キャパシティオーバーを考えていなかった

 リールの服をいくつか購入した僕達は再び商店街を歩いていた。

 すれ違う人達が皆リールのことをチラチラと見てくる。皆、リールが気になるのだろう。


「あの子可愛い!」

「お人形さんみたい」


 本当に人形なんです、とは言えなかった。まあリールが可愛いのは事実だし、そう言いたくなるのもわかる気がする。


「ん?」


 ふと隣を見ると、リールが足を止めて何かを見つめている。どうしたんだ? 僕よりもかっこいいイケメンが現れて、見惚れているのか? ぐぬぬ! ジェラシー!


「どうしたの、リール。何かあったの?」


 リールの先を見ると、そこにはイケメン――ではなくパフェの写真が貼ってある喫茶店があった。店の名前は『イッパイアンテナ』。なんか、電波が良さそうな名前だな……。


「パフェを食べたいのかい?」

「うん」

「じゃあ行こうよ」


 僕はリールの手を掴み、喫茶店に入る。他に客はいない。

 ゆっくりできて、良いではないか。少し休憩しよう。そうしよう。


「すみません。この『すごいパフェ』を二つください」

「かしこまりましたぁ」


 やたらテンションが高い店員が、カウンターの奥にいる愛想のない男に注文を伝える。よく見ると、二人の顔はそっくりだ。双子というやつなのだろうか。


「パフェ、楽しみだね」

「うん」


 一見無表情だが、リールの頬がさっきより紅くなっている。きっと本当にパフェが楽しみなのだろう。メニュー表にすごいパフェと書いてあったから、期待はできそうだ。

 だからといって、名前をそのまま『すごいパフェ』にするのは――ありなのか?


「はーい、お待たせー! すごいパフェでーす!」


 頭の中で、一般的にはとてもどうでもよいことを考えていると、先程の店員がやってきた。慣れた手つきで、パフェをテーブルの上に置いていく。プロフェッショナルだ。

 テーブルに置かれたのは特に何の変哲もないパフェであった。


「いただきます」


 一体これの何がすごいのだろう。そう思いつつ、一口分を口に運ぶ。

 これは――これは? これは! 何だ⁉ これは!


「すごい!」


 何これ⁉ すごい! とにかくすごい!

 すごい――パーフェクトな味の調和! もうすごいしか、言えなくなる食べ物だ!


「リール! これすごいよ! 食べてごらん!」

「うん」


 僕に続いてリールがパフェを食べる。

 きっとリールもすごいと言うはずだ。美味しいとか、不味いとかの次元を超越した、すごいパフェなのだから、リールだってきっと喜んですごいと言うはずだ。


「警告」

「ん? どうしたのさ、リール」

「許容値を超えるすごさ。システムに異常発生。繰り返す、システムに異常発生」


 しまった。キャパシティオーバーを考えていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る