第18話 邂逅

―――朝だ。

俺は寝付きも寝起きも良い方ではないが、3日目もこの規則正しい生活に支障が起きていない。確実に存在するであろう睡眠不足のペナルティを恐れて普通の睡眠を心懸けてはいるが、やはり睡眠に関しても何らかのシステムが存在しているのだろうなと邪推する。


今日は特に時間を掛けずに階下へ向かう。

果たして、カウンター前に既に仲間は揃っていた。


「おはようさん。今日はまずまず早かったね。」


お頭が揶揄からかった口調で言う。

行動ロスが無いので皆が揃っているのは嬉しいが、毎回一番遅いのは少し悔しさがある。いつか一計を案じてみたい。

それぞれに朝の挨拶を交わし、今日の予定を話す。


「まず街でリリカの杖を整えたら、今日はB級に挑戦してみようと思うが、どうだろう?」


俺がそう言うと、お頭が遮る。


「そのことなんだけどね、B級からは難度が跳ね上がる。お前さん達なら大丈夫とも思うんだけど、ギルドマスターとしては提案したい手順がある。B級を受ける前に一声貰えると嬉しいね。」


まぁ、B級はざっと見ただけでもキマイラ、サイクロプス、ドレイク、リッチみたいな中後半御用達な魔物のオンパレードで、ダブルキャスト必須と考えたのも攻撃のバリエーションが明らかに増えそうと感じたからだ。

「勿論、相談させてください。」と答えると、お頭は少しはにかんだ感じの笑顔を作った。


行動方針に特に異論は無かったので、念のためにバフを掛けてから宿の外に出た。

すると異変はすぐに訪れた。


「プレイヤー:トモヤが接近しています。」


メッセージがポップし、アラートが流れる。辺りを見渡すと、見知った顔がそこにあった。


「よぉ、アリマってやっぱりお前かよ。」

茶髪の青年が馴れ馴れしく声を掛ける。

「こんなところで会うなんて、奇遇だな。」

相手の意図が読めないので、念のため警戒しつつ応える。

「おいおい、まさか街中で、というかやり合うつもりはないだろ?」

トモヤはあっけらかんと言う。

「すまんな。俺もそのつもりはない。癖だ。」

「だよな。それなら、少しゆっくり話をしてみないか?」


仲間に確認すると、状況が呑み込めないながらも反対は出なかったので、近くの酒場へ向かい話をすることにした。

道中、リリカが「知り合い?」と聞いたので「夜にでも詳しく話すが、異世界の友人だな。」と答えておいた。皆、非常に驚いているのが伝わって来た。そろそろ俺の身の上話をすべきタイミングかもしれない。


テーブルに座ると、トモヤから切り出す。

「まずはパーティー紹介でもしようか。こっちは剣士のカナメ、レオン、魔導士のミントだな。」


…同型パーティーかよ。

カナメは黒髪長髪の如何にも真面目そうな女性だった。サムライ然とした風貌で、曲がったことが大嫌いだと顔に書いてありそうだ。多分パワータイプでナッシュと役割が近そうだ。

レオンは金髪の細身の男だ。美形で、どちらかと言えば甘いマスク。佇まいは紳士然としており、日常的に舞踏会にでも参加していそうだ。見るからにスピード型の二刀流で、間違いなくルージュタイプだろう。

ミントは黒いローブで全身を包んでおり、目深に被ったフードのせいで表情も読み取りにくい。恐らくリリカより若く、幼さすら感じられる。フードから僅かにはみ出した髪の色は青み掛かっており、珍しい髪色だ。


「剣士のルージュ、ナッシュ、魔導士のリリカだ。似た者パーティーのようだな。」


奇遇にも、というのは一種のジョークだ。どうせトモヤもメインプリーストに決まっている。少なくとも初動においてプリースト不採用はあり得ないし、プリーストを詰めると騎士の役割が飛んでいく。俺たちのパーティー構成は一択ではないが、考えれば辿り着く有力な選択肢だ。


俺は続ける。

「…お前、俺のことをやっぱりお前かって言ってたが、あれはどういう意味だ?」

「いや、だってお前、トウゴウなんて名乗らないだろ。上位でお前が名乗りそうな名前がアリマしか無かったんだよ。」


…納得した。トモヤが続ける。


「それよりもお前、流石に目立ち過ぎじゃないか?

昨日のでお前、二つ名で呼ばれ始めたんだけど、知ってるか?」

「??」

黒き悪魔ブラックデビルだよ。」

「ちょ…デビルはあんまりじゃないか?」


ここまでは真面目に話をしていたはずだが、ルージュが爆笑し始める。釣られてナッシュが我慢出来ず申し訳なさそうに笑う。リリカも口元を抑えて笑いを堪えきれてなかった。

いや、まぁ、俺は黒髪で服装も黒を基調にしてはいるが…


「いや、お仲間さんは納得してるみたいだけど?」

「くっ…」

「まぁ、俺の方から聞いたわけでもなく、ギルドマスターからこんな話を振られるぐらいには昨日のお前らの活躍は鮮烈だったってことだよ。」

「なるほどな。こっちの戦い方を意識される可能性が高くなった、と。認識しておくよ。ありがとう。」

「そういうこと。まぁ、そのぐらいで突破される戦法でも、攻略されるようなタマでもないとは思ってるけどな。」


戦法に関しては割と基本に忠実だし、変化を利かせる余地もある。ランク戦を挑んだ時点で次回以降は知られる可能性を予め想定していたので、これは問題無い。

だが、思ったより話題になってしまっているのは、良くも悪くも予想外の影響があるかもしれない。

考えを巡らせているうちに、トモヤが本題を切り出す。


「まぁ、その辺の話はほぼ雑談。本題なんだけど、しばらく共闘…は言い過ぎか、不戦協定結んで協力し合わないか?」

「あぁ、それは願ってもない申し出だな。こっちから切り出すか悩んでいたところだ。」


このゲーム、PvP前提の報酬体系にしておきながら、フレンド機能が存在する。

フレンドと言っても相手とチャット、通話が出来るだけで、後ろから刺すことも出来るわけだが。…いや、それはまぁ別に本当の「フレンド」でも可能か。

ともあれ、ある程度徒党を組むことを認めている、ないし推奨している。

トモヤも「こんな時期から」争う必要はないと言っていたが、現時点の上位は順当に行けば生き残り順も上位になる。

ウィナーテイクスオール形式なら1位争いになりそうな相手を早めに潰す戦略も有効性が高いが、今回は10位の賞金でも5000万だ。勝てるかどうか解らない戦いどころか、負ける可能性のある勝ち濃厚な戦いでも可能な限り避けたいというのが本音だ。

なので、プレイヤーが減少するまで上位同士は戦うなんてもっての外、可能ならつるんで既得権益を固めるのが基本になる。


そんなわけで互いに利害一致し、俺とトモヤはフレンドになった。

双方有益になると判断した情報共有と不要になったレアアイテムの売買交渉を行う程度で基本的には相互不干渉という方向でまとまった。

…一応、耐性貫通付きの魔導士の杖が余ってないか聞いてみたら「頭沸いてんのか?」と素敵な言葉を掛けて貰えた。多分俺が逆の立場でもそう答えたと思う。


そんなこんなで予定外に話し込んだが、実りは大きかった。

お互いの会話内容はかなり仲間を置いてけぼりにしていたが、仲間同士は似た者同士が揃っていたこともあり、そこそこ話が弾んでいたみたいだ。


俺たちは別れると、そのまま予定通りに商店街で30万Gのリリカの杖を購入した。

火力特化で魔法を設計することにし、属性は風にした。

高位の魔物には飛行しているものが多く、それらに特別効きが良いことがあるので一番有効だろうというリリカの判断だ。

結果的に設定した魔法はこうなった。


【コア術式】

風属性攻撃

【サブ術式】

耐性貫通

詠唱時間+30%

クールタイム+40%

魔法攻撃力+300%


…これ、直撃したら魔法の盾マジックシールドの上からでも死ねるんじゃないか?

なお、俺の杖の時の意趣返しに「リリカは魔法の名前をもう決めたのか?」と聞いたら、「ふっふっふっ、それは使ってみてのお楽しみじゃよ。」と作った口調ではぐらかされてしまった。まぁ、色んな意味で楽しみではある。

最近は装備の更新機会が多く、B級になればまた更新があると思うので鍛冶屋には寄らずに宿に直帰した。

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