第11話 楽しい楽しいショッピング
「どうやら遅かったようだな、すまない。」
俺がそう言うと、
「乙女を待たせるなんて、悪い男だね~。」
とわざとらしいジト目でルージュがからかってくる。
「ギルドランキングを見ていたんだ。俺達は53位らしい。」
そう言うと、仲間は反応に困った様子で首を傾げる。
俺もプレイヤー3位という情報が無ければよく解らないのでその反応は解るが、今特に掘り下げるべき情報も無い気がする。
「それに関して、少し気が早いかもしれないが、そろそろギルド名を決めなきゃならない。」
お頭が口を挟む。ギルドのランクはそのギルドが達成した最高難度のクエストで決まるが、B級になった時、すなわちB級クエストを初めてクリアした時にギルド名を正式に登録することになるそうだ。
また、C級ギルドにもなれば非公式に自分達のギルド名を名乗っていることも多いらしく、その時のエースパーティーが勝手に名乗っているものがそのまま正式になることも多いそうだ。
最悪、お頭か仲間に適当に決めて貰えば良いかと思っていると、徐にナッシュが口を開く。
「それに関してだが…カヤズインフェルノでどうだろうか。」
瞬間、空気が凍てつく。
自身満々のナッシュがとてつもなく遠くの存在に感じる。
ルージュもリリカも言葉を失い、そこだけ写真で時を切り取られたかのように固まっている。
…ダサい。その業を背負って戦いたくない。
そう感じた俺のセンスはこの世界でも基本的には共通の物らしい。
「ま、まぁ、今すぐに決める必要はないから、ゆっくり話合って決めてくれ。」
お頭がそう言うと、
「そ、そうだな。ナッシュの案は頭に入れつつ、ゆっくり相談して決めよう。」
と俺も返す。ルージュ、リリカも決意めいた表情で頷く。ナッシュもそれで不服は無いとばかりにゆっくりと頷いた。
…後で気付いたことだが、あまりに衝撃的な展開だったせいで、俺が勝手にリーダー扱いにされていたことをお頭に問い詰める機会を逸してしまった。
一旦その話は置いておいて、俺は今日の方針について切り出した。
まず街へ行き、武器屋、道具屋で売却と相場確認を行う。その後、鍛冶屋で出来ることを確認し、Gの使い方を決める。そして街で準備を整えたらC級クエストに挑戦する。
ざっとそんな方針で問題無いか確認したところ、皆から異議は出なかった。
こうして俺は初めて冒険者の宿の外へ出た。
ヘルプで調べた限り街中での暴力、窃盗、殺人などの類が誰かに露見するとペナルティが発生する。最も軽いもので、そのプレイヤーへの攻撃がノーペナルティになる――つまり悪事を仕掛けた者に対しては何をしても良い状態になる――というものがあるが、それ以上に関しては「君の目で確かめてくれ」とでも言わんばかりだった。
このため、安全運転するなら倫理に背いた行為は行うべきでないだろう。だが、ゲーマーであれば誰しもギルティプレイに興味が沸かないわけがない。このペナルティは抑止力としては不十分だし、何なら興味をそそろうとしている雰囲気さえある。
プレイヤーが接近するとアラートが鳴るらしいので、不意打ちを受けるリスクは低いと思うが、クエストと違って街中では転移石が使えない。万一格上のギルティプレイヤーに狙われた場合、容易に詰む危険がある。
これらの理由で初日は念のため街に出なかったのだが、街は平穏そのものだった。住人と思しき人もまばらにいて、特別な工夫なくバレずに犯行に及ぶことは出来そうにない。
俺達は特に注意を払うことなく真っすぐに武器屋、道具屋が密集している商店街へ向かった。
肉類、余剰ポーション、不要な装備を売り払うと手持ちは10万G程になった。肉類、ポーションは二束三文といった感じで、武器も買う時の相場の1/5程度の金額になるようだ。とても渋いが、向こうは在庫リスクを抱えているわけだから納得は行く。
道具屋のラインナップは各種ドーピングアイテム、回復アイテムと指輪。各種ドーピングアイテムは補助魔法と効果を相殺するため、基本的にはプリーストのいないパーティー向けのものらしい。
各種指輪は5万Gとなるほど、高価だ。ナッシュが一瞬だけ物欲しげに表情をだらしなく歪めたのを俺は見逃さなかったが、すぐにいつものキリッとした表情に戻った。自制心のある男は好きだぞ、俺は。
武器屋では剣、盾、杖のラインナップを確認した。俺の初期配布の剣が5万G、同程度の杖が10万Gで売られているのを確認し、絶句した。高級品過ぎるだろ…
剣、盾、杖共に最高級品は30万Gとなっており、とりわけ補助特化の杖には「ダブルキャスト」という極めて有用な術式が使用可能になっていた。バフは基本的に魔法1つ分しか乗せることが出来ないが、ダブルキャストは通常のバフを打ち消さずに別のバフを掛けることで2重のバフを実現出来る。防御と魔法防御の同時強化は近い将来必ず必要になると思っていたので絶対に欲しい。
また、攻撃特化の杖では「耐性貫通」という術式が使用できるようだ。上位の魔物には多かれ少なかれ属性耐性を持っているものが多くなるため、これがないと魔導士は何も出来なくなる相手も少なくないとリリカが熱く語っていた。
剣は杖ほど非連続的な性能差ではないが、今使っているものより格段に良い性能なので可能なら勿論買い揃えたい。盾もかなり性能が上がったものが置かれていたが、それはまぁ良いだろう。とりあえず30万Gというのは稼ぎの一つの目安になりそうだ。
一旦下見はこのぐらいにして、次は鍛冶屋へ向かう。
大量の素材を売り払うと1万G程手持ちが増えた。加えてブラッドウルフの牙と皮は杖を鍛える素材になるようで、俺の杖は1万G、リリカの杖は5000Gで強化出来るとのことだ。
杖は直近の更新目処もついていなかったのでこれを受け、結果的に俺の
その後、道具屋でナッシュに念願のパワーリングを購入した。これを買うと残り4.5万Gになるため、俺の分は指輪が買えない。ナッシュが死地で「ここは俺に任せて先に進め」と叫ぶ仲間を見るような涙ぐんだ目で「すまない…」「ありがとう」と何度も感謝を口にしたので「気にするな。これは期待の証みたいなものさ。」と飾った言葉で返すと、今まで以上の凛々しい顔で闘気を新たにしてくれたので良かったとしよう。
…まぁ、俺に適切な指輪が無い気がするので最初から買う気は無かったんだが。
後は15000Gの安めの杖を買い、距離+3m、回復力+20%の単純な回復魔法をセットした。これで戦闘中の軽い怪我には対応できるだろう。重傷が出るなら即転移石というプレイ方針なので、これで十分だ。
とりあえず今出来ることはこんなものだろう。俺達はC級クエストに挑むべく冒険者の宿に戻った。
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