スケート




「死ぬぞ、六花りっか


 しずりはいきなり積雪に飛び込んだかと思えば、その場で手足をばたつかせる少年、六花を少しの間見ていたが、まんじりとも進まないので飽きて、かつ助けた方がいいんじゃないかとの雪狼の口添えもあり救出へと向かった。

 積雪の表面に立って、首根っこを掴んで、引っ張り上げて、お姫さま抱っこだ。

 背負うのは嫌いだったのでそうした。

 木の皮を厳重に編み込んだ防寒着と防寒具で全身を守っていたので、凍傷の心配はないだろうが、顔を全然上げていなかったので、呼吸ができなかった可能性は大いにある。


 しずりは注意深く六花の顔を見ては、呼吸の流れを感じたので大丈夫だろうと判断したのだが、六花は無言のまま。

 ぐしゃぐしゃに顔を歪ませていた。


 私に助けられたのがそんなに嫌だったのかと思い手を離そうとしたが、人間の身体は弱いものだよと母に言われたことを思い出して、そうはしなかった。

 このまま抱きかかえたままソーダ氷がある場所まで向かった方が早いと考えたしずりは、このままで行くぞと六花に言えば、遠慮しますと返ってきた。


「なんだと?」

「妹に助けられて、しかも抱きかかえられたまま行くなんて。兄として不甲斐なし」

「だれが兄だ、だれが」

「俺が」

「おまえな。妹がとてつもなく恋しいからと言って、私を妹の代わりにするなよな」


 ますます顔がぐしゃぐしゃになってしまった。

 面倒なやつだと思いつつ、しずりは静観していた雪狼を見た。雪狼が小さく首を縦に振ってくれたので、雪狼の背中ならいいかと六花に尋ねた。六花はとても弱弱しく首を縦に振った。


「あの。ずみません。お願いします」

「ああ。ゆっくり行くから安心しろ」

「ばい」

「じゃあ行くぞ」


 しずりと雪狼はみじんも沈むことなく、まるでスケートリンクのように積雪の表面を軽やかに滑って行った。

 ゆっくりってなんだっけ。

 六花は疑問に思いながら、とりあえず落ちないように雪狼の首に抱き着いた。

 ちょっぴり冷たくて、すっごくふわふわもふもふしていた。










(2022.6.27)


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