これでいい?

「ひどいな、これは……」

「うん」


 村に着いた僕達はその惨状を見て、絶句した。村には人の気配がせず、地面には黒い染みが広がっている。きっと、《焔奏怨負インフェルノーツ》が人を喰った後なのだろう。


「ガーデルピアには《音楽姫ビートマタ》がいないからな」


 この頃はまだガーデルピアに《音楽姫ビートマタ》がおらず、他の国と比べ遅れていた。


「軍としては、もうこれが日常茶飯事なのだろう」

「そんな!」

「《焔奏怨負インフェルノーツ》が国を喰い尽くすのも時間の問題。だから少しでも犠牲を減らすために俺達みたいな落ちこぼれが調査に駆り出されるのさ」

「ジャーニー……」

「さて任務を開始するぞ。落ちこぼれは落ちこぼれなりにやってやろうじゃないか」

「ジャーニーは、強いね」


 手分けして村の中を歩き回った。僕は人の気配のしない家に入り生存者を探したが、見つからない。床には黒い染みが広がっているだけだ。


「くそっ!」


 僕は悔しくて、たまらず床を踏んだ。


「きゃっ」


 その時だった。家の奥から声が聞こえたのだ。


「誰かいるの⁉」


 奥の部屋に入り、扉を開ける。するとそこにはベッドのシーツを頭に被り、震えている少女がいたのだ。


「やっと見つけた、生存者」

「だ、誰?」

「僕はチョージ・ワラヅカ。君を助けるために、ここに来た」

「助けに来てくれたの?」

「ああ。君は?」

「私は――リール」

「リール?」

「笑うっていう意味の、名前」

「じゃあもっと笑ってよ。君は助かったんだからさ」

「無理」

「あ……ごめん」


 そうか、彼女以外皆この家にはいない。きっと家族は《焔奏怨負インフェルノーツ》に喰われてしまったのだ。そんな彼女に笑えなんて、無理があるだろう。


「とりあえず、外に出よう。今は安全だから」


 家の外でジャーニーと合流した僕は彼女を連れて村の外へ出た。


「どこへ行くの?」

「王都さ。そこに行けば君の安全は保障される」


 だが彼女は足を止める。


「どうしたのさ」

「私は村に残る」

「そんなことをしたら《焔奏怨負インフェルノーツ》の残党に喰われるぞ!」

「いいの、もう。だって皆いないし」

「馬鹿!」


 僕はそんな彼女の肩を強く掴んだ。


「せっかく生き残ったのに、どうしてそういうことを言うのさ⁉」

「王都に行っても、皆はいない」

「じゃあ僕が! 僕が皆の代わりになるよ! 約束する!」

「そう思うなら、あなたが笑って」


 彼女は自嘲気味にそう言った。それが僕は悲しくて、悔しくて。


「私を憐れんで、そんな顔をしないで」


 だから、僕は――


「これでいい?」


 彼女の悲劇を、笑劇に変えることにしたのだ。

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