第13話 魔導士としての矜持
少し恥ずかしいのか、仲間からやや離れた場所に連れて行かれ、話をする。
「アリマは魔導士の役割って何だと思う?」
「…基本的には最大火力担当、かな。」
「わたしは、その役割を果たせていると思う?」
「…ちゃんと果たせていると思う。思うが。。。」
大体リリカの言いたいことは解った。
フレイムアローは間違いなくパーティーの最大火力ではある。だが、トロールとの戦いでは決定打として不十分だったのは明白だ。
リリカが首を横に振り、続ける。
「わたしは、果たせなかったと思う。」
唇を噛みしめながら、悔しそうにそう言う。
「ナッシュさんもルージュさんも、わたしより大きく防御力が高いわけじゃない。それでも前衛として敵の攻撃を引き受けてくれているわ。
それは、後衛の魔導士が強力な魔法を準備していることへの信頼を前提にしているはずなの。その信頼に対して、わたしのフレイムアローはあまりにも非力よ。
…だから、火力重視の術式を試してみたい。」
的を射た意見だ。今のリリカの術式構成は連射性を重視したものだ。
これは複数の魔物と戦う際や、魔法を囮にして必殺の物理攻撃を叩き込むような戦術なら有効だが、現在のパーティーのスタイルとは合致していない。
「そうだな。今の課題感に合う、試す価値のあるチューニングだと思う。」
折角なので、最大限火力に極振りした構成を試してみることで合意した。
結果として、次のような術式構成になった。
【コア術式】
炎属性攻撃
【サブ術式】
詠唱時間+20%
クールタイム+30%
魔法攻撃力+200%
速射性、連射性は著しく失われたが、魔法攻撃力は+60%から+200%へと上昇。
この違いがどれ程の大きさになるのか、単純に仕様理解を深める意味でも俺は気になっていた。
皆の元に戻ると、試しにリリカの術式を火力重視に変えた旨、これまでと戦いのリズムが変わると思うので注意して欲しい旨を伝えた。
また、次の相手としてリリカの強い希望でトロールを選ぶことになった。俺としても差を見たいのでそうしたかったし、皆も同意してくれた。
そして転移石を行使する前に俺も一つ試してみたいことを試すことにした。
「―――
転移前に掛けたバフが転移後に持続するかどうか、これまでは気にしなくとも作業で狩れていたが、ここで確認することにした。
正直なところ、勝手に切れるものだろうと思い込んでいた側面が強いのだが、もし切れないならバフの詠唱時間も術式から削減しやすい。また、移転した瞬間の攻撃があったとしても安全になる。
―――果たして、バフの継続を示す白いオーラは移転先でも一切衰えることなく、効果を発揮していた。
地味ながら大きな戦力アップに心を躍らせていると、トロールがゆっくりと近づいてくる。
既に杖に魔力を集中させ魔法の準備に入っているリリカを余所に、前衛2人がトロールに切り掛かり意識を集める。
しばらく小競り合いを続けていると、リリカの声が響く。
「―――フレイムランス」
リリカが攻城兵器を思わせるような巨大な炎の槍を投擲する。
それがトロールの胴を貫くと同時、爆炎にも似た業火が燃え盛り、トロールを包む。
流石にそれだけで倒すには至らなかったが、フレイムアローとの火力の違いは一目瞭然だった。炎の中心を起点にあの頑健な体毛が焼け落ち、焦げた表皮が露になっている。
「次は足に当て、そこを攻撃の起点にしよう。」
俺の提案に各々頷き、次の魔法まで荒れ狂うトロールをいなす。
結局、2発目のフレイムランスを起点に足を攻めると簡単にトロールは崩れ落ち、3発目で完全に沈黙した。
「いやー、凄い火力だねぇ。」
「ふむ、私の剣もいつかこの領域に達したいものだな。」
と前衛2人が褒めちぎる。俺もリリカの目を見て小さく頷くと、彼女は自信を湛えた表情で微笑んだ。
ドロップ品にまたしても含まれていたパワーリングに、一同冷めた表情にはなったものの、防御力+30、ダメージ-15%のラージシールドでナッシュの装備が更新され、今回もそれなりの報酬となった。
宿に戻ると俺は
その後、速度も安定したトロール討伐をいくつかこなしたが、ブラッドウルフのようにどこにでも沸いて出るような魔物ではないのだろう。一旦今出ているトロール討伐の依頼はすぐに枯れてしまった。
このままウェアウルフ狩りに移行すれば安全に狩りを続けることも出来たが、あまり効率が良くないし、パワーリングの売り先が見つかれば現段階で問題なく30万G以上になる。俺の杖を更新すれば狩りの幅が広がるので、続きはその後でも良いだろうと考えた。
一旦、3万G以上なら即決してOKと言って、手持ちのパワーリングをナッシュとルージュに分配して売り先を探して貰うことにした。
その間に、気になっていたギルドランク戦に関する話をお頭から詳しく聞くことにした。
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