第8話 稼ぎを終えて
何十回目か、日が暮れるまでブラッドウルフの討伐を続けた俺たちがギルドに戻ると、お頭から声が掛かる。
「お疲れさん。今日はその辺で終わりにして、宴にしないか?」
この提案に俺は迷った。
狩りはスムーズにいっており、疲れで殲滅速度が遅くなっているなどの弊害もない。
データ上は無限に稼ぎが出来るのではないか、という予想を立てている。
一方、稼ぎを続けている中、仲間の動きはどんどん洗練されていき、後半は殲滅速度がかなり早まっていた。仲間は明確に成長している。
仲間の成長を可視化するデータは存在しておらず、これはデータ上の効率プレイが最適プレイにはならない可能性を強く示唆している。
皆に目配せをしてみる。ナッシュは「どちらでも構わない」といった感じの中立的な反応。リリカは「まさか断らないわよね?」とでも言わんばかりのジト目でこちらを見ている。ルージュは…なんだろう、物凄くソワソワしており、俺が目配せしているのに気付く気配がない。もう宴への参加は決定事で、どんな宴になるのかに興味が移っている、そんな様子だ。
もし断ったら女性陣からは非難
理屈の上でも宴への参加が必ずしも最適から外れるとは限らない。ゲーマーとしての自分の矜持とも折り合いがついたため、ここは人間的な判断として宴への参加を快諾することにした。
宴が始まるまでの少しの時間に、狼狩りの成果へと思いを馳せる。
まずはクエスト達成報酬としての大量の
素材と道具に関してもそこそこ集まった。素材は鍛冶屋で買い取って貰うか、新たな装備を作るのに使うようだ。道具の方はポーションがとりあえず個数を気にする必要がなくなる程度には集まった。
あとは肉だ。食うと何か効果があるのかと思い、聞いてみると「えっ、得体の知れないものを食べるの?野蛮過ぎない?」とリリカに滅茶苦茶怪訝な顔をされた。どうにかすれば食べられるのかもしれないが、今のところ解らないので売却用アイテムと考えることにした。
そして、装備品だ。同じ魔物をこれだけ倒して解ったことだが、敵のドロップには少なくとも通常ドロップ、レアドロップ、超レアドロップがありそうだ。
恐らくレアドロップに相当するのが、10本手に入ったこのライトソードだ。数値にはバラつきがあったが、良い物で攻撃力+10%、速度+5%。俺の初期配布より弱いのは残念だが、ルージュとナッシュのアイアンソードの明確な上位互換品だ。
ルージュは当然即座に装備を替えたが、ナッシュには火力重視のスチールソードと速度重視のライトソードとでメイン武器の選択が発生した。どちらが良いかあまり判断材料がないので何も言わずに見ていたが、ナッシュはメイン武器はスチールソード、盾が不要な時にライトソードとの二刀にする決断をしたようだ。同じ剣士ではあるがルージュは速度、ナッシュは火力を好む嗜好がありそうだ。二人の好みが違うのは、今後強力な武器が手に入った際の分配が楽になるので助かりそうだ。
そして目玉品は牙の指輪だった。これは魔力を5上げる、パワーリングの魔導士版といった感じの代物だ。アレだけ群れを討伐して1個しかドロップしなかった。
ドロップ確認でこれが出た時、リリカの声がいつもより高くなっていたのを俺は聞き逃さなかった。ただし、魔力は攻撃魔法の火力の他に回復魔法の回復量にも影響を与える。俺は一度も回復魔法を使っていないが、成り行きでパーティーの司令塔のような形になっている。「これは一応俺が持っておこう。」などと言ってしまえばそうなってしまうかもしれない。リリカが見たことがない程度にはソワソワしているのが解った。
「これは当然、リリカが持つべきだな。」
俺が当たり前のようにそう告げると、リリカが破顔する。一瞬後、ハッと気付いたように、恥ずかしそうに眼を逸らし「ありがとね。」と受け取るといそいそと指に嵌め、満足そうに笑みを浮かべた。
…その後、俺の肩をポンと叩き、ナッシュが「うんうん、お前の気持ちは解るぞ。」とばかりに何度も頷いてきた。俺にはよく解らないが、指輪持ちかどうかはそこまで重要なのだろうか。「モテない男同盟」みたいなものに強制加入させられたような不服な気持ちもあったが、ナッシュとしては精一杯の慰めを行ったつもりなのだろう。俺は気にしないことにした。
さて、戦利品はそんなところだが、戦っている間、俺の脳を強く支配する感情があった。
―――暇だ。
防御魔法を掛け、それを掛け直すまでの間、基本的に俺にはやることがない。最初の方こそ念のための転移石行使の準備や、バフ掛け直しのための仲間との位置取り調整などに意識を取られていたが、慣れてくるとやるべきことがかなり減る。
バフを行使してそれが切れるまでの間に余裕を見ても1回、切り詰めれば2回行動機会がありそうだ。
その辺りも踏まえ、直近の行動優先順位を俺は以下のように考えた。
1.防御魔法の更新(可能なら)
2.俺のサブ装備の入手
3.ナッシュのパワーリング入手
4.その他攻撃手段の更新
イレギュラーや仲間の意見で変わることもあるだろうが、一旦こんなものだろう。
そう考えをまとめていると
「準備が出来たよ、おいで。
さぁ、みんな、主賓のご到着だよ!」
お頭がそう呼んだので、俺達は宴会場と化した酒場の中へと向かった。
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