第26話 漸進

ジェイスの不穏な接触から数日。状況はゆっくりと、だが確実に動いていた。


ランキングは5日目朝時点でアポロが6位まで浮上し、B級到達者は8人に増えていた。その後、アポロは途中でジェイスを抜かし、ガレット→俺→トモヤ→トウゴウ→アポロ→ジェイスで順位が固定されてきた。B級到達者は現時点で18人。苦戦しているプレイヤーが多いようだ。

残りプレイヤー人数は毎日数人ずつ削れて現在76名。うち犯罪者ギルティは毎日少しずつ増え、現在は12名とジェイスの目論見は成功しつつあった。なお、毎日の脱落者の半数程度は犯罪者という状況で、脱落数から見るに、ジェイスを筆頭にタイミング良く見掛けたら狩る程度の動きをしているプレイヤーがいそうだ。

なお、犯罪者の賞金額は脱落した者も合わせ大半が100万~300万だ。500万超えが4人いて、一人だけ2000万Gと飛び抜けたプレイヤーがいる。

プレイヤー名はカシム。一人だけB級に到達している犯罪者で、千夜一夜物語から取ったであろうネーミングからして、流れで犯罪者堕ちしたプレイヤーではなく、単純にそういうスタイルが好きな強いプレイヤーだと考えた方が良さそうだ。


クエストの方もかなり動いた。

まず、5日目に3体程ミノタウロスを狩った時点でミノタウロス討伐依頼が枯れた。新しい依頼としてそこそこの頻度で追加はされるが、いつでも受けられる状態でなくなったので次の狩場を考える必要があった。

このままキマイラ、グリフォンの依頼も枯らせばB級未到達組との上位組との分断が出来るな、と邪悪な考えも過ぎったが、先に進まないと自分達が上位組に置いて行かれるし、後発組が適当に狩っていくだけでも勝手に需要過多になって困ることが予想されたので放棄して進むことにした。


最初に選んだのはリッチだった。不倒不壊・魔アンブレイカブル・マギアを得たこと、耐久が低そうなことが選択の理由だった。同時に複数出てくるという想定外があったり、予め物理防御へのバフを掛けていたりとかなり予想外な相手で、1体1体が放つ魔法の火力もフレイムランス級だったので、少しだけ肝を冷やした。

とはいえ、無傷で完勝出来る程楽な相手ではなかったが、戦力的にはだいぶ余裕を持って戦えたので、時間単位の稼ぎ効率はミノタウロス以上にはなった。ただし、残念ながらこれも程なくして討伐依頼が枯れた。


次に選んだのはサイクロプスだ。鈍重な巨人を予想していたが、想像より遥かに俊敏な動きでミノタウロスの大振りの斧みたいな破壊力の攻撃を連発してくる。放っておくと簡単にナッシュにダメージが蓄積するので、ダブルキャストで攻撃バフすることも出来ず、不倒不壊・力アンブレイカブル・アルマを絶対に切らさず隙を見て回復魔法を使って戦った。

耐久力に関してもこれまでの敵と一線を画しており、500万Gの杖を用いてアークサンダーと名を変えたリリカの火力魔法でも斃し切れない。2発目で流石に斃せるが、時間単位の稼ぎ効率はあまり良くない。

また、現時点で初見時のミノタウロスぐらいの緊張感で戦うことになるので連戦は苦しく、それなりの休憩も設ける必要が出ている。

正直あまり討伐したいとは感じられないが、枯れてない中ではマシなので現時点で最も有力な狩り対象となっている。


サイクロプス狩りをあまりしたくなかったので、ワイバーンの上位種であるスペリオルワイバーンも討伐してみた。基本的にはワイバーンをそのまま一回り大きく、強くしたという感じだったが、ブレスの破壊力が相対的に増し、範囲も広くなっていたため魔法防御対策がより必須といった感じだ。

こちらの戦力が大幅に上がっているので撃破に伴う危険性は小さかったが、危険察知に秀でているようでグリフォン同様の上空に逃げられて時間が掛かる問題があった。このため、早い段階でメインの狩り候補からは除外する運びになった。もう少し高価な剣を揃えられれば危険を気取られる前に翼に重傷を負わせられ、美味しい獲物になるかもしれないという感触はある。


また、どう考えても強そうだったので後回しにしていたが、一応ドレイクも討伐した。これに関しては最悪の一言だった。

爪や牙の破壊力はサイクロプスを超え、高頻度で大した予備動作もなく吐かれるブレスは魔法攻撃としての火力を顕示した。両面の防御バフを切らせないため、回復に回る余裕がなく、ダメージが明確に蓄積していく。

加えてアークサンダーを受けても絶命しない生命力の高さまで持ち合わせていたが、まともな飛行が出来なくなり動きも鈍重になったので、1発当てればその後は楽だった。

ルージュが細かい斬撃で注意を引き、攻撃を引き付けて回避盾としての役割を担ってくれなければ討伐を諦めて転移石で帰還していたと思う。恐らく騎士がいれば騎士にヘイトを集める戦術でだいぶ楽が出来そうだったので、ドレイクの強さとパーティー相性の悪さが噛み合って酷い苦戦を強いられたというところか。ドレイク種とやり合うのはもうこれっきりで良いかな、というのが正直な感想だ。


これらの稼ぎを経て、皆の装備も大幅に改善されていた。

ルージュは攻撃力+80%、速度+15%のダンシングソードの二刀流となっている。これは店売り300万G程度の性能だ。

ナッシュは攻撃力+200%の両手剣バスターブレイドを使用している。これも店売り300万G程度の品だが、もっと良い武器を持たせてやりたいと一番感じているところだ。

リリカには500万Gの杖を購入し、基本は火力特化でこんな魔法を設定している。


【コア術式】

風属性攻撃

【サブ術式】

耐性貫通

詠唱時間+30%

クールタイム+40%

魔法攻撃力+500%


なお、この杖で詠唱時間-30%、クールタイム-40%の速射重視にしても魔法攻撃力+300%とサンダーゲイルと同じ火力になるため、一撃の破壊力を求められないことが解っている局面ではそちらで対応したい。


俺の杖はダブルキャスト側も500万Gの物になっている。スペリオルワイバーンやドレイクはこれが無ければ撃破困難だったと思う。


【コア術式】

魔法防御力上昇

【サブ術式】

ダブルキャスト

効果範囲+3m

魔法防御力-50%

魔法防御力+170


なお、討伐で手に入るB級としては木っ端な装備品は店に流すより優先的にギルドメンバーに販売している。即金では払えないケースも多くキャッシュフローは悪くなるが、店に流すよりは高く売れるのですぐに金が欲しい場面でないならそもそも効率が良い。また、ギルドメンバーからは喜びの声が上がっており、単純にギルド全体の幸福度が増している感がある。


まぁこんな状況だが、まだまだ強敵であるサイクロプス相手に狩りを続けなければならないことに若干の憂鬱さを感じながら宿に戻ると、お頭から「どうやら来客のようだけど、対応するかい?」と質問を投げ掛けられた。

その問いに肯定の意を告げると、バフを掛け、宿の外に出た。

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