第35話 A級ギルドの心得

翌日、俺たちは集まってお頭とA級についての話を聞くことになっていた。

結局、残りプレイヤー数は49人のまま。

ほぼ全てのプレイヤーはB級に昇格し、C級以下に留まっているプレイヤーは犯罪者ギルティのみになっていた。これはアポロ派、ステイル派が装備の新調によってB級下位までは下駄を履いたことを意味している。

A級昇格者は自分達の他にはガレット、トモヤ、トウゴウ、アポロ、ジェイスと見慣れた面子だ。ワイバーンロード討伐戦で前線に来なかったため報酬は6人中最もショボかったであろうアポロがきっちりA級に上げて来ていることから、トモヤの言う通り装備はかなり強力なことが伺える。

これらの簡単な確認を終えた後、話を聞くべく皆と合流した。


「おはようさん。

今日からうちのギルドはA級ギルドとして動くことになるわけだけど、A級ギルドの最大の特徴は王都への出入りが自由になることにある。宿内で念じれば王都行きの専用転移石を呼び出せるようになっているはずさ。逆に王都側から戻る時は、転移先に置かれている転移石に触れれば戻って来られる仕組みになってる。

王都にいるのは基本的にA級以上のギルドの構成員か貴族だ。貴族は元々S級ギルドの主力メンバーで国に多大な貢献をした者の家系で、A級以上のギルド構成員であることも多いね。そんな場所だから犯罪ギルティのリスクはここらの比じゃなく高くて、治安はかなり良いはずだよ。」


なるほど。王都では犯罪の難度が大幅に上がるというのは、裏返せば報酬が大きくなることを意味しているだろう。貴族の宝物庫から盗み出すことでハイリスクハイリターンプレイが可能になることが予想出来る。ここまでの犯罪プレイにはどうにも旨味が感じられなかったが、ここから先は警戒すべきプレイということになりそうだ。警戒先の筆頭は当然カシムということになるだろう。


「次に施設だけど、今まで通り武防具店や鍛冶屋が王都にもあって、当然グレードはこっちの比にはならない。ただ、道具屋が無くて代わりに魔道具屋があるね。」

「魔道具?」

「詳しくは店で見るのが手っ取り早いと思うけど、これまでより効果の大きい消耗品や装飾品だけじゃなく、マニアックな効果のアイテムも取り扱ってるみたいだね。」


ふむ。ここまで数値を上げて殴るための効率プレイの優位性で殴って来たが、上位同士の戦いには丁度大きな不安があったところだ。この辺りで有利な小細工をするきっかけが作れたらありがたい。


「あとは、お前さん達にはあまり関係ないかもしれないが教会だね。

教会で祝福を受けると上書きするまで永続するバフを受けることが出来るんだ。ただ、A級に至るようなプリーストのバフと比べると圧倒的にバフ量が小さいし、基本的にはプリーストがいないパーティー向けだね。」


真っ先に思い浮かんだのはジェイスの顔だった。

これまでプリーストがいない不利がありながらも戦闘センスで上位と渡り合ってきたジェイスがバフを受けるというのは由々しき事態だ。最高速のジェイスが攻撃バフを受けてこちらの防御を貫通してくるとなったら対策を講じないと危険だろう。

だが、ジェイス以外でもプレイヤーであればこの永続バフを利用した手数稼ぎは使い道がありそうだ。


「施設に関してはこんなところさ。

最後に、A級ギルドの特典とも義務とも言えるものとして、王都防衛戦への参加と人類領域の開拓がある。

王都は不定期に魔物の軍勢から攻撃を受けている状態でね。王都なんて言われているものの、その実最前線なのさ。これをA級以上のギルドで協力して退けていることで何とか今の生活が成り立ってる。

これに人員を出すのはA級以上のギルドの義務なわけだけど、出来高の報酬がかなり良いのでほとんどのギルドが主力を参加させているね。

逆に開拓の方は未開領域に人員を派遣して、安全性や有用性を調べる仕事だ。こっちも出来高ではあるけど、何が出てくるか解らないから危険も大きいし、逆に何も出て来なければ報酬もしょっぱい。まぁ、A級ギルドでは力不足だけど、野心はあるタイプの人員が好んで受けてる仕事だね。

こっちは人員を割くことがギルドの義務なわけでもないし、希望者がいなければうちのギルドは関わらないつもりさ。」


開拓の方はお頭が言うように関わる必要性は薄そうだ。一方で王都防衛戦は参加すべきだろう。報酬も気になるが、上位ギルドの力量や戦術を知れるのが大きい。


「とりあえず、予め話しておくべきことはこんなところだね。

あとは実際に王都へ行ってみて、自分達の目で見てくると良いよ。」


そう言うお頭に礼を告げ、いつもの念のためバフを行ってから俺たちは転移石を起動させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る