第17話 俺たちの名前

宿に戻るとカウンターから身を乗り出してお頭が物凄いジト目で見てくる。


「いやー、あんた、なかなか面白いことするねぇ~。」

「…お頭、もしかして試合内容見れてます?」

「ギルドマスターは転移先のアレコレを見ることが出来るゾ♪」


…そんな口調で話す人じゃないでしょ、あんた。


「ともあれ、ランク戦お疲れ様。1日で2勝もするのは快挙だよ。

今日は日も沈んだことだし、食事にでもしたらどうだい?」


お頭がいつもの調子に戻る。

Gも貯まったし、次はリリカの杖を買いたい。まだ商店街が開いているか解らないし、そもそも夜の外出は不要なリスクも増すのでそのまま食事にすることにした。

酒場の中は昨日の宴の時程ではないが、かなり賑わっていた。


昨日より柔らかく、ジューシーな肉に頷きながら食事を摂っていると残りのパワーリング購入メンバーが「遅くなってすみません。」と言いながら代金を支払ってくれた。これで9万G。手持ちと二コラからせしめた20万Gを合わせてリリカの杖に問題無く届く。

流石にギルドのメインパーティーだけあって、食事を摂っているだけで代わる代わるメンバーから声を掛けられる。俺自身は比較的簡潔にプリーストの卵と思しきメンバー達にアドバイスをしていたが、特にルージュは話好きなので放っておくといつまで経っても終わりそうにない。

パーティー全員がある程度食事を摂ったのを確認したところで話を切り出す。


「さて、宴もたけなわという感じではあるが、俺たちは目下話し合うべきことがあることを覚えているか?」


ルージュはポカンとしていて、何も思い当たる節が無さそうに見える。

リリカは何か思い出したくないものを思い出してしまったような「げっ…」という顔を浮かべる。

ナッシュは勿論覚えているという自信満々の表情で答える。

「ギルド名、だな!」

瞬間、ルージュも頭を抱えた。

ナッシュが続ける。

「あの時の私の提案を聞いた皆の顔を見るに、少し良くなかったのかな、と悩んでいた。」


おぉ、ナッシュ。少しではないが、解ってくれたか!


「悩んだ末、私が再考したギルド名は…

ヴォルカニック・カヤズインフェルノだ!」


圧倒的な言葉のパワーに空間が捻じ曲がる。

何故…どうして…問題の本質はそこじゃないだろ!!


今回はパーティーの仲間だけではない。その場にいた、全てのギルドメンバーの時が凍る。ある種の大魔術が行使されたかのように、酒場の内部だけが一瞬、完全な虚無と化した。

…たった一人、ナッシュに一番懐いていそうなメンバー(勿論、パワーリング購入者の一人だ。)だけが目を輝かせて「ナッシュさん、最高です!」と言わんばかりに興奮していたが、俺はそれを見ていないこととする。


凍れる時から一早く抜け出したのは魔導士たるリリカだった。

動揺を隠せてはいなかったが、反撃を開始する。


「わっ、わたしもギルド名についてはずっと考えていたわ。

そうね、フェニックスウィンドなんてどうかしら。」


リリカ、お前それ、絶対に今考えただろ?

うちのギルドのどこにフェニックス要素があるんだよ!

完全にヴォルカニックとインフェルノに引きずられてるじゃないか!!


これにはナッシュもあまり納得行かない様子で「うーん」と唸っている。

それはそうだ。ナッシュは、ネーミングセンスはその、アレだが、お頭を中心にギルドを盛り立てたいという想いの込もったギルド名を提案している。

言葉の響きだけのポッと出の思い付きに納得しろというのは酷な話だ。


ルージュは完全に錯乱状態になっており、戦力になりそうもない。

このままでは本当にヴォルカニック・カヤズインフェルノになってしまうかもしれない。

脳の髄まで酷使し、頭を回転させる。考えろ、考えろ、考えろ、考えろ…


「アルビダ・オーダー。」


口が半ば自動的にその言葉を紡ぎ出した。

凍った時が溶け出し、動き出すのを感じる。


「アルビダというのはとある伝説に登場する女海賊の名だ。

これは勿論うちのお頭、つまりカヤさんを意識している。このギルドの親分格はカヤさんで、この部分はナッシュの案を参考にさせて貰った。

その指令を実行していくという強い意志をオーダーという言葉に込めてみた。」


瞬間、どよめきにも似た歓声が沸く。

「それ、カッコいいな!」

「あんたのセンス、信じてたわよ、アリマ!」

同時に女性陣からの喝采を一身に浴びる。

ナッシュもその名なら納得と言わんばかりに大きく頷いた。


パーティーの仲間だけでなく、酒場のギルドメンバーからの承認も受けた。


―――アルビダ・オーダー


俺たちはこれからこの名を背負って戦っていくことになるだろう。


§§§§§§


ギルド名が仮決定してから結局宴のようなどんちゃん騒ぎになっていた。

その間に俺とリリカはリリカの杖の術式をカスタマイズを始めた。

そうしていると魔導士、プリーストのメンバーが集まって来て興味深そうにしていたので、軽く説明を入れながら術式を改善することにした。


まず、ランク戦で人を殺めてしまわないように調整した現行の杖をフレイムランスの仕様に戻した。これは明日の更新後はあまり使う機会が無さそうだが、意図せず露骨に炎に弱い魔物が現れた際に使う可能性があるので一応手元に残しておく予定だ。魔法を1つしか設定しないことや詠唱時間・クールタイムを伸ばして火力を大きくすることなどの基礎が勉強になったメンバーも多いのか、意外と喜ばれた。

次に二コラの杖のカスタマイズだ。明日手に入る本命の杖を大火力魔法にする前提で、こちらは小回りの利く魔法にすることになった。

また、属性を散らすために水属性にすることにしたが、メンバーの魔導士はこれに驚いていた。全属性使いこなせるのは特異だということ、リリカといると忘れてしまうが、再認識させられた。


【コア術式】

水属性攻撃

【サブ術式】

詠唱時間-30%

クールタイム-40%

魔法攻撃力+100%


最軽量化したフレイムアローより速射、連射性が良く、加えて火力も一撃で人間を殺さないギリギリのライン程度を保持するような調整になった。サブの杖として使える場面は多そうだ。

一通り設定を終えてお開きにしたが、ウィルと名乗る少年がプリーストの杖について聞きたいと熱心にせがんできた。とりあえず守りの加護ウォールブレスの術式と原理について教えたところ、感銘を受けた様子だった。

「自室に戻って術式考えてきます!」と元気に走り去っていったので、俺は暖かい目で見送った。…遂に俺にも固定ファンが付いたかもしれない。


良い時間になったので、自室に戻り、明日に備えることにした。

お寝坊呼ばわりは癪なので、就寝準備を整えると寝る前にギルドランキングを確認した。それなりに上位にも動きがあるように感じる。


1番手は相変わらずガレットだった。ランク戦の分があるからあわよくば抜けるかと思ったが、向こうもランク戦をこなしたのかもしれない。ともあれ、現時点で最も警戒しなければならない相手だろう。

2番手は俺たちのギルドになっていた。ランク戦で2勝した分が大きかったのだと思われる。特にマッスル達のギルドは順位高めだったので、ここを相性ゲーで突破したのが大きかったと原因を推測する。

3番手はトモヤ。まぁ、ここに関しては俺たちが今日調子が良かったというだけで誤差の範囲だろう。

4番手はジェイスが順位を落としてトウゴウになっていた。完全に謎の男ではあるが、この安定性を見る限り、やはり強敵であることは疑いようが無さそうだ。


C級になってからNPCのギルドが間に挟まるようになり、順位の差が思ったより大きそうだと解った。4番手までが1位集団、5番手からは少し離れた集団といった感じだ。

また、C級に上がったプレイヤーは20人程度。ジェイスは7番手、アポロは11番手となっていた。アポロは朝は17番手だったので、順位を上げている形だ。

残り人数は97人まで減ったようだ。朝は118人だったので21人減った計算だ。正直、思ったより減ったなという感想だが、上位との差を見て無理をしたプレイヤーが多かったのかもしれないし、最初からプレイ早期に抜けるつもりのプレイヤーが相当数いた可能性もある。この調子で減ってくれると助かるなと思いつつ床に就いた。

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