第25話 ゲームメイク

フレンドの通話機能を使い、反応を待つ。


「おぉ、これはこれは。単独犯の冒険者狩り被害に遭って、挙句取り逃がした黒き悪魔ブラックデビルさん、何の御用ですかな?」


第一声、トモヤからジャブのように煽りが降ってくる。


「あぁ、広まっているんだな、その話。

さて、俺から連絡を取ったのはその話についてだ。良いニュースと悪いニュースがあるが…」

「なら、良いニュースから聞こうか。」

「悪いが、話の流れというものがあってな、悪いニュースから話す。ジェイスは恐らく、本物だ。」


伝説的に有名な格ゲーマーだ。ジャンル違いとはいえ、ヘビーゲーマーであるトモヤにはこれだけで通じる。


「…根拠を聞こうか。」

「まず、俺が襲われた冒険者狩りがジェイスだ。恐らく素早さに特化した装備で、攻撃は見えなかったし、仲間の攻撃は全て躱された。

あと、これは良いニュースの方だが、初日に仲間を失ったと自称していた。少なくとも、俺と相対している間に仲間の痕跡は無かったし、これまでの動きとも整合性あるだろ?」

「確か初日にC級だったよな。自分が避けられるからってC級で戦ってたら仲間が死んでたってことか?

…若干ありそうで困るな。」

「まぁ、経緯に関しては想像の域を出ないが、お前が冒険者を殺そうなんて言ったとして、仲間が止めないと思うか?

ジェイスのプレイスタイルが仲間と行動を共にしているように思えないから、これに関しては俺は真実寄りで見ている。」


暫く考えた後、トモヤがカッカッカと笑いながら言う。


「だから言ったろ?目立ち過ぎじゃないかって。」

「まぁ、おかげ様で体良く利用されたわけだが、大きな情報を得た。トータルプラスだろ?」

「それはそうかもな。これでお前が死んでたら大爆笑必至だったけどな。」

「ともあれ、俺の要件は最初の煽りを聞いた時点で終わっていた。

その後は協力関係と友人の誼で大サービスなんだから、感謝しろよな。」

「あぁ、そうだな。俺の方からも何かあったら恩返しさせて貰うさ。」

「…ところでさ、俺、ジェイスに、思った通り聡明な人間だって言われたんだけど。」


トモヤの笑いが爆笑に変わり、「そりゃ、お前が思ってる通りの意味だよ。じゃあな。」と言われて通話が途切れる。

―――聡明な人間。

誉め言葉のように取れるが、格ゲーマーにされた上で強い択を通されたということが意味するのは、完全敗北パーフェクトゲームだ、クソが。


さて、情報の整理だ。

2日目は21人のプレイヤーが脱落したのに、3日目は4人しか脱落していない。

2日目朝にギルドランキングが公開されたので、それを見て焦ったプレイヤーが自爆したのも少なくはないと思うが、間違いなくジェイスが大幅に関与している。

ジェイスの順位も4→7→5と推移しており、2日目を冒険者狩りに費やしていたと考えるとこれも整合する。

恐らく、2日目に色々と試して冒険者狩りは割に合わないと判断し、3日目には普通にクエストをこなしたものと考えている。そして、B級に上がったジェイスは犯罪者ギルティのリストという興味深い物を手に入れた。

現時点の犯罪者はその大半がNPCの賞金首だ。賞金額と難度が釣り合っていてあまり狩り効率の良いものではないと予想される。

しかし、ここにプレイヤーが入ってくるとどうだろうか。弱いプレイヤーに罪を重ねさせ、賞金額を釣り上げてしまえば非常に効率の良い獲物になるわけだ。

恐らくジェイスが行おうとしているのは、この犯罪者の養殖だ。


自分の仲間を顧みるに、パーティーメンバーが1人でも欠ければ戦いは非常に苦しくなる。そもそもシステム的に補充可能なのか不明だが、仮に出来たとして、高級品の装備をロストするし、これまで培った連携もパァ。信頼関係の崩壊で動きも怪しくなるかもしれない。

だから俺は仲間の命も最重要に考えて動いているし、それが普通だと思っていたが、現在残っているプレイヤーの何割が全員生存状態なのか、よく考えれば不明瞭だ。


仮に仲間を失った場合、仲間が残っている相手に対して優越出来る可能性のあるプレイの代表が犯罪ギルティプレイだ。

まず、犯罪行為の準備段階で仲間に止められない。

もし俺が夜の商店街で人がいなくなるまで待機するなんて言い出したら、仲間から確実に問い詰められるだろう。恐らく実行するのは困難だ。

だが、仲間がいなければ実行に移すことが出来る。倫理に反する行動を邪魔されないことは単独プレイの最大の利点だと言えるだろう。

そして、実は実際には犯罪者堕ちしない、スレスレの行為を行いやすいのも単独プレイの特権だ。ジェイスは実際に現時点で犯罪者ではない。狙っているのはこちらのプレイだろう。

例えば、仲間が見ている目の前で罪を犯せば犯罪者の烙印を押されるが、仲間も、他の誰も見ていない状態であれば罪を犯しても犯罪にならない。これは「誰かに露見するとペナルティが発生する」と明示されている内容だ。

また、冒険者狩りに関しても同様だろう。街中であればアウトだが、クエスト中なら冒険者を殺しても「事故」ということだろう。犯罪ではない。

これも仲間がいれば止められる。今日のジェイスに対する皆の不信感がそれを示唆していたし、これまでの言動からも明らかだろう。

犯罪者狩りに関しては提案してどうなるか、状況次第だろうか。ただ、露骨に闇市の前で待ち伏せして狩るというのは単独の方がやりやすく、ジェイスの優位性になるだろう。


そして、犯罪者えものを増やすためにジェイスが取った行動が俺との接触というわけだ。

ギルドランク戦で鮮烈な結果を残し、有名になった黒き悪魔ブラックデビル

戦術は明らかに防御重視の安定志向。

仕掛けたからと言って、容易に全面戦争にならないことを攻撃を仕掛けてきたわけだ。

こうして単独犯が、上位のプレイヤーに攻撃を仕掛け、逃げおおせたという事実を作った。そして、この単独犯は実際には犯罪者ギルティではないが、事情を知らないプレイヤーからすれば犯罪者の凶行に見えるだろう。


トモヤの煽りにこのジェイスによって重要な3点が全て含まれていたにも拘わらず、冒険者狩りがジェイスであること、そして犯罪者でないことは知られてなかったというのは、まず確実にこの情報を流しているのがジェイスだということを意味する。

ギルドマスターを通じて流布したといったところだろうか。起こったことは事実なので、冒険者狩りなどという危険な内容をギルドマスターがパーティーに注意喚起しないわけがない。


冒険者狩りの存在を示唆することで、中堅層以下の不安を大きく煽ること。

単独犯が上位プレイヤーを攻撃し、逃げ果せたという事実を以て犯罪プレイの可能性という甘い蜜を用意すること。


ジェイスは今回の行動でこの不安と見せ掛けの希望の種を撒いた。

これだけで直接犯罪プレイが爆発的に増えるということは無いだろうが、今後、ジェイス自身、あるいはこの機運を読み取った別のプレイヤー達がこの種に水をやり、育んでいくはずだ。

そして、十分に育ったならその果実を刈り取るのだ。


「…はぁ。明日からは街中でも今まで以上に警戒しないとな。」

そう独り言を呟きながら、自分も収穫祭の恩恵に与かることに既に意識は向いていた。

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