第12話 C級クエスト

宿に戻ると、皆でクエスト内容を見ながら作戦を練る。

採取、護衛などは時間当たりのクエスト消化効率が悪いことが予想されるため、結局のところ討伐をこなしていく方針で固まった。


討伐依頼を見て行くと、トロール、ウェアウルフ、ワイバーン、リリスなどの格式高めの種族や、オーガプリースト、リザードメイジ、オークパラディンのような弱い魔物の中で階位が高いもの、果てはゴブリンの巣穴討伐などもあった。

パーティーの防御手段を単一のバフに依存しているので、物理、魔法の両面を見なければならない相手は除外、リリスなどの特殊な対策を要しそうな相手も除外としていくと、結局のところ脳筋系の魔物が候補として有力になる。魔法が得意そうな相手はどいつもこいつも種族として人間より肉体に優れていて、物理防御無対策で臨むのにはリスクを感じる。この辺りはパーティーに騎士を採用していない弊害が出ていると言えそうだ。

まぁ、しばらくは脳筋系の魔物にターゲットを絞って稼ぐのが良さそうだろうか。恐らくドロップがルージュやナッシュのものに偏るのでリリカと俺の装備は金の力で解決しよう。


まずはパーティー特性から最も安全に狩れそうなウェアウルフを標的にする。

集団を形成し連携を行うため、後衛に危険が及びやすい相手だが、こちらの後衛は硬い。予想通り安全に狩ることは出来た。

一方で相手が素早く、ルージュ以外は攻撃をかなり躱された。加えて耐久もある程度はあるため殲滅速度にかなり問題があり、稼ぎの相手としてはあまり適当ではなさそうだ。

攻撃力+20%、速度+8%となる忍刀を2本入手し、ルージュの装備を更新した時点でウェアウルフは対象から外した。

また、初回討伐時、俺たちは無事C級ギルドに昇格したわけだが、時間こそ多少掛かったものの、あまりにもあっさり、粛々とクリアしたものだからどう祝ったら良いものかと困惑顔のお頭が少し可笑しかった。


俺たちは次の相手としてトロールを選ぶ。

トロールは背丈が3~4階建てのアパートぐらいの毛むくじゃらの怪物で、悠然としていた。

これまで討伐してきた魔物は露骨に敵意を剥き出しにしていたが、どうにも雰囲気が違う。討伐対象にはなっているが中立的な魔物だったりするのか、と気になって尋ねると、

「元々は中立的な種族だったけど…今は明確に人間の敵ね。」

とリリカが答えてくれた。なるほど、この世界にも色々と事情がありそうだ。

そうこうしていると向こうもこちらに気付いたようで、面倒臭そうにこちらへ向かってきた。

全体的に動きは緩慢だったが、大振りの振り下ろしや踏みつけは地面が隆起する程の威力で、当たったらバフ込みでもただで済むか解らない恐ろしさがあった。ただし、これに関しては全員が余裕をもって躱せており、危ない場面は無かった。ルージュに至ってはほぼ毎回カウンターで斬撃を叩き込んでおり、それを嫌ってか徐々に大振りの攻撃は減少していった。

逆にモーションの小さい蹴りはナッシュが何度も被弾した。バフが効いており大きなダメージにはならなかったが、毎回確かに効いており、回復魔法が無ければ蓄積ダメージが問題になったかもしれない。早速安物の杖が役に立った。

ルージュはそうしたモーションの小さい攻撃も完全に見切っており、動きの遅い相手からは何らかの事故が起こらない限り全く被弾しなそうな安定感があった。

相手が1体でしかも鈍足なので、余裕を持って更新したこともあり守りの加護ウォールブレスの掛け直しにも事故要素はなく、防御面では安定していたと言える。

一方で相手のタフさにはかなり苦しめられた。胴体に直撃した初撃のフレイムアローに身じろぎ一つしない。雑に攻めてもどうにもならなそうだったので、とにかく重点的に足を攻撃し、フレイムアローも剣撃の傷を狙って何度も何度も当てた。

こちらは蓄積ダメージこそないものの、一向に怯む気配のない怪物の有様と、大振りの攻撃を警戒しなければならない緊張感で精神的にはかなり疲労した。

10を超える回数のフレイムアローが遂に敵の脚を挫き、倒れ伏すと頑丈な体毛に覆われていない目などへの攻撃が可能になる。最終的に眼球目掛けて放ったフレイムアローがそのまま頭部を焼き尽くし、轟音のような断末魔と共に絶命に至った。


苦労した分だけ高まるドロップアイテムへの期待を胸に、確認する。


【装備品】

バスタードソード

パワーリング

【素材】

トロールの毛

【道具】

ハイポーション

トロールの肉


―――あっ…

いや、予想出来なかったことではない。何ならワンランク上の装飾品までレアドロップし得ると思っていた。

だが、こうもあっさり手に入ってしまうと、今朝まではしゃぎ散らかしていたのが恥ずかしくなる。


「パワーリング、余っちゃったね…」

「なんだか申し訳ない…」

「…腐らせておくのも何だし、一応装備しとく、アリマ?」

「いや、流石に俺が装備しても意味が無さ過ぎるし、まぁ、売却用と考えるのがいいんじゃないか。人気商品だから少しは高値が付くかもしれないし…」

「あー、それならギルドの後輩に聞いてみるかい?店よりは良い取引になりそうだけど。」

「私の後輩も欲しがっていたな。とりあえず話を聞いてみるか。アリマもそれで良いか?」


俺は頷く。俺の杖の分は今日稼ぐとして、これから増えるであろうリング分はリリカの杖貯金に回るかなーと皮算用する。

そんな感じでパワーリングは話題の中心に居座ったが、むしろ本命ドロップはバスタードソードだ。攻撃力+50%と正統派の攻撃力重視武器。これまでナッシュは攻撃力重視とは名ばかりのルージュの劣化装備で頑張っていたが、やっと個性が出る。


「これまでナッシュに渋い配分が多くて申し訳なかったが、やっと君向けの強い武器が落ちたな。」


俺がそう言うと、謝らないでくれと言わんばかりのジェスチャーを取った後、バスタードソードを受け取り、そのまま高く掲げて戦力アップに浸った。


そのまま転移石で宿に戻る。

次の討伐対象を考えたいが、どうにもC級は単純作業で無限にこなせる程簡単には行かないと感じていた。どうするのが効率が良いかと考えを巡らせていると、


「アリマ、ちょっと相談があるの。」


リリカから声が掛かった。

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