第7話 ハック&スラッシュ!

少年の日を思い出すようなワクワクを胸に秘め、ドロップアイテムを確認するとこのような表示になっていた。


【装備品】

なし

【素材】

オーガの牙

オーガの皮

【道具】

ポーション

焼け焦げたオーガの肉


…嫌な予感がする。

皆の様子を見渡すと、明らかに興味を失ったような、死んだ魚の目をしている。


「なぁ、これって…」


俺が口を開くと、


「ハズレ、ね。」

「ハズレだな。」

「詰まらないわね。」


と口々にこのドロップの渋さに溜息を漏らす。

残念な結果に意気消沈しつつも、転移石を呼び出し、俺たちはギルドへと戻る。


「お帰り。早かったじゃないか。」


クエスト達成は既にお頭にも伝わっているのだろうか。成否を聞かれることもなく、笑顔での出迎えを受けた。


「次からはD級でも問題ないと思うよ。」


俺がそう返すと、お頭は感心した表情で息を漏らす。

そのままメニューを呼び出し、D級のクエストを検索すると「オーガバトラー討伐依頼」という解りやすい似た物クエストが見つかる。


「次はこれを受けるのでどうだ?」

「「「問題無い/わ。」」」


皆、消化不良だったのかこの提案に即答が返ってきた。立て続けの討伐クエストに誰からも文句が出ないのはありがたい。そのまま受注し、次のクエストへ向かう。

切り立った崖に囲まれた荒野のような場所に着くと俺は例の如く防御魔法を行使した。


そうしていると雄叫びで自己の居場所を主張しつつ、巨体を唸らせてこちらに走って来る化物の姿が見える。

大きさはオーガと同じぐらいだが、軽装鎧のようなものを纏い、巨大な棍棒を握っている。

一般人が直撃すればミンチは免れない勢いで振り下ろされた棍棒をナッシュが盾で受ける。その勢いは大きく殺されているものの、今回は明確な衝撃が発生し、ナッシュの顔が僅かに歪む。

しかし、そのままの流れでナッシュは敵の脚を切りつける。ほぼ同時に逆の脚をルージュが二度切りつける。


「―――フレイムアロー」


炎の矢が化物の胴に突き刺さり、鎧ごと焼く。焦げた皮膚が露にはなるが、致命傷には遠い。痛みに伴う怒りに任せ、物凄い速度で薙ぎ払った棍棒がルージュの脇腹を捉え、弾き飛ばす。

それを見て俺は念のため転移石を呼び出しつつ、万一にもバフを切らさぬよう、かなり早いが防御魔法を掛け直す。

ルージュは明確に顔を歪ませたが、体勢は崩すことなく次の攻撃に移る。

ナッシュが先程ルージュが切りつけた側の脚を切り払い、ルージュが同じ場所をさらに切りつける。

巨体が少しバランスを崩したのが解る。その刹那、2発目の炎の矢が胴を刺し、燃え盛る。炎に包まれながら化物は憎しみに大きく歪ませた顔で大振りの薙ぎ払いを試みようとする。だが、ルージュとナッシュがその前に胴を深々と突き刺す。

握力を失い、棍棒が地面に転がる。同時に全身の力も抜け落ちたその体がドシンと大きな音を立てて地面に倒れ伏した。


すぐさま俺はルージュに駆け寄り、傷の具合を伺う。


「少し痛みはある。だけど全く問題無いよ。」


ルージュはそう応えるが、脇腹には痛々しい痣が出来ている。

とりあえずポーションを渡すと嬉しそうにそれを飲み干した。するとみるみるうちに痣が引き、ルージュが笑顔になる。

ポーションは初期配布のものもあったため、ナッシュにも要るか聞いたが、ナッシュの方は不要だと断ってきた。


「さて、少しは苦労したんだ。いいモノを頼むよ。」


ルージュがそう言うや否や、光の珠が浮かび、輝きを放つ。楽しい楽しいドロップ確認の時間だ。


【装備品】

スチールソード

パワーリング

【素材】

オーガの牙

オーガの皮

【道具】

ポーション

オーガの肉


何となく良さそうだなと思っていると、皆から歓声が上がる。

スチールソードも攻撃力+20%とナッシュの武器を更新出来るが、歓声の理由はパワーリングのようだ。

力を+5してくれる装飾品。市場に流通しており特に珍しい品ではないが、そこそこお値段のするもののようだ。曰く、剣士はこれを身に付けていると新米とは見られにくくなり、舐められなくなるとのこと。


俺は常に二刀で戦うこと、ナッシュにはスチールソードもあることからパワーリングはルージュが持つことを提案する。ナッシュも妥当な提案に納得はするが、少しだけ未練を感じる反応だ。割と大人な反応が多いナッシュにしては珍しいので、新米剣士にとっての価値の高さが伺われる。一方、ルージュはすぐさま指に嵌めると、うっとりとした表情で見つめている。

…まぁ、今日が終わる頃には小金持ちぐらいにはなっているだろうし、早めにナッシュにも買ってやろう。


転移石で戻るとお頭が「いやー、よくやった、よくやった!」とテンション高く出迎える。

D級クエストのクリアは新米冒険者の壁らしい。これのクリア者が出るとギルドは有象無象の路傍の石ではなく、ギルドとして見て貰えるんだとウッキウキにお頭が語る。

特に問題なくこなせることが分かったので、俺は続けてD級をこなしたいのだが、少し問題を感じていた。

オーガバトラーとの戦闘は死闘には程遠く、苦戦と言うほどでもなかったが、ルージュが怪我をしてしまった。ナッシュも無傷ではない。

あの強烈な横薙ぎを受けた表情の歪み方を見るに、痛みは小さくはないだろう。それを日に何度も何度もこなすというのは、ここがRPGの世界であれば何も問題ないだろうが、仲間を人間と考えると忍びない。

戦いではなく作業のようにこなせるクエストを大量にこなしてパーティーの強化をしたいというのが正直な感想だ。

そんな風に思いながらクエストを眺めていると「ブラッドウルフの討伐」というクエストが目に入った。


「なぁ、これについて聞いても良いか?」


俺は皆に話を聞く。予想通り、ブラッドウルフは単体ではなく群れを成す魔物のようだ。

獰猛な性格でその牙がいつも血に染まった赤色をしていることからブラッドウルフと呼ばれているとはリリカの談。またある程度の狡猾さも持ち合わせており、群れで連携を取るため後衛に危険が及びやすく、ある程度熟練した冒険者でも敬遠することがあるらしい。


「よし、これにしよう。」


俺がそう言うと、リリカは「うへー…」とでも言わんばかりの顔をしたが、俺の意図は察しているのだろう。文句は言わない。

まぁ、これまで前衛にばかり負担を強いてきたのだし、後衛の俺とリリカが少しばかりの勇気を出しても罰は当たらないだろう。


「…いいのかい?」


ルージュが意外そうに確認を取るが、リリカは「多分問題無いわ。」と返す。

転移石に手を翳すと俺たちは草原に出る。俺が防御魔法を行使するとほぼ同時に、警戒して唸り声を上げていた、狼にしては大型の魔物が一斉に飛びかかって来た。


ルージュは襲い掛かるブラッドウルフを軽々と切り伏せる。群れでD級ということで、1対1ならルージュとは攻撃を受けることすらないであろう力の差があった。

ナッシュはいつも通りまずは盾でいなして切りつける。それでは殺し切れなかったが、余裕があることを確認して盾をしまってアイアンソードに持ち替え、二刀で切り伏せる。こちらも全く問題無さそうだ。

前衛二人が襲い掛かる狼に対応している間に後衛の俺たちにも狼は牙を剥く。鋭い牙を持ち、素早く動くそれから逃れるような戦闘センスを俺もリリカも持ち合わせていない。

狼は牙を剥き、防御のために差し出した華奢な腕を食い千切ろうとする。

…が、牙は俺たちの皮膚に届くことはなかった。


―――計画通り

俺は内心でほくそ笑んだ。いや、もしかしたら顔にも出ていたかもしれない。リリカの視線がジト目に変わった気がした。

まぁ、それはそうだ。俺の防御魔法は低ランク帯ではバランスブレイカーなのだ。無防備な俺やリリカでさえ、新米騎士が2枚の盾でガッチリと防御を固めている状態よりも硬い。

その後は一方的な蹂躙である。ルージュとナッシュが斬殺し、リリカが焼き殺す。俺はその間皆と距離を離さないよう注意しつつバフを掛け直す。

害獣の群れが全て片付くまで、時間はほとんど掛からなかった。


素材と肉は沢山貰えたが渋いドロップを確認し、ギルドへ戻る。

ブラッドウルフで検索を掛けると討伐依頼は大量にあった。この世界ではポピュラーな危険生物のようだ。


…この世界に生態系があるとしたら、俺のせいで歪んでしまうかもしれないな。

そんなことを考えながらも、俺たちはこの後ブラッドウルフの群れを狩るを繰り返した。

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