そり滑り
妹が生まれてから、俺は冷たい人間になった。
仮病、脱走、嘘つき、だだこね、噓泣き、夜更かし、不法侵入。
自分が考えられるせいいっぱいで小学校には行かないで家に残ろうとした。保育園に行こうとした。
共働きの母さん、父さんを困らせ続けた。
妹のせいだ。
妹のせいで俺は。
ぜんぶぜんぶ、妹のせいだ。
目に入れても痛くない食べちゃいたいくらいかわいい、あかんぼうの妹のせいだ。
母さん、父さんだけじゃない。
友達や先生、近所の人も困らせている。
わかっているけど、いやなんだはなれたくないずっとそばにいたいできることはぜんぶしてやりたいしたい。
おむつ替えも、ミルクの準備も、ミルクをあげるのも、着替えさせるのも、お口の周りをふくのも、爪を切るのも、げっぷをさせるのも、絵本を読むのも、歌うのも、話しかけるのも、おなかをぽんぽんするのも、抱っこするのも、お風呂に入れるのも、身体をふくのも、おんぶをするのも、ベビーカーに乗せて散歩に連れて行くのも、朝昼晩寝かしつけるのもぜんぶぜんぶ。
妹を独り占めしたいって考える俺は、他の人のことを考えられない俺は冷たい人間なんだ。
わんわん泣いた。
ごめんなさいごめんなさい、妹のことしか考えられなくてごめんなさいって。
でもおねがいだから妹のそばにいさせてくださいって。
わんわん泣いていっしょうけんめいおねがいした。
のに。
母さんは妹を連れて母さんの家、つまり俺のおばあちゃんおじいちゃんの家に行ってしまった。
とおい、とても遠い場所に行ってしまった。
父さんと二人きりの家はかまくらよりずっと、うんとずっとひえびえとしていた。
妹がいない家にいたくない俺は、冷たい人間の俺は、走り出した。
友達から聞いた、冷たい生物しか入れないかまくらへと。
父さんも母さんも大嫌いだと言ってしまった俺はもうそこでしか暮らせないんだ。
そうして俺は今、雪女の子どものしずりとそり滑りをしていた。
遊んでいるわけじゃない。
暮らすところではないけれど帰りたくないなら泊ってもいいですただし働いてもらいますよ。
と雪女に言われたから、俺はしずりと一緒にそりに乗ってソーダ氷を取りに行っているだけだ。
(2022.6.15)
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