とびっきりの笑顔で、そう叫んだ

「あれ? お前は……」


 病院を出るとマリナ・シャンクティが僕のことを待ち構えていた。


「何さ? 僕に何か用?」


 マリナは黙って僕に近づき、そして――


「申し訳、ございませんでした……!」


 深く、深く、頭を下げてきた。


「おいおい、どうしたのさ?」

「私、今まで高圧的な態度を取ってきたのに、あなたは私とお父様のこと――」


 ああ、そのことか。


「ま、気にしないでよ」


 その横を通り過ぎ、それだけ言って去っていくつもりだった。


「親父さん、元気?」


 でも何故か話を続けてしまった。


「《焔奏怨負インフェルノーツ》の体内侵食は止まりましたが、しばらくは牢屋生活になりそうですわ」


 別にマリナと話をしたかったわけではない。

 彼の父、リカルドのことが少し気になっただけだ。


「ふーん」


 彼も僕と同じ、仮面を被った道化師に過ぎなかった。

 もし僕が笑顔かめんのままだったら、きっと彼のようになっていたのだろう。


「まあ、元気ならよかったね」


 今度こそマリナの横を通り過ぎる。


「チョージ・ワラヅカ!」


 しばらく歩いて、呼ばれたので振り返る。


「父のこと、本当にありがとうございます」


 ああ、もう。僕とお前はそんな関係ではないだろう。


「なーんだ。僕の童貞が欲しいから、呼び止めたのかと思ったよ」

「な、な、何ですって⁉」

「残念だけど僕の童貞はパスタちゃんが予約しているからさ、ごめんね」

「あなたは! あなたって人は!」


 マリナは震えながら、でもしっかりと僕の目を見て――


「やっぱりあなたなんて! 大嫌いですわ!」


 とびっきりの笑顔で、そう叫んだ。

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