第10話 ギルドランキング

目を覚ますと、眼前にメッセージウィンドウのようなものが開き、機械音がその内容をなぞる。


「ギルドランキング機能が解放されました。」


俺は飛び起き、メニューから内容を確認する。


1位 ユグドラシル  S級 リーダー:アレス

2位 ロイヤルナイツ S級 リーダー:ランスロット

3位 ダガージョウ  S級 リーダー:ハイアン


上位はこんな感じで並んでいた。これらは恐らくNPCのギルドだ。

これらを抜き去ることがプレイヤーにとっての当面の目標となることだろう。

だが、重要なのはそこではない。俺はギルドランキングを下っていく。


S級5、A級10、B級15のネームドギルドの下に20のC級ギルドがNo Nameで並んでいる。これらの中にプレイヤーのギルドが混じっている可能性もあるが、数のキリを考えるとこれら50のギルドはNPCのギルドだろう。

その下からはプレイヤーのギルドと思しきものが並んでいた。俺はこれが見たかった。


51位 No Name D級 リーダー:ガレット

52位 No Name D級 リーダー:トモヤ

53位 No Name D級 リーダー:アリマ

54位 No Name C級 リーダー:ジェイス

55位 No Name D級 リーダー:トウゴウ


初日、俺は3位と好成績だったようだ。相当効率良くプレイ出来た自覚はあるが、かなりプレイは安全に倒したし、俺より攻撃に寄せたアプローチも思い付く。それに宴をスルーすればもっと上にも行けただろう。その辺りも考慮すれば出来過ぎなぐらいの順位だ。

だが、上位プレイヤーの名前には少し問題があった。


―――ガレット。

かなり有名なゲーム動画投稿者と同じ名前だ。投稿頻度は低いが出してくる攻略内容があまりに狂っており、ほぼ毎回ミリオン再生を超えている。

圧倒的な知識量と常軌を逸した試行回数から織り成されるそのプレイは観る者を魅了する。かく言う俺もファンの1人だ。あれは一種の芸術だと思う。

もし本人だというのであれば初日1位の成績は納得が行き過ぎる。仮に熱狂的なファンの模倣だったとしても初日1位は伊達ではないだろう。強敵であることが予想される。

一方でそのあまりにマゾマゾしいプレイスタイルを考えるとどこかで事故ってくれないかなという淡い期待も沸いてくる。


2番手はトモヤだ。カードゲーマーとしての俺の最大のライバルなわけだが、この世界でも同様の強敵になりそうだ。

俺と違い、ビートダウンなど攻撃的な戦術を好むのでこのゲームでも殲滅速度を重視して仕上げているのかもしれない。そのあたり防御優先で組んだ俺の上にいるのは順当と言えそうだ。


そして気味が悪いのは4番手のジェイスだ。まず、一人だけC級というのが気持ち悪い。数より質でこなしたため、評価としては俺達より下ということだろうか。

まぁそれだけでも気になるが、問題はこの名前だ。

―――ジェイス。

とある格闘ゲームの全国大会を連覇した男の名だ。

そのあまりにも完璧なガード性能から「ミスターパーフェクト」などという二つ名を持っていたり、待ち重視のそのプレイスタイルが「ジェイス・ドクトリン」などと呼ばれ、多くの模倣者を出したりした。

とりわけ有名なエピソードが大会の優勝インタビューで防御のコツを聞かれた際に「見えているものに当たるわけないと思うんですが…」とドヤりたいのか天然なのかよく解らないコメントを出した話だ。一時期これはネットスラングとして流行り、下手くそなプレイを揶揄する際に多用された。

俺は格ゲー専門ではないため、今ジェイスが格ゲーをやっているのか、やっているとしてどの程度の位置なのかは知らないが、プロになったという話は聞かない。この場に本人がいる可能性は否定し難い。

…万一本人ならば、このテストプレイで最強のアタッカーであることを疑う余地は無いだろう。


5番手のトウゴウに関しては…知らない。

全く聞いたことのない名前だが、俺自身いつもと違う名前を使っているし、そもそもカードゲーム以外の一流プレイヤーを網羅しているわけでもない。アポロやジェイス、ガレットなんていうのは特例中の特例の有名人だ。

警戒すべき相手として認識しておく。


さらにランキングを下っていく。何人か大会で見たことのある名前を見掛けた後、67位にアポロの名を確認した。階級は俺達と同じD級。思ったより順位が低かったのが意外だったが、初動にまごついたのかもしれない。このあたりまでの初日順位の差は誤差と考えて良いのだろう。


下の方は誰がプレイヤーで誰がNPCか解らず、正確な数は解らなかったが、初日D級の実質的な競合プレイヤーはざっと30人といったところだろうか。概ね予想通りだし、初日3位という結果は自信にも繋がった。

また、さらに下の方も流し見していくと、「リョフ、セイバー、コウメイ、マーリン」などといった見るからに好みのプレイスタイルが解るネームや、さらに下の方には「ヤマモト、スズキ、タナカ、サトウ」みたいな明らかに本名の苗字のプレイヤーがごった返していた。流石にこの辺りのプレイヤーに負けることは無いだろう。


また、ご丁寧に残りプレイヤー人数もここで解る仕組みになっていた。現在の残り人数は118人。初日にヤンチャして脱落したプレイヤーが0人ということもないだろう。俺の人数読みは思った以上にガバガバだったらしい…


最低限の確認を終え、階下に降りると、

「おや、お寝坊さんがやっとご到着のようだね。」

というお頭の煽りと共に、準備万端の3人の姿が見えた。

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