第27話 罪と罰
外に出ると、待っていたのは意外な人物だった。
二コラ、だ。借金は完済済みなので、俺としては特段の感情は持ち合わせてない。
いや、
パーティ全員でお出迎えということなので、復讐に来たというのなら、まぁ、対応するが…
「恥を忍んでお願い致したいことがあります。」
そう言いながら、二コラは驚く程美しい姿勢で頭を下げた。
アレ?
The・無能貴族と呼ぶべき立ち振る舞いをしていた記憶があるのだが、これは別人ではないのか?
実はこの世界では死ぬと別のクローンが降って来て、キャラが更新されるとかそんな仕様あったりする?
「えっ、あぁ、とりあえず話は聞こうか。」
取り乱して変な声が出てしまったが、一旦二コラの話を聞くことにした。
聞けば、4人組の盗賊団に襲われたらしい。
最初は3人の
俺はメニューを開きリストを見せ、二コラに人相を確認させた。…別パーティーでも確認出来るんだな、これ。
そうすると、C級500万Gの男が暫定首領、残りはD級で300万、200万、200万だった。犯罪者のランクがそのまま力量と一致すると見るのはやや危険な気がするが、たかだか数十万Gのロザリオを得るために罪を重ねる相手と考えると、これはトンでもなく美味しい獲物だと判断して良さそうだ。そもそも、二コラ相手に囮を使っている時点で高が知れる。
加えて、密かに尾行した結果、街外れの空き家を根城にしていそうなことまで掴んだようだ。
「それで、盗賊団を壊滅させてロザリオを取り返して欲しいと?」
俺が問う。正直、美味しい話なので明らかに罠がありそうでなければ受けるつもりだが。だが、二コラの返答は予想に反したものだった。
「いえ、それに関してはお任せ致します。もうロザリオは売られてしまったかもしれませんし、もし取り返して頂けたとして、それを僕に返して頂けるかもお任せします。
ただ、この情報と引き換えに僕たちに戦い方を教えて頂けないでしょうか。」
全く予想だにしなかった内容だったので、固まってしまった。
二コラが続ける。
「あなた方に敗れはしましたが、正直なところ、それは相手が悪かったものと高を括っておりました。
そして、返済のため今まで以上に戦い、それなりに力も付いたと自信を深めていたところで賊に襲われました。賊に良いようにされるなど、ペリゴールの家にこれ以上ない泥を塗ってしまったことになります。
これまでと同じように戦っていたのでは、僕はこれ以上に恥を上塗りしてしまいます。何卒どうか、ご教授のほどを…」
ふと隣を見やるとリリカが今にも泣きそうな目で俺を見つめていた。話を聞いた感じ隣国の貴族出身だろうし、この覚悟に思うところは強いんだろうな…
二コラは言い終わると地面に這いつくばる姿勢を取ろうとしたので、俺はそれを静止し、告げる。
「待て待て待て、とりあえず前回の戦いの問題点を教えてやるから。」
俺はプリーストはまず一にも二にもバフを掛け回復はその次に考えること、後衛が策も無しに前に出るのは論外であること、騎士は後衛を守るために陣取り、後衛は騎士が守れるような布陣を常に意識すること、戦いを続行するのか降参するのかの判断を明確にして一貫性のある行動を取ることなどを教えた。
また、剣士に関しては俺からは特に言うことが無かったのでルージュに任せた。
正直、この辺の基礎の基を違えないだけで見違えるほどまともになると思うし、それで格下の賊に良いようにされることもなくなるだろう。
一旦、これを守って戦ってみてそれでも行き詰まったらまた相談に来るよう伝えると、全員が綺麗なお辞儀をして去って行った。
「…さて、俺はこの盗賊団を壊滅させようと思うが、異議はあるか?」
俺が仲間に問うと「言われるまでもない」とばかりに皆が殺気立っていた。
まぁ、知り合いが盗賊団の被害に遭ったらそういう反応の方が自然か。
「ちなみに確認したところ、この盗賊共はプレイヤーのようだ。
元々犯罪者に掛ける情などないかもしれんが、遠慮なく、むしろ必ず息の根を止めるぐらいのつもりでいてくれると助かる。
逃がしたくないので、隙を見て確実にやって欲しい。」
そう告げると、俺達はリリカの魔法を軽量のサンダーゲイルに切り替えた後、警戒を怠らずに目的の場所まで歩を進めた。
中に人の気配を確認し、バフを更新してから中に入った。
「こんにちわー。この間ロザリオを奪われた人の知り合いの者ですー。」
中を見ると、4人ともいた。首領と思しき男が、
「ロザリオってのはこれのことか?」
と言いながらそれを地面へと放り投げる。まぁ、これは確実に罠だ。
この手の場面では悪党はニヤニヤしながら眺めているのが常だと思うが、残念ながら4人共表情は真剣そのもので余裕はない。
ただ、全員が杖を構えているが、詠唱を開始していないのを確認して、俺は歩き出す。すると全員が詠唱を開始した。…遅過ぎる。
「あー、これですよ、これ。良かった良かった。それじゃ、これは返して貰いますよ?」
と言いながらロザリオを手に取ると、「馬鹿め、死ね!!」と叫びながら一斉に魔法攻撃を仕掛けてきた。俺は炎に包まれる。
だが、次の瞬間首領の目に入ったものは、無傷で立ち尽くす俺の姿と、変わり果てた仲間の姿だった。
下位のプレイヤーがこんな短い詠唱時間で使える魔法で俺のバフを超えられるわけはなく、魔法使用の隙を仲間が見逃すわけもなかった。オーダー通りの一人一殺だ。
「あっ、あっ、あっ…」
首領は言葉にならない声で呻く。
「もしかして、僕が物理攻撃にしか対策してないとお思いでしたか?」
二コラと戦った時には既にダブルキャストを使用していたが、公の場で魔法攻撃を受けたことは無かった。上位のプレイヤーと下位のプレイヤーではそもそも攻略速度に対する感受性が違う。下位のプレイヤーは自分達と同じく他のプレイヤーも未だにバフを使いこなせていないと本気で思い込んでいる可能性がある。
「違うんだ…俺は、俺たちは別にやりたくてこんなことをやってるわけじゃないんだ。仕方なく、生きるために仕方なく…」
よく解らないことを宣い始めた。
俺達が悪を裁くためにここに来たと思っているのだろうか。
まぁ、
この命乞いにどんな意味があると思っているんだろう。解らない。
もしかして、このゲームがPvPを前提にしていることを理解していなくて、本当に悪を裁きに来た正義の味方気取りだとでも思っているのか?
「仲間がどんな気持ちであなた方を裁くかは解りかねますが、僕にとってはあなたが悪であるかどうかは興味ありません。知り合いに害を与えたかどうかすら正味興味の外です。ただ、目の前に500万Gが落ちている。だから拾う。それだけです。」
敢えて圧を与えるような言葉を選んだ甲斐もあり、
「…なんだか、思ったより後味が悪い感じになったねぇ。」
ルージュが呟く。
「相手が悪人だろうと、弱者を痛めつけるってのはそんなものさ。それで喜ぶのは趣味の悪い人間だけだよ。」
俺はそうフォローを入れる。そして、特に期待はしていなかったが、盗賊団から奪ったものを確認すると、役に立たない物ばかりではあったが、首領のものと思しき100万G相当の剣が2本混じっていた。
…通常、C級のプレイヤーはこの剣を入手できない。二コラが簡単に降伏させられたのも納得の代物だ。
もしかしたら闇市で仕入れたのかもしれないが、戦闘力から考えてそんなに財政が潤っていそうな雰囲気は無かった。
この剣、B級以上のプレイヤーにとっては逆に腐る程手に入る木っ端武器だ。もしかしたら誰かから譲り受けていたのではないか、そんな可能性を感じる。
そもそも、首領の反応があまりにも恐怖に満ちていたのは疑問だった。
まぁ、疑似的にとはいえ死ぬのが怖くないと言えば噓になる。もしこの世界に強い愛着を持つほど楽しんでいたならこんな反応もあるかもしれない。
だが、基本的には異常な怯え方だった。
もしかしてこいつは誰かに恐怖を覚えるよう教育を施されていたのではないか。仲間を敢えて惨たらしく殺し、恐怖を与え、1人にさせた上で犯罪者堕ちを強要し、そこそこの装備を与えて罪を重ねさせる。
そんな存在の可能性が匂い立って来た。
ジェイスがそこまでやっているのだろうか。もしくは、犯罪者筆頭のカシム辺りが怪しいか?
「…この盗賊団、黒幕がいるかもしれない。注意しよう。」
俺は仲間にそう呼び掛け、いつも以上に警戒しつつ街中へと戻って行った。
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