頑張ろう!」
ルーナからも励まされるとテレスは少し元気を貰ったのか少しだけ歩くことが軽く感じていた。そうしていると先の方に光が見え始めた。それは紛れもない出口であり数時間暗闇を歩いていた3人にとっては希望になり心が喜んでいるのがそれぞれ感じている。
少しずつ光が強くなるにつれて光は大きくなりやっと外に出ることができた。外に出ると太陽がだいぶ上に上がっていてどれだけ時間がたったかを理解することができる。それに対してテレスとルーナの2人は驚きを顔に出している。
入口から出た先には木がいっぱいあってここが森であることに気づくのはそう時間がかかることは無かった。
「やっと出られたぁー」
ルーナが嬉しそうに気をぬけた声で言った。その声につられてテレスも気が抜けたように座り込んだ。だが騎士である彼女は気を抜かず警戒を怠らず辺りを見渡している。
「追っても魔物もいないみたいですし、少し休みましょう」
本当なら敵が追って来るので休むということはまだやってはいけなかっただろう。だがそれでも2人は限界である。クリスもそれを理解しているために休息をしている。
「ごめんなさい私達のせいで…」
「いえ、王女様達を守るのが私の任務なのでお気になさらず」
「それでもだよ!テレスも私も1人ならあのまま城に残ってたと思うし…本当ならこんなとこで止まってたら」
「確かにそうですがテレスティーナ様とルジアーナ様の限界が来てからでは遅いので今の間にしっかりと休んでください」
クリスはそう言って気にしてないようで2人に笑みを向けた。そしてクリスはコンパスを確認して進む方向を確認していた。
数日後
城から抜けて数日間、テレス達はずっと森を進んでいた。抜け道から広がっていた森はアルゴス大森林と呼ばれるもので巨人が作ったとか巨人が何かを守っているとかそういう言い伝えがある森である。しかし普通にも巨人種と呼ばれる魔物は居るので本当かどうかは分からない。
そんなこの森は多くの魔物がいて昆虫種のまだ小さな大百足や人喰い蜘蛛、または人型種のゴブリンやオークという魔物と遭遇していた。それらは全てクリスが全て倒し、時にはその魔法が炸裂する姿もあった。
(約に立ちたい。けど私ではクリスティン様を邪魔してしまう。…悔しい)
ただ守られるだけなのが何処までも悔しいが自分の弱さを理解している分何もできなかった。時にはクリスが大丈夫かと聞いてくるのだがその想いがある分テレス達は大丈夫だと言うのである。
最初の夜はクリスが持ってきていた非常食を食べていたがそれも次第になくなり、彼女が狩ってきた動物を食べたり、食べられる野草を食べたりしていた。しかしクリスはまだしもテレスは初めての経験のために戸惑うことが多かった。そ一例を上げるならクリスが解体していた動物を見て吐いてしまっていた。だがそれも最初の数回で今は大丈夫である。それでも以外にルーナはそれを見ても何事もないようにしていた。
テレス達が目指すのは隣国であるライオネス王国である。そのために一直線に森を抜けると思っていたのだがどうやら中央を避けて迂回するようだ。それもそのはずアルゴス大森林は中央に行くほど危険な魔物がいるからである。しかも中央に行けば行くほど迷いやすく生きて帰ったものはいないという。
そうして進んでいるとが街道に出た。アルゴス大森林は危険だがその分資源も多く、低層域には街や道があったりする。しかしそこで街道を見て険しい表情をするクリスがいた。
「どうかしましたか?」
「…ここは危険なので早く離れましょう」
クリスは静かにそして冷静な声で言った。最初はよくわからなかったテレスだが街道は目立ちやすくテレス達を探している可能性の高い帝国兵に見つかりやすいと直ぐに気づいた。ルーナも気づいたのか直ぐに行こうと走ろうとしていた。
3人は直ぐに街道を渡った。目的地に行くにはどちらにしろここを通って森を回らないといけない。だから戻るのではなく進んだのである。
「ぶもぉぉぉぉぉお!」
テレス達が街道を通って向かい側の森に入った瞬間にその音はなった。最初は唖然として何が起こっているのかをテレスとルーナは理解出来なかった。しかしクリスの完全警戒している姿にその事態を理解した。
この低い音からしておそらく角笛、しかもこのタイミングと来ては最悪なことであるのは明白だった。すると音の後に次第に男達の声が混じって来ている。
すると数人の男達が3人の前に現れた。その男達は3人の女子を見ると下卑た顔をしてテレス達を見ていた。今まで向けられたことのない種類の悪意ある目線にテレスはたじろいでしまう。しかし他の2人はそれに負けず睨んでいる。
「おぉ!まさかこんなとこまで逃げているとは、陛下のお考えは正しかった」
男達はそう言うと剣を引き抜いてテレス達に向けた。完全にこちらを舐めているのか余裕の表情をしている。
「しかしまぁ!もっと優秀そうなやつがついてると思ったら女騎士とはこれは楽勝だなぁ」
「陛下が言うには王女以外はどうなっても良いらしいぞ。魔なしの厄姫なんかどうしたいのか俺らには分からんがな」
それを聞いて選別するようにテレス達を見ている男たちに身震いを起こしてしまっている。テレスは元々王国で出来損ないと呼ばれていた。そんなテレスを皇帝が欲していると言うとどういうことか分からないがいいことでは無いはずだ。その想いがテレスを不安にさせているとテレスの手に柔らかい感触が感じられた。何かと思いテレスは手を見るとルーナがテレスの手を握っていた。
それはテレスを安心させてのことなのかルーナ自身を安心させてのことなのかはたまた両方か分からないがテレスはそのおかげで安心が出来た。
テレスは無言のまま視線を変えずにそのまま握り返した。
「女騎士は上玉だな。王女はどっちだ?」
「確か金髪の方だ。ということはあの銀髪とヤレるのか中々に良いなぁ」
その舐め回すような視線にテレスとルーナは身震いを起こした。クリスの方を見ても絶対零度の眼差しで男達を見ていた。
「貴様ら!黙って聞いていたら好き勝手に言って、貴様らなんぞにこの身にもこのお方達にも指1本触れさせんぞ!」
「フューかっこいいねぇ。だがそんな強がりがいつまで続くかな?」
「フンなら強がりかどうか試してみるか?」
相手の挑発に挑発で返したクリスは王国の制式装備である剣を抜いた。しかしその剣は普通の鋼であるため、この数日で手入れをする暇がなく刃こぼれが激しかった。当たり前である。硬い外殻を持つ昆虫種を倒していたのだから当たり前だ。特別な鉱石でない限り耐久値は直ぐに無くなる。
そんな武器だからこそ相手からしたらあまり危機感を感じないようで表情すら変わらない。
一触即発の空気が漂う中で彼女はバレないように指を後ろにして魔力で字を空中に写した。空中に書かれた文字は簡単なものだった。
(私が合図をしたら逃げて下さい)
テレスはその文字に固まってしまった。理解したくないと言ってもいいだろう。文句を一言も言わず2人を守っていたのはクリスひとりだ。そんな相手を見捨てるようなことを提案されては善良なものなら迷いが生まれるのも仕方がなかった。
(お礼も恩返しも何も出来ていないのに見捨てるなど…)
そんなテレスの気持ちを察してのことなのかクリスは後ろを向いて相手に聞かれないぐらいの声で言った。
(信じてください)
「テレス、クリスさんを信じよ?」
ルーナは信じてると言わんばかりにハッキリと言った。そんなルーナに驚きながらもテレスは覚悟を決めて何も言わずに頷いた。
「へっ何を言ったのかは知らんがそろそろ仲間がくるんでね。あいつらが来る前にお前らをひっ捕らえて色々とさせてもらおうかな?」
クリスを舐めきった1人の男がクリスに近づき剣を振り下ろした。しかしそれは粗雑なもので適当に振り下ろしたのがよくわかる。クリスはそんな剣を滑らせるように剣を流してそのまま男を斬った。
「王国流剣術・輪閃」
その一瞬の流れに唖然とする男達は石のように固まっていた。
「走って!」
その合図と同時にテレスとルーナの2人は後ろを向いて走り出した。草の中を走る、木を避けながら後ろから聞こえてくる剣戦の生々しい音を聞きながら。クリスを信じてただ走っていた。
「こっちにいたぞ!」
走っていたのもつかの間、何故か逃げた先で待ち伏せをされていて逃げ場を失った2人は足を止めた。周りを見渡して逃げる場所を探すもどこにも無く近づいてくる男たちの足に合わせてゆっくりと後ろに後退する。しかし直ぐに背後には木が背中に着いた。そんな中でテレスは先回りをされていたことに疑問を感じた。
「何故って顔をしてるな?何故俺たちが待ち伏せしてたのかを。それはなぁお前たちの前にいたあいつらは帝国兵の中でも馬鹿な連中でな、あいつらはただの囮だったんだよ。王国の天才騎士と呼ばれたクリスティンとか言う女騎士の気を引きつけるためのなぁ」
それを聞いてテレスは納得した。何故ならあの間にも増援が来る気配がなかったからだ。
(悔しいあんな奴らに捕まるなんて…)
テレスは諦めるように膝を着いた。
「テレスには触れさせないよ!」
そう言ってルーナはテレスを守るように魔法を展開させた。
「これ以上近づいたらこの魔法をお前らにら撃つ!」
「ダメです!貴方だけでも逃げて!」
「ふははは、そんなちゃちなもんが向けられても怖かねぇよ。ガキが!大人舐めてっと痛い目見るぞ?」
男は笑いながらルーナを蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたルーナは木にぶつかり蹴られたお腹を抱えて咳き込んでいる。
「ルーナ!」
「ははは、選ばしてあげようかこのまま抵抗して痛い目見るか、それとも抵抗して痛い目見てお友達が殺される姿を見るか?あぁ一応言っておくが陛下は少しぐらいなら痛めつけてもいいと仰られてるからな」
男は笑いながらテレスに手を伸ばした。何も出来ず助けもないそんな状況にテレスは絶望し、涙が頬を流れた。
(何も出来ない私がルーナを守るためにはこの男の手を取るしか、ごめんなさいクリスティン様私にはどうすることも…)
テレスは親友を助けるために男の手を取ろうとした。しかしそれを防ごうと小さな手がテレスの手を掴んだ。
「ダメだよテレス、こんなやつの手をとっちゃダメだ!」
ルーナはそう言ってテレスの行動を止めた。傷ついているはずのルーナに言われて悲しくなってくる。
(なんでどうして傷ついている貴方がそんなことを言えるのですか?どうして…)
「あぁ、あと少しで殺されずに済むはずだったのに。そんなに邪魔がしたいなら死ねや!」
男は鬱陶しそうに言いながらルーナに向けて殺す気で剣を振りかぶった。それに対して拒否を示したテレスは叫んだ。
「キャー!」
その叫びが男に届くと共に強烈な風が帝国兵達に嵐のように吹き荒れた。そのためかルーナを殺そうとした男の首が落ちた。だが不思議なことにルーナには一切の脅威はなく彼女を守るようにして風は吹いている。しかも彼女の周りの植物も彼女に反応してか動いている。
「許さない絶対に許さない。お前たちが私の親友を殺そうとしたことを絶対に」
それは先程のテレスと完全に違っていた。元々美しいエメラルド色の瞳は輝き、その身から出す魔力の薄紫色をしたものではなく、青と黒い色のしたオーラをその身に宿す姿はもはや人とは違う何かである。
「ば、ばけもの!」
1人の男が腰を抜かして言う。それは恐怖の顔色である。目の前の先程の弱い少女でないことを理解する。しかもその目からは光が失われている。先程の少女とは別人である。
「陛下が言っていたのはこういうことか!あーなんと素晴らし「これはどういう状況だ?」い?」
隊長格の男の声に被さるようにいきなりその場に聞こえてくる場違いな声に全員が振り向いた。そこには藁で出来た大きな被り物をした異国の剣士がそこにいた。
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