第24話 混沌を齎す者

4日目。相変わらずの爽やかな朝だ。

簡単な身支度を済まし、階下へ。


…当然の如く仲間は集合済みだった。挨拶を交わす。

ついでにお頭から、二コラが借金を10万G分返した分を受け取った。ペースが予想より良くて少し驚いている。

とりあえず、プレイヤーの話を昨日したので、簡単な説明をしつつ、皆とギルドランキングを確認した。


上位4人は変化なし。グリフォンに時間を取られた分トモヤに抜かれたかと思ったが、杞憂だったようだ。もしかしたら似たような詰まり方をしたのかもしれない。

また、ジェイスが5番手に浮上。ジェイスを含めた5人が昨日までのB級昇格者だった。

それ以外だとアポロが8番手へ浮上。毎日着実に順位を上げている。順当と言えば順当なのだが、どうにも気味の悪さは拭えない。

また、97人だった残りプレイヤー数は93人と4人しか減っていなかった。昨日は21人も減っていたんだが…


とりあえず、概況の確認と、特別警戒している5人のプレイヤーの簡単な説明もしたので、今日の予定について話し合った。

基本方針としてはミノタウロスを狩ることに決め、十分な金額が貯まったら俺の杖を買いに路地裏ギルドに行き、防御面を充実させる方針で固めた。


まず、魔法防御が不要な相手になるので、ダブルキャストの術式を


【コア術式】

攻撃力上昇

【サブ術式】

ダブルキャスト

効果範囲+3m

攻撃力+50%


の攻撃力上昇魔法に設定した。

また、バフの種類が増えて管理が大変になってきたので、魔法名は「ダブル・バフパワー」と簡易なものにし、同時に今後のダブルキャスト側の魔法は類似の法則に沿って命名することをした。


実際にミノタウロス狩りに入ると、クレイモアと攻撃バフによる攻撃改善により、早期にミノタウロスの体幹を崩すことに成功した。また、物理防御バフの微改善でこちらが受ける被害も減っており、サンダーゲイルによる討伐完了までの1サイクルの安全性が大きく増していた。

流石に低消耗で撃破出来る程楽ではなかったため、撃破ごとに回復と小休憩を行っており、これまでの稼ぎのような作業感では行うことが出来なかったが、それでも数をこなすことへの抵抗感は昨日と比べるとかなり薄い。

そうして4体目のミノタウロスを撃破し、そろそろ路地裏ギルドへ買い物に行こうかという時に異変が起きた。


「プレイヤー:ジェイスが接近しています。」


不吉な警告浮かび、響き渡る。

即座にバフを張り直し、転移石もいつでも行使出来るよう準備して構えた。

…が、次の瞬間には俺の体に斬撃が振り下ろされた。

フィールドが薄暗いこともあったかもしれないが、全く反応が出来なかった。


ただし、刃は俺の体には届いていない。

状況を理解したルージュとナッシュが激昂し、剣を振るった男に襲い掛かる。

だが、男はルージュが放つ二筋の剣閃を容易に見切り、無駄のない動きで躱す。それを囮にして放たれるナッシュの渾身の一撃も同様に軽々と躱されてしまう。


「まぁ、ここまでは予想通りだな。」


男は余裕の表情で、不敵にそう言葉を発した。

俺は警戒を解かずに意図を伺う。


「解っているとは思うが、俺はジェイスだ。

この程度の児戯で斃せてしまうなら斃してしまおうという色気が全く無かったとは言わないが、基本的にはアリマ、君と話をしたくてここに来た。

警戒を解いてというのは難しい話だと思うが、良かったら少し話をしないか?」


よく見ればジェイスにはバフが掛かっていない。本気で来ていないというのは嘘では無さそうだ。


「…仲間はどうした?

流石にいつ奇襲されるか解らない状態で会話しろというのは難しいぞ。」


俺の問いへの答えは意外なものだった。


「仲間、か。初日に失ってしまってね。残念ながらこれを信じて貰う術を俺は持っていないわけだが。」


俺はジェイスが初日にたった一人C級に到達しながらも4位に甘んじていたこと、その後も順位の伸びが悪く、ランクに見合わない順位にいることに思い至る。

仲間がいないことによる狩り効率の悪さとこの結果は整合するし、何より、このジェイスがだとすると、自分の高過ぎる人間性能に仲間が付いていけてないことへの察しが悪く、初日に致命的なミスをやらかすことも…あり得る気はする。


「…まぁ、ある程度の説得力はあるな。」

、聡明で何よりだ。それで、だ。

先程の非礼を詫びる意味も兼ねて少し俺が得た情報を教えよう。

君が今し方体験したように、俺は他のプレイヤーが受けたクエストに乱入し、冒険者狩りを行ってきた。

ところで、ランク戦以外で相手を殺めた場合、何が手に入ると思う?」

「…相手の持っているGや持ち物全てか?」

「そうだよな、俺もそう思っていた。

だが、残念なことに自らの手で殺めた人間がその時点で装備していたもの以外手に入らない。」


マジか…

ジェイスは犯罪ギルティプレイにならないギリギリのグレーゾーンで攻めてはみたが、その効率が悪かったので方針転換するためにここに来たというわけか。


「俺から伝えたい話はこんなところだ。

あとは、そうだな。君さえ良ければフレンド登録して、良い関係を築きたいのだが?」


この提案に仲間は露骨にしかめ面をしていたが、俺はこう答える。


「いいだろう。ビジネスパートナーとでも認識しておくさ。」


フレンド登録を終え、帰ろうとするジェイスに俺は1つ質問する。


「なぁ、その竜騎士みたいな鎧はどこで手に入れたんだ?」

「君はどうやらオシャレには興味がないようだな。自室のクローゼットを見てみるといい。服装をカスタマイズ出来るぞ。」


ジェイスはそう答えると、転移石で帰って行った。

それを確認し、リリカが怪訝な顔で聞く。

「ねぇ、アリマ。あいつのこと信頼していいわけ?」

「んっ?いや、全然信頼はしてないぞ。ただ、信用は出来ると思ってる。

あいつがやったこと、やろうとしてることは…まぁ、だいぶ倫理的にはアレだが、理解は出来る。

一瞬でも剣を交えたルージュ、ナッシュはよく分かるだろうが、あいつは強い。

邪魔をするためにリスクを取るより、winwinな関係を築いた方が得という話だな。それも含めて全部あいつの思惑通りというのは少し癪だが、互いが正着手を取り続けたら自動的に到達する結果になっただけだな。」


そう返してみたは良いが、最初から最後まで終始主導権を取られていたことに煮えるものが無かったわけではない。最後に、本当はさして知りたかったわけでもない無難な質問を投げたのもそれが原因だ。

最終的にこちらにも益がある形でまとまっているので文句は無いし、後悔も無いが、ちょっとした敗北感はあった。


この後、手持ちだけでちょうど500万Gを超えたので、予定通り路地裏ギルドへ向かう。700万Gまでぐらいの手軽さで画期的な掘り出し物があれば検討しようと思っていたが、特に無かったので予定通り500万Gの杖を確保した。これに物理防御バフの魔法をセットする。


【コア術式】

防御力上昇

【サブ術式】

効果範囲+3m

防御力-50%

防御力+220


これに俺は不倒不壊・力アンブレイカブル・アルマと名付け、魔法防御に切り替える際には不倒不壊・魔アンブレイカブル・マギアと呼ぶことにした。久しぶりのまともな命名だったので緊張したが、リリカ先生の顔を見る限り合格した模様だ。

また、一旦ダブルキャスト用の杖は30万Gのもので据え置いて、リリカに俺が使っていた50万Gの杖を渡した。これで、威力据え置きで詠唱時間+30%から+20%と少し時間短縮して狩りが出来るようになる。

この後、追加で4体程ミノタウロスを討伐した。不倒不壊・力アンブレイカブル・アルマの効果は絶大で、斧による大振りの攻撃にだけ注意すればほぼ攻撃をシャットアウト出来た。

また、狩りの過程で力のルビーと攻撃力+170%の高品質なクレイモアが獲得出来た。力のルビーは後で一応トモヤとジェイスに要るか聞いたが、トモヤは「持ってる」、ジェイスは「要らない」との回答だった。結果、これはナッシュの後輩の手に渡ることになる。


ここで俺たちは今日の狩りを終え、夕食とした。

割と取り留めのない話をし、昨日と少し味付けの変わったミノタウロス料理を味わった。

この後、解散とし、俺は個室に戻ってトモヤに連絡を取った。

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