手袋越し
一直線のカーレースってこんな感じなのかな。
なかば意識が遠ざかっては遠ざかって、さらに遠ざかって、杉と雪以外の景色から一変して、黒紫色の道路が視界一面に広がったところでしずりに呼ばれた六花は、ついゴールインと叫んでいた。
「そうだ。ゴールインだ」
満面の笑みのしずりを見た六花は、けれど彼女の顔が何重にもぶれて見えたので頭を何度か振って、瞼を何度も開閉させてから、少ししかめっ面で見つめて。
少し、かなりがっかりした。
妹ではない。当たり前だが。
ついついしくしく泣きそうになるのをぐっとこらえて、雪狼にお礼を告げてから背中から下りた。
途端、つってんころりん転びそうになったところをしずりに受け止めてもらい、間一髪だったのだが、二度も助けられた六花は恥ずかしくなって赤面した。
(うえええ、あちい)
顔も隠れているので見られずに済んでいるのは幸運だと、ほっと胸をなでおろした。
「ほら。ここは氷の地だから」
しずりは手を六花に差し伸ばした。
六花はちょっとためらった。
ひゅーいと。このまま滑って行けば迷惑はかからないだろうと思ったからだ。
けれど。
この空間が。
上も下も右も左も、どこまでも。
境目が、どこが壁でどこが地面かもわからないくらいに水色に透き通ったここが少し怖くて。
少し。
まるで湖の中に落っこちちゃったのではないかと考えてしまったので。
「ごめん」
「滑り止めしているはずなんだが。まあ、しょうがないな」
「うう」
木の皮の手袋越しに手を繋いだ六花はもう一度、ごめんと謝った。
しずりはまったくだと明るく笑いながら、けれど歩みはゆったりと進めてくれた。
むずむずと全身がかゆくなった雪狼はこのまま駆け走りたい気持ちを必死に抑えては、ほっこりと笑って立花としずりの背中を見守りながら、同じくゆったりと歩を進めた。
(2022.6.27)
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