あれは笑劇とは、言わない

パンを食べようか

「ふぁぁ……」


 朝、目覚めると当然のように僕の隣で眠る少女がいた。


「リール、朝だよ」

「朝……?」


 リール・アンサンブル。僕と契約した《音楽姫ビートマタ》の少女。人間と大差ない機械人形の少女が僕の隣で眠っている。このパン屋に来てから毎日のように彼女はベッドに忍び込んでくるのだが、不思議と嫌な気分はしない。リールは可愛いからね。


「おはよう、チョージ」

「うん、おはよう」


 今日も朝からこの顔を見ることができて、僕は満足だ。


「今日はどうするの?」

「また皆を集めて訓練かな」


 そんなことを話していると部屋の扉が開いた。


「チョージ! あなた、またリールと寝たの⁉」


 部屋に入ってきたのはアコ・アンサンブル。リールの姉妹のような存在であるアコーディオン型音楽姫ビートマタだ。物静かなリールに代わり、他の姉妹達をまとめている。


「ふふん、いいだろう? 可愛いリールの寝顔を見るのは僕だけの権利さ!」

「おのれチョージめ!」


 ちなみにアコはリールが大好きなお姉ちゃんっ子である。可愛いなぁ。


「リコも何か言ってやりなさい!」

「チョージさんが悪いわけじゃないよ……」


 アコの後ろに隠れてやってきたのはリコーダーの音楽姫ビートマタであるリコ・アンサンブルだ。アコとリコは仲が良く、二人で一緒にいることが多い。


「おはようございますチョージさん……アコが騒がしくてごめんなさい」

「あはは。賑やかなのはいいことだよ」

「そう、ですか……」


 リコは控えめな性格だ。よく遠慮することが多く、あまり目立たない。しかし彼女には彼女の優しい部分があり、そこに魅力を感じるのは言うまでもない。


「この様子だとあの二人も来るかな」


 そう呟くと同時にクローゼットが開く。誰だ、そこに隠れていたのは――


「おはよう、チョージくん」

「フーロさん。どうしてクローゼットから出てくるのですか!」

「ふふ。私もリールの寝顔が見たくてね」


 鼓笛隊に二人もシスコンの変態がいるぞ。大丈夫かな。


「むむ! チョージくん、私はお腹が減ったぞ!」


 そんな彼女の名前はフーロ・アンサンブル。この鼓笛隊皆のおねえさんを自称する長身の女性だ。彼女はバスドラム型音楽姫ビートマタであるため体力を使うらしくいつもお腹を空かせているが、食べる割に体型は整っている。ロストテクノロジ、おそるべし!


「待ってね、まだ揃っていないから」

「皆揃っているではないか! うむぅ、遅刻してしまったぞ」

「あ、来た」


 最後にやってきたのはザーナ・アンサンブル。本当の彼女はこのような話し方をしないのだが、本人が好きでやっているので暖かく見守っている。

 ちなみに、この話し方は旧文明の資料によると邪気眼と呼ばれる属性の一つらしいが、他に詳しいことは何一つわかっていない。僕もまだまだ勉強不足のようだ。


「チョージよ、我もお腹が減った! 何か供物を――」


 難しそうな話し方ができるザーナのことを僕が密かに尊敬しているのは内緒である。


「はいはい。じゃあ皆でジーガルが焼いたパンを食べようか」


 彼女達アンサンブル姉妹はガーデルピアがロストテクノロジを応用して生み出した《音楽姫ビートマタ》である。それぞれがメジャーバトン、アコーディオン、リコーダー、バスドラム、シンバルの力を宿しており、皆僕が隊長を務める鼓笛隊に入隊することになったのだ。

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