第29話 基本的には安全な場所
その後、俺たちはヴァンパイアを狩り続けた。
創作ならきっと俺にはさぞ素敵な二つ名が与えられたことだろうが、残念ながら
ヴァンパイアには思ったより個体差があった。最初の1体は溜めた魔力を放つその前に斃したが故にほとんど無傷での討伐に成功したが、短めの溜めで魔法を連発するものや、中程度の溜めで強力な魔法を放つものもいた。一番厄介だったのは完全に肉弾戦に寄せてきた個体で、ダブルキャストで物防はバフが劣る分こいつからはかなりダメージを貰った。
ただ、怒りの表現の仕方こそ個体差があったが、全ての個体が種と自らの強さを誇りとしており、そこを徹底的に侮辱することで我を失うことは共通していた。
そんなこんなで必ずしも楽に勝てるというほどでは無く、それなりに休憩も挟んだが、それでもこれまでと比べるべくもない程の効率で稼ぎを行えた。
ドロップ報酬は極めて充実しており、頻繁に落とすヴァンパイアエッジは攻撃力+100%、速度+15%の500万G相当の武器だ。時折、少し性能が良い攻撃力+110%、速度+15%のものが手に入ったので、ルージュの武器は二本ともこれに更新した。
また、1度だけヴァンパイアハートという装飾品を落とした。勿論、ヴァンパイアの心臓というそのままの意味のグロテスクなものではない。少し暗色掛かった赤色の…恐らくはガーネットだろうか。あたかもヴァンパイアがこれまでに啜って来た血を凝縮したかのような、昏く、しかしそれでいて誘い込まれるような紅き輝きを湛える宝石。それを中心にあしらった首飾りだ。
当然、見た目が美しいというだけではない。魔力+25という破格の魔力向上効果を持った装飾品だ。これは路地裏ギルドで見掛けたことすらない逸品で、買うとしたらいくらになるか、少し想像に難い。少なくとも2000万G未満では買えないのではないかと推測している。
当然、これはリリカが装備することになるのだが、あまりの品だったため、リリカの方も恐縮してしまって渡す際に不自然な空気になった。初々しいカップルが初めてプレゼントを渡す時のような空気感になってしまったせいで、ルージュに死ぬ程からかわれた。
現時点で3日程狩りを行い、貯まった金で俺の杖も更新した。1200万Gの杖をメインに据え、防御力の上昇値は290にまで上昇。ダブルキャスト側も1000万Gの杖で上昇値が220になった。
このバフ更新を以て準備完了と見做し、明日はA級への挑戦について話し合うつもりだ。
プレイヤーの残り人数はヴァンパイア狩り開始日こそ65人と4人減少したものの、その後63人、62人と脱落者の数が減ってきている。
50位になると賞金が10倍の100万円になるため、所謂バブルラインが意識されてきているように見える。ポーカーのトーナメントなどで顕著だが、インマネーに関わる際や大きな賞金変化が近付いた際に、プレイに無駄に時間を掛けたり極端に消極的なプレイを行って、他のプレイヤーが脱落するのを待つ戦術が有効になる局面が存在する。
このゲームにおいて50位近辺は正にそんな場所の1つだ。しかも、冒険者の宿の中で何もせずにじっとしていれば、脱落の危険は一見無い。ただ、冒険者の宿内で何もせずにじっとしている状態はテストプレイにとって好ましいとは思えず、運営側が何も対処しないとは考え難い。
とはいえ、上位は消極的になった下位が効率から外れる分を利用して優位を広げるのが正着なので、現段階で俺が何かを意識する必要はなく、効率プレイを続ければ良いだろう。
順位に関してはガレット→俺→トモヤ→トウゴウ→アポロ→ジェイスでずっと推移していたが、本日夜、遂に俺はガレットを抜いて1番手に躍り出た。
ヴァンパイア狩りは稼ぎ効率そのものも素晴らしかったが、不人気だったので全く依頼が枯れることが無かったのも大きかった。他のプレイヤーが色んな稼ぎ方を検討して四苦八苦している間、ずっとヴァンパイアを悠々狩れたのが大きかったのだろう。
これまで何度か「やったか?」と思っても決して追い付くことが出来なかった相手に漸く牙が届いた喜びにグッと拳を握りしめた。
§§§§§§
翌朝、警告音と共に目を覚ます。
目の前には、いつものものより強調された警告ウィンドウが表示されている。
「<
ワイバーンの大群が襲来。
ワイバーンの群れから街を守り、王を討伐せよ。」
ウィンドウに触れると、詳細が表示される。
内容はざっと、
・30分後に全プレイヤーとそのパーティーが戦場に強制転移される
・最奥のワイバーンロードを撃破すればミッションクリアとなる
・斃したワイバーンの質と量に応じてミッションクリア時に報酬がある
・転移先におけるプレイヤー及びそのパーティーを対象とした攻撃を行った場合、リーダーが死罪の対象となる
というようなものだ。防衛ミッションとはいうものの、拠点防衛戦というよりは単純に効率良くワイバーンを狩るミニゲームと考えた方が良さそうだろうか。
なるほど、冒険者の宿引きこもり戦略はこういう形でメタられているわけか。ワイバーン程度と問題無く戦えるまで鍛えず、引きこもっていたプレイヤーはここで淘汰される、と。
そして、この手のミッションで一番怖いプレイヤー側からのフレンドリーファイアはペナルティが重過ぎるのであまり気にしなくて良さそうだ。一応、ワイバーンを対象にした火力魔法の巻き添えにならないようにだけは注意する必要があるか。
…残念ながらA級への挑戦はお預けということになりそうだ。
そう思いつつ階下へ降り、仲間と合流する。
大規模な襲撃は珍しいようで、皆緊張した面持ちだったが、前線の自分達がワイバーンを狩れば狩る程、街の防衛が楽になるとやる気は十分なようだった。
基本的には奥へ向かい、ロードを狙うかは様子を見つつ判断という方針でまとめた。
タイミングを測ってバフを行い、強制転移の時間を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます