第3話

突然の乱入者にその場の全員が驚く中でその乱入者である天鬼紫苑は周りの状況を観察していた。紫苑自身は女性の悲鳴が聞こえたために走ってきたのだが金の髪を持つ少女が暴れている。女子の様子から怒りに飲まれているのと倒れている少女がいるのが分かるので男達に襲われていたのがすぐにわかった。怒りに飲まれて力を使ったのか女子の傍で1人の男が死んでいるのがわかる。

ひとつわかることは彼らが男達は国の兵士のようであることだ。何故なら鎧が統一されていることから山賊でないのは明らかだ。女子もボロボロであるがどこかの国の公家か姫かというのが分かる。


「な、なんだお前は!」


固まっている中の1人の尻もちを着いている男がハッとしたように疑問を投げかけた。


「どうやらお主ら女子を襲っているようだが何をしている?」


「お前には関係ないだろ!とっとと消えろ!どうせ悲鳴を聞いて来たのだろうが、残念だなヒーロー被り、こんな所を見られたのなら殺すしかない!数の差は明白だぞ?」


「ふっその子に押されているのに何を言っている」


「黙れ!貴様なんぞに我が帝国の野望を邪魔されてたまるか!」


馬鹿にするように言ったために相手の男達は切れたようで額に皺をせている。しかしそこで固まっていた少女も動き出した。


「貴方たちの野望など知りたくもない、それに貴方たちにその野望を叶えることは出来ないでしょう。何故なら…ここで死ぬのですから」


そう言って少女はその身に宿す力を解放していく。だがその力はその身にあまる力であると直ぐに紫苑は理解した。


(おそらく目覚めたばかりの力であろうな。しかも霊気ときたか。流石にここで止めなければ命を削ってしまうだろう)


男達もその言葉と気配に紫苑から目線を外している。女子の力は強大であったが紫苑は迷わずに少女の元へ行こうと足に力を込める。


「瞬歩」


その瞬間紫苑は少女の目の前に移動した。誰も気づかず目の前の少女ですら認識するのに数秒かかったのである。後ろにいる帝国兵達も驚いている様子で目を見開いている。

少女は助けようとしていたものであったもののいきなりのことで力を使い攻撃しようとした。しかしそれは紫苑の手によって止められた。


「落ち着け、俺はそなたらの味方だ。あいつらは俺が引き受ける」


そう言って紫苑は強制的に少女を座らせた。少女は力が抜けたように座り込みボーっとして紫苑を見つめていた。

紫苑は敵の方を向き、自身のつけている笠を脱ぐとその腰に刺している刀を抜いた。その刀は黒く紫の刃文を宿している。妖しく感じるのに何故か引き込まれるような美しさとその反面何故か恐ろしさも感じる刀である。その刀を見て帝国兵たちも見惚れている。

名を夜叉といい、鬼刀と呼ばれる刀である。

見惚れていた男達もその意識を無理やり外して紫苑を見る。少し警戒しながらも先程の恐怖の対象であった少女が戦わないために少しの余裕が出来た。そのために男達は先程の紫苑の見せた驚異的な速さを軽視してしまった。


「お前のおかげで仕事が楽になりそうだ。そこは礼を言うぞ。どうだ?その女二人を渡せばお前は見逃してやるが?」


「たわけが、助けると決めたのだ。乗るわけなかろう」


後ろにいる一番身なりがいい男がそう言うが紫苑は迷いなくそう答えた。おそらくは隊長である。


「剣聖でもないのに剣を扱うお前が7人と1人の差をどううめる?」


確かに人数差はあるだろう。大抵の剣士ならまだこの人数では脅威だろう。しかし紫苑もそれだけの人数差に負けるほど弱くはなかった。


「どれだけ数を揃えようがお主ら程度の者なら何も恐れることは無い」


「後悔しても知らないぞ?お前らやれ」


リーダー格の男がそう言うと1番近くにいた男が紫苑に向かって走り出してきた。走りながら剣を上に構えるとそのまま紫苑に振り下ろした。


「鬼樹流・鬼舞」


紫苑は振り下ろされた剣を高速で避けて相手の背後をとるとそのまま剣を抜き相手を切り上げた。斬られた男は血を流しながら倒れた。

その技は紫苑が収める剣術であって幼い頃から学んでいたものである。鬼舞は相手の攻撃を避けながら攻撃する技である。

鎧の上から魔力すら纏わずに切ったのに対して刃こぼれを一切していないその技量に帝国兵は少しの恐怖を感じていた。


「次は誰だ?」


「ヒッ!」


残りの6人のうちの1人は紫苑の発する気魄に呑まれて後ずさる。後ろには結ばれた長い髪が揺れている。その髪は黒く赤いメッシュが入っている。


「クソが!お前らいくぞ!」


恐怖に耐えられなかった男が叫ぶと周りにいた2人の男がそれにつられて紫苑に突撃していく。それを隊長格の男はじっと観察していた。

紫苑は直ぐに刀を構えた。


「鬼樹流・鬼舞乱舞」


それは人を殺す技であるのに舞のように美しかった。3人の男達がそれぞれ紫苑に攻撃を仕掛けているがそれを全て避けている。しかも瞬間には斬られている。

鬼舞という技は1人の人間相手よりも複数の人間相手を想定されて作られている技であるのである。しかもそれは舞のように行うために鬼の舞、鬼舞と名付けられたのである。

最初には7人いた男たちはいつの間にか3人までに減っていた。兵士と言ってもしっかりと鍛えられているのでそこら辺の狩人や傭兵よりもはるかに強い。それが4人をものの10数秒で全員が死んでしまったのだ。それも紫苑にかすり傷も与えられずに。残されたものに十分な恐怖を与えた。


「た、隊長!無理ですこんな化け物相手に!」


「そうですよ!あんな奴どうしろって言うんですか?」


自分より格上の者を相手に完全に弱気になった2人は隊長であろう男に不満をぶつけ縋った。しかし仲間であるはずのもの達に助けを求められているのに隊長はまるでゴミを見るよう、あるいは雑草のようなそんな風に仲間を見ていた。すると男は自身の剣を抜いた。抜かれた剣は両刃で真っ直ぐとしていて先程の男たちの持つ同じような剣とは違い重みを感じる剣であった。


「帝国兵の風上にも置けない奴らめ、帝国兵なら命をかけて戦え!」


「ですが我々では対処できません!いたずらに兵力を削るのは避けた方が良いと思われます!」


「そうです!勝てない相手にどうしろと言うんですか!」


「ほう?貴様ら程度が帝国の戦力を語ると?馬鹿どもめ、落ちこぼれの貴様らは精々その命を帝国のために散らせ!それが出来ぬなら俺が殺してやる」


「えっ?」


隊長は剣を横薙ぎに振り自身に話していた男の首を斬った。ゴキッと嫌な音がして首が落ちる。もう1人の兵士は横を見て呆然と突っ立って居るだけで未だにその状況を理解していなかった。


「貴様はどうする?」


隊長の言葉にたった一人残された兵士は周りを見るが誰もいない。どうすれば良いのかと聞くことも出来ず今彼の心は孤立している。それがどうであれ彼は動くことは出来ないだろう。何故なら恐怖に支配されているからだ。


「あ、あぁぁぁ!」


男は振り向くとそのまま紫苑に向かってきた。それは自身が生きるためでもありながら生きることを諦めたようで鬼の形相を紫苑に向けていた。途中で乱入してきた紫苑に対する怒りなのかもしれない。そんな相手に紫苑は刀を構えた。


「死ねぇ!お前が、お前さえ居なければ俺達は!」


そうして男は我武者羅に剣を紫苑に振った。それを紫苑はいとも簡単に受け止めた弾き返す。


「どの道お主らは死んでいただろう。弱き者を笑いながら襲っていたのであろう?そんな者が死に方など選べはせんよ」


「そんなこと関係ない!俺はまだ死にたくないんだ!」


それを聞いて紫苑は怒りを抱いた。何故なら覚悟が無かったのだから。死ぬ覚悟も殺したものを背負う覚悟も。自分の意思でここにいるのにも関わらず。自分の意思で無いなら嫌な顔などいくらでもするだろう。しかしこいつは最初は笑っていた。紫苑が王女を落ち着かせた時、その場の帝国兵士は全員恐怖の後安心するでもなく、嫌な顔するでもなく笑っていたのだから。全員が悪意を含めて。


「自業自得だ。死ぬ覚悟が無かったのか?人を殺すなら自分も殺される。命を奪うならそういう覚悟をしておけ!」


紫苑はそう言うと相手の剣を弾き飛ばしそのまま斬り殺した。


「次は貴様だ。外道」


「おいおい、なかなか辛辣だな」


「仲間を自らの手で殺すとは、しかも死ぬと分かっていて行かせただろう?」


「なに、役立たずが死んで清々するわ。だが俺でも貴様に勝てる気はしないからな。これを使わせてもらうぞ」


そう言うと男はいつの間にか手にしていた桜色の欠片を見せてきた。そこで紫苑の目は見開き驚きを見せた。しかし直ぐに目を鋭くさせて怒りを見せた。


「貴様ァ!それを何処で手に入れた?」


「やはり驚くか、あの方の言う通りだ。まさかこんな所で会うとはな」


隊長は紫苑の問に答えることは無くその欠片を飲み込んだ。すると男は一回り大きくなり、その身に着ているは当然ながらちぎれてしまっている。


「グハハハハ、まさかここまで強くなるとはこれなら簡単に貴様を殺せそうだな」


自身の得た力の大きさに嬉しそうに口角をあげた。自身の大きくなった腕を惚れ惚れするように見たあとこちらに目線を戻すとその巨体にものを言わせて突進してきた。その重さのおかげでドスドスと言う音すらなっている。


「貴様はここで終わりだ!」


その隆々とした腕で繰り出された攻撃は普通なら十分な脅威である。しかし紫苑は冷めた目で相手を見る。

紫苑は自身の持つ刀を構え相手を見据える。その目に恐怖を感じたのか隊長格の男も眉をひそめる。しかしなれない力で1度繰り出した攻撃はどうすることも出来ない。

紫苑は繰り出された攻撃をギリギリで避けた。避けた先は地面が割れている。

だが同時にそこにゴトッと何かが落ちる音がした。またぽたぽた水のようなものが男の腕から流れている。


「グアァァ!痛ってぇ!なんだどうなってやがる!」


「なに、貴様の腕を斬っただけだ」


男の右腕は斬られて落ちていた。しかも大量の血を流している。一瞬だった、しかも男は腕が落ちるまで気づかなかったようだ。


「な、なんであ、あれを使ったのにこんな簡単に!聞いていた話と違うぞ!なんで勝てないんだ!」


「借り物の力で俺には勝てんよ」


紫苑はそう言うと男の腹に蹴りを放った。すると大きくなり体重も100キロは超えていたはずなのにいとも簡単に吹き飛んで近くの木にぶつかった。


「ゲボ、ゲボ、なんでこんな簡単に、貴様はどこまで化け物なんだ!そうだ!あの王女の所へ行った時のスピードも、あいつらを簡単に殺した力も何か俺と同じようにして」


「貴様と同じにするな、あれは俺自身の力だ」


男は恐怖の目で紫苑を見た。その目には先程までの余裕は無かった。


「チクショウ!」


男はそう言って直ぐに紫苑に向けて走ってきた。拳を後ろに引き紫苑を殴ろうとする男、しかし紫苑はそれに対して剣術で無く刀を持たないもう一方の手で炎を出現させた。それをそのまま相手に向けると放ったのである。

その炎が当たると男も足を止めてその炎を消そうとする


「なんだこの炎は!あぢぃよ!消えねぇ、触っても消えねぇ!」


「その焔は地獄のものだ。悔い改めろ」


勢いよく燃える炎は直ぐに男の全身に周り一瞬のうちに燃え尽きた。後に残ったのは灰と先程男が飲んだ欠片である。

紫苑は男の灰に近づくとそのまま桜色の欠片を手に取ると自身の持つ袋に入れ先程の少女の元へと戻って行った。







すぐそこで戦闘を行って居たために直ぐに少女の居場所が目に入った。しかし少女は先程の戦闘で少し警戒をしているようだ。


(助けたとはいえ得体の知れない男をそう易々と信じられるわけないか)


「大丈夫、俺はそなたを傷つける気は無い」


紫苑は少女を刺激しないようにゆっくりと近づいた。しかしこちらを睨み警戒をとくことは無かった。


「それ以上近づかないで!」


「!?」


少女の声に反応して周りの植物が紫苑に襲いかかる。だがそれは紫苑の体ではなく足元を貫いた。つまりはここから先には近づくなという彼女の絶対領域であることを表していた。それでも紫苑はその警告を無視して歩き出す。何事も無かったように。敵意すら向けずに進んでいく。


「お願いだから来ないで!」


彼女の叫びと共に今度は刃とかした風が飛んできた。紫苑の体を刃物レベルの斬れ味で斬り裂くために紫苑の体は血が流れ始める。

紫苑は少女の前に着くと片膝を地面につき少女の肩に触れた。


「安心しろ。そなたもソナタの友も傷つけるものはこの場にはもう居ない。だから誰かを殺す必要はないのだ」


不器用な笑みを浮かべながら紫苑は彼女の前で安心させるように言う。すると彼女は目線の定まらなかった目を紫苑に向けた。


「もう大丈夫なのですか?」


「そうだ。何も心配はない」


その瞬間紫苑を信じくれたのか彼女は糸が切れたように意識を失った。隣に倒れる少女も眠っているだけのようなので大丈夫だと思われる。

そこで紫苑は考える。


(あの力、霊気は人の持てる力ではないはずだが…俺と同類なのか…)


紫苑が自身の考えに沈んでいると大きな光の玉が近づいてきた。その光の玉には意思が感じられた。


「~彼女を守って~」


「…何?それはどういうことだ?」


「~あなたはわかっているはず~」


「それはそうだがなぜ俺に頼む?」


「お願い」


「わかった。助けたのは俺だ。最後まで面倒は見る」


光の玉は紫苑が肯定の意志を言うと幻だったかのように一瞬で消えた。紫苑は少女を達を見て死体のそばに置いておくのは流石に可哀想で安全なとこまで連れて行こうと思ったのだが。


「貴様!その方たちに何をした!」


「誰だ?」


紫苑が怒声のした方を見せると火のごとく顔を赤く染め怒りをあらわにした表情でこちらを睨む騎士がいた。


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