第6話 異世界転生の醍醐味は無双である

4人でお頭の元へ向かう。

無事打ち解けた様子の俺たちを見てか、少しホッとした様子のお頭に俺は


「クエストを受注したいんだが、どうすれば良い?」


と質問を投げかける。するとお頭がこう答えた。


「メニュー操作で受注できるようにしておいた。相談してそこから決めな。」


…なるほど、そう来たか。

全体としてファンタジー調なので、クエスト周りは紙媒体で頑張るのかと思っていたが、どうにもこのメニューの存在は世界観に組み込まれているらしい。

メニューを出すと興味津々で仲間が見てくることから、少なくともパーティー内で内容を共有できるものだと考えて良さそうだ。

検索性など考えればプレイヤーとしては諸手を挙げて歓迎したい仕様だ。


メニューを操作し、クエスト一覧を開くと皆が覗き込むよう浮かんでいるメニューに注目する。

クエストには難度に応じてG級~S級の区分けがあるようだ。内容は討伐依頼、護衛依頼、採取依頼など多岐に渡る。

また、クエスト報酬以外に予想される敵は何かなどの情報も確認することが出来た。さらに、他に同じ依頼を受けているギルドという項目が存在していた。この機能を上手く使って他のプレイヤーに攻撃を仕掛けろということだろうが、今は時期尚早。一旦はここが空白になっている依頼に絞って依頼を考えよう。


さて、初動で杖をかなり魔改造したのでG級でゴブリンやコボルトと戯れる必要はないだろう。だが、どの程度飛び級出来るかの温度感が掴めない。そんなわけで、恐らくは詳しいであろうお頭にジャブを入れてみることにした。


「最初のクエストとして絶対に不適切なランクはどのあたりになる?」


お頭は少しだけ口元を緩めた後、答える。


「冒険者の蛮勇、命知らずなエピソードはこの界隈じゃよく語り草にされてる。

そうだね…冒険初心者がD級のクエストを受けて成功したって話は聞いたことが無いね。」


なるほど。皆との会話でプレイヤーはチートレベルの化け物だということが解っている。つまり、これまでに成功した初心者がいないというD級のクエストは恐らくギリギリ成功圏内と考えて良いだろう。

だが、万一にも事故は御免被りたい。俺は初めてのクエストのランクをE級に定めることにした。

徐にクエストの絞り込み条件をE級にして読み込み直す。すると、「オーガ討伐依頼」といういかにもお手頃そうなクエストが目に入った。


「なぁ、オーガってのは魔法を使うのか?」

「いや、オーガは巨体を活かして暴れる回るだけの魔物ね。ってあんた、いきなりオーガとやろうってわけ?正気?」


リリカが焦った口調で俺を嗜めてくる。構わず俺は続ける。


「俺は今、物理防御に特化した術式構成にしてある。この手の肉体が自慢なだけの魔物はかなり相手取りやすいんだが、それを踏まえて前衛2人はどう思う?」


リリカの話を聞く限り、相手の知能は低い。となると何か問題があった場合、真っ先に大怪我を負うのはルージュかナッシュになるだろう。ならばこの2人が承諾してくれればこのクエストで行ける。


「…そうだな。補助が無ければ勝てないだろうが、一撃も耐えられないという程ではない。無理そうなら引くという前提なら試せないことはない、かな。」

「…オーガは特に皮膚が固いわけじゃない。防御面に問題が無ければ倒せる相手とは思うわね。」


2人も常識的にはあり得ない提案だとは思いつつも、先程俺がリリカの術式を指摘した様を見ていたのが効いたのだろう。こいつが言うなら試しても良いかという思考に傾いているのが解る。

その様子を見てお頭の方から声が掛かる。


「クエストを受注したら転移石が浮かんでくる。それに触れたら依頼の場所近くにワープする仕組みだ。この転移石は向こうでも念じれば浮かんでくる。

依頼を達成したらそれでここに戻ってくるのが一番良い。だけど危ないと思ったらすぐに戻ってくること、いいね?」


クエストが失敗すればギルドの評価は下がる。それはお頭にとっては辛いはずだが、パーティーの安全を第一に考えてくれているようだ。この人は信頼して良い、と改めて認識した。


「分かった、ありがとう。」


そう謝意を告げ、パーティーに向かって続ける。


「もし少しでも危ないと判断したらすぐにこの転移石で戻ろう。その前提で、このオーガ討伐のクエストを受けてみたいんだが、みんな、良いか?」


皆、緊張した面持ちではあるが、頷いてくれた。


「行こう。」


俺はオーガ討伐を受注し、転移石に手を翳した。

僅かな浮遊感の後、体の感覚が消え、次の瞬間には見晴らしの良い平原にいた。


そこでまずは状況確認と言いたいところだが、俺には仕事がある。転移されて間もなく、パーティーが固まっているその場所で即時杖に手を翳し、防御魔法を行使した。

間もなく…恐らく1秒掛からない程度のラグで白いオーラのようなものが皆を包む。


何も言わずにいきなり魔法を行使したため、皆は少し呆然としたようだが、俺が軽はずみにオーガ討伐を提案したのではなく、真剣であることを理解してくれたのだろう。次の瞬間には戦闘モードに切り替わったのを感じる。


「あれがオーガ、か。」


魔法の行使が終わった俺は周囲に3mは優に超えているであろう、人に非ざるものの迫力を伴った巨体を確認して呟く。

ほぼ同時にその巨体もこちらを視認し、獰猛な叫び声をあげて向かってきた。

野生の熊と出くわすとこんな気持ちになるのだろうか。物凄い速度で接近してきたそれは凡そ人間では受け切れなそうな大振りの一撃を放ち、ナッシュが盾で受けた。

受けたナッシュは勿論、リリカや俺も恐らくは発生するであろう強烈な衝撃を予感し、顔を顰める。

…が、予想したような衝撃は一向に訪れない。あまりの手応えの無さに受けたナッシュが一番困惑しているのを感じる。オーガも、何が起きたのか解らない様子で固まっているようだ。

次の瞬間、既に空高く跳び上がっていたルージュが舞のような流麗な動きでオーガを二度切り裂いた。オーガは振動を伴う程の雄叫びを上げ、血走った眼をルージュに向けるとその怒りのままに殴り掛かる。


「リリカっ!」


状況を飲み込めずに一緒に固まっていたリリカに声を掛けるが、彼女は俺よりもこの世界に慣れている。戦闘中に長時間固まるような間抜けではなく、既に攻撃魔法のモーションに移っていた。


「―――フレイムアロー」


彼女がそう唱えると燃え盛る炎の矢が発せられ、オーガに突き刺さり、焼き尽くす。苦しそうな断末魔をあげつつ、オーガはあっけなく燃え尽きた。その様を見てリリカが「えっ?これ、わたしがやったの?」とばかりに困惑した表情で杖とオーガの残骸を交互に見ている。術式魔改造の効果は覿面だったようだ。

俺はすぐに唯一攻撃を受けたナッシュに駆け寄り、具合を確認する。


「…痛みどころか衝撃すら感じなかった。凄いな、お前の魔法は。」


どうやら俺の防御魔法はE級においてはバランスブレイカーだったようだ。

こそばゆい感覚を覚えつつも、予想以上の手応えに拳をグッと握りしめる。


そうこうしているうちに焼き尽くされたオーガは光の珠となり、それが強い光を放ったかと思うと空中にリザルトを確認するかどうかの選択肢が表示された。

…なるほど、これがアイテムドロップの演出か。俺がそう思っていると、仲間も既に集まってきており、期待に満ちた表情で空中を注視している。

ドロップアイテムの確認が冒険者の最大の楽しみであるというのはどうやらこの世界でも同じなようで、囃し立てる仲間に応じるようにYesと書かれた方のパネルに触れ、次の画面へと進めた。

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