第19話 試金石

準備は整った。

B級クエストに挑むべく、お頭に声を掛ける。

すると、お頭が真剣な面持ちで話し始めた。


「B級クエストはもっと顕著なんだけどね、C級クエストもD級以下と比べると同ランクのクエストでも結構難易度に差があるんだ。」


…パーティー相性の問題が大きいと思っていたが、言われてみると確かにウェアウルフとトロールだとトロールの方が厳しい相手だったかもしれない。


「そして、C級クエストには1種だけ露骨に討伐難度が高い魔物がいる。それがワイバーンさ。強靭な爪と牙、飛行能力を伴うスピード、竜の因子由来の堅牢な鱗と高いタフネス、そしてブレスっていう魔法攻撃の存在。ギルド制度初期にはこいつをCにするかBにするかで結構揉めたって話もある程さ。

…これに危なげなく勝てるなら安心してB級に送り出せるって話があってね。」


「つまり、お頭は俺たちにまずワイバーン討伐を成功させて欲しい、と。」


「理解が早くて助かるよ。まぁ、これはあくまで提案だ。…判断は冒険者次第なんだけどね。」


俺は安全志向だ。この手の提案は基本的に乗るつもりなんだが、お頭がどうにも自信無さげに提案しているのは気になった。

まぁ、お頭からすればいきなりE級から始めてD級、C級と異常な速度で昇格し、今日にはB級とか言ってる冒険者は自信満々のヤンチャ坊主に見えるのかもしれない。そのタイプにこういう話をすると逆効果にさえなり得る。


「みんな、まずワイバーンの討伐で良いか?」


俺がそう問うと皆がホッとした表情で承諾する。反応にやや違和感があったが、やる気は十分そうだったので、バフを掛けてワイバーン討伐を開始した。


切り立った岩肌に囲まれたフィールド。

岩肌の上にそいつは留まっていた。

その姿は、遠くだから解りにくいが、5m程だろうか。魔物としてはさして巨大ではないが、人間からすると巨大なサイズ感だ。この辺りには天敵はあまりいないのか、どちらかというと警戒心が薄そうに感じられる。

リリカ曰く、ワイバーンは竜の因子と鳥の因子を持っている種族だが、鳥の因子が強いものを指すそうだ。逆に竜の因子が強いものをドレイクと呼んでいるらしい。

竜の因子が薄いため、ブレスの方は最悪無対策で受けても死にはしない程度。逆に因子が薄いと言っても竜は竜なので攻撃の方を強く警戒した方が良いとのことだ。


…実はリリカの魔法でこのまま気付かれる前に撃ち落とせるのでは?などと邪悪な考えを巡らせていると、流石に気付かれてしまった。

獰猛な咆哮をあげつつ向かってきたので、いつも通り俺はバフの掛け直し準備に入り、皆も戦闘態勢を整える。

出会い頭の爪撃をルージュが楽々と躱すと、カウンターのごとくナッシュが強烈な剣撃を腹部に叩き込む。悲痛な叫び声をあげつつワイバーンが暴れ回る。

そこまでは良かったのだが、警戒されてしまったようで、上空に逃げられてしまった。この隙に俺は魔法の盾マジックシールドの方のバフも掛け直す。

上空へ逃げたワイバーンが口先にエネルギーのようなものを溜め始める。明らかにブレスの準備動作だ。

少しの間溜めた後、電気を帯びたブレスが俺たちに向かって放たれた。扇状に広がった効果範囲は思ったより広かったが、流石に露骨な溜めがあったので全員問題無く躱せた…はずだった。

問題無く躱し、後はリリカの準備が終われば勝てそうだと思っていた矢先、ワイバーンは俺の方へ首を捻り、ブレスを浴びせかけに来た。完全に避けたつもりで足を止めていた間抜けなプリーストにブレスが直撃する。

ブレスのダメージ自体は大したことは無かった。元々死ぬような火力ではないものを魔法の盾マジックシールドで大幅軽減しているので、それはそうだ。少しビリビリはした。

問題は、その様子を見た仲間を不安に思わせてしまったことだ。ルージュとナッシュが気を取られた隙を見逃さず、急降下したワイバーンの爪がルージュを、牙がナッシュを襲った。守りの加護ウォールブレスの効果は絶大で、これも重傷には至らない。二人は問題無く体勢を立て直し、反撃に移っていた。

次の瞬間、少女の声とは思えないような鋭い声が戦場に響き渡る。


「―――サンダーゲイル」


杖の先から尋常ではない雷撃が迸り、ワイバーンを貫く。

ワイバーンのブレスも、日常生活の中で見掛けたなら命の危険を覚える程度には雷光が唸っていたが、これはその比ではない。禁じられた実験に失敗した研究所を破壊し尽くすかのような電流が荒れ狂い、疾風の如き速度でワイバーンを飲み込んだ。

体の至るところを焦がしたワイバーンが黒煙をプスプスと上げながら崩れ落ちる。

命を奪うには至らなかったようで、全身を小刻みに震わせながら立ち上がろうとするそれの首をナッシュの大振りの一撃が刎ね飛ばしたところで完全に勝負がついた。


勝利の後も、少しだけ俺は呆然としていた。雷撃のその凄まじい破壊力にも舌を巻いたが、俺がブレスに呑まれ、仲間が襲われても魔法への集中を崩さなかったリリカのその精神にある種の崇高さを覚えていた。

「魔導士は常にパーティーの中で最もクールじゃないきゃいけない。」

好きな創作のそんな言葉を思い出し、噛みしめる。改めて、優れた魔導士だ。


「…色々言いたいことはあるが、まずは済まなかった。」

自分を含めダメージを負った仲間に回復魔法を掛けながら謝ると、皆、一斉に笑い出した。

恥ずかしいので話題を変える。

「風属性って言いつつ雷なんだな。」

「あぁ、それは耐性貫通の性質ね。耐性貫通の魔法って属性そのものの性質を変えるんだけど、炎なら爆発、風なら雷みたいに繋がりやすいイメージがあるのよ。」


…なるほど。逆に使われた魔法があからさまに地水火風から外れているなら耐性貫通持ち、恐らくは高位の魔法と推測も出来るわけか。


「ともあれ、凄まじい威力だったよ。あと、タイミングが助かった。」


そう誉めるとリリカが鼻を高くする。まぁ、今回は文句無しMVPだ。

そうこうしているうちに、ワイバーンが光の球となる。ドロップの時間だ。


【装備品】

スピードリング

【素材】

ワイバーンの牙

ワイバーンの爪

ワイバーンの鱗

【道具】

ハイポーション

ワイバーンの肉


「良いアイテムなんだけど、持ってるんだよなぁ」という反応が見られたが、実はスピードリングは俺が欲しかった。バフを切らさないために効果的に位置取る他、それなりに攻撃を避けたい場面があるため、素早さの補正が欲しかったのだ。

二コラ産の牙の指輪は無事リリカの後輩に届くことになるだろう。やっと俺に合った装飾品に手が届いた。長かったなぁ。

素材類はよく解らないが、竜の因子が混じってるなら高く売れるなり、強い装備の礎になってくれたりしそうではある。

あとはワイバーンは鳥の因子が強いなら肉も美味しいのかもしれない。調理出来ないので所詮売却用になりそうだが、少しは高く売れたりするのだろうか。


全体としてはそこそこ苦戦した割には物足りないドロップだった気もするが、まぁ、世の中そんなものだ。俺が少し動きやすくなる装備更新が出来ただけでも上々だ。

色々と課題があったので、少し作戦会議をしたかったが、一旦報告のために宿に戻った。

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