クロール
きゃっきゃきゃっきゃと笑いながら助けを求めるしずりがこの刻、なぜか俺は妹に見えて、もう会えないだろう妹に見えて、俺はしずりの前に立ちはだかる雪狼めがけて大声を上げながら突進した。
平らな場所まで辿り着いてそりを引っ張っていたところで、雪狼に遭遇した俺は一瞬硬直した。
怖いから。
ではなくて。
超かっこよかったから。
興奮した俺が両手をあげて抱き着きに行こうとするよりも早くに、しずりが動いて雪狼の首に抱き着いてもふもふした。
うらやましい限りの行動を取ったかと思えば、雪狼の後ろに回り込んで、なぜか助けて発言。
ふつうに考えれば、ただの悪ふざけ。
けど、俺の目にはもうそうは見えていなかった。
なんせしずりが妹に、かっこいい雪狼は悪い雪狼に見えてしまっているのだ。
助けずしてどうするか。
おりゃあああああああ。
腹の底から、頭の血管が切れそうなくらい叫びながら俺は雪狼めがけて突進した。
一直線。猪だ。
ただし、のろい猪だ。
深い雪のせいで足が思うように動かないんだ。
雪の中を泳いだほうが早いんじゃないんだろうか。
優秀な俺の頭脳がささやく通りに俺は雪の中に突っ込んで、手足を動かした。クロールだ。これでもう一瞬で雪狼まで辿り着くこと間違いなしだ。
待ってろよ。俺のかわいい妹よ。今俺が、お兄ちゃんが助けに行くからね。
(2022.6.26)
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