いたずらっぽく笑みを浮かべ――

「というわけでチョージ・ワラヅカ軍曹! 鼓笛隊活動を再開します!」


 王都に着いた僕は、城でハイス王女に報告をしていた。


「お疲れ様です、ワラヅカ軍曹」

「はい! ありがとうございます!」


 王女はそれだけ言うと、書類に目を通し始めた。


「あ、あのぉ……」

「はい? 何でしょうか?」

「それだけ、なの?」

「それだけとは?」

「いや、だってさ……」


 一応僕は一週間入院していたわけだし、もうちょっと優しい言葉をかけてくれてもいいんじゃないの? 今日はいつもより冷たい気がする。


「冷たい? 私が? 当たり前じゃないですか!」


 突然王女が机を叩き、立ち上がる。


「軍曹が入院している間! 私はあなたの代わりに後処理をしたのです!」

「でも王女だからそれくらいしてくれたって――」

「いいえ! あなたは鼓笛隊の隊長です! 鼓笛隊の後処理はあなた自身の手でするべきです! 何故私がやらなければならないのですか!」

「むぅ……」


 なんだよ、せっかく約束を守ったのに。

 王女との約束通り、王都の皆を守ったじゃないか。


「ふーんだ! 王女様がそういう態度をとるなら、パスタちゃんとバジルソースプレイをするだけだからいいもん! あんたの言うことなんてもう聞かないんだから!」


 そう言って部屋から立ち去ろうとした僕の手を王女が掴んだ。


「軍曹」

「な、何さ?」


 急に態度を変えないでくれ。それとも王女はこういう駆け引きが好きなのか?


「これでも私、あなた達に感謝しているのです」

「王女様……」

「ほらガーデルピアって小国じゃないですか。いずれは大きくしないといけないのに父や母、姉様達は戦争で亡くなってしまったでしょう? だから私毎日が不安だったのです」


 そうか、あなたも孤独を仮面で隠していたのか。


「でも元気が出ました。あなた達の笑劇のおかげで」

「そう言ってくれると嬉しいよ」

「はい」


 王女がゆっくりと、僕の手を放す。


「というわけで、大感謝パーティーを開催しましょう!」

「え?」

「パーティーです、パーティー! あなた達鼓笛隊への感謝を込めて、お城でパーティーを開催するのです!」

「テンション上がってきた! 最高だね!」


 僕達のためにパーティーを開いてくれるなんて、王女様最高だよ!


「ローストビーフやサラダ、美味しい飲み物を用意して待っていますから、皆さんを集めてきてくださいね?」

「はーい!」

「もちろん、麻婆豆腐もありますよ!」

「はーい――え?」


 今、何て言ったのさ? マァボドウフゥ? 旧文明の食べ物でも、かなり辛い部類に入る、あの劇物? まさか――まさか、まさか、まさか?


「まさかそれ、王女様が作るの?」

「ふふふ、どうでしょうか」


 王女様はいたずらっぽく笑みを浮かべ――


「軍曹。残したら許しませんからね」


 僕に死刑宣告をしたのだった。

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