第5話 あのー、俺、なんかやっちゃいましたか?

「これからあんたらにパーティーを組んで貰う。挨拶しな。」


お頭はそう促すと「後は任せる」と言わんばかりに手を振りながら戻っていった。

テーブルに座る3人を観察しながら先に挨拶をするか逡巡していると、赤みがかった髪を後ろで纏めた、恐らく20代前半頃の軽装歩兵風の女性が立ち上がり口を開く。


「アタイはルージュ。このギルドで剣士をやっている。よろしく。」


そのままの流れで金髪を短く揃えた…多分20代か?そのぐらいの軽装の戦士風の男も立ち上がり、その繊細そうな顔立ちから予想されるより力強い声で自己紹介する。


「私はナッシュだ。同じく剣士をやっている。よろしくな。」


最後に亜麻色の長髪でいかにも魔導士然とした黒のローブを羽織る、10代後半だろうか、そんな年相応に少し生意気そうな雰囲気を持った少女が立ち上がり、話す。


「わたしはリリカ。魔導士よ。得意な攻撃魔法は…」


炎や爆発系と続きそうなのが雰囲気から解る。だがその口から紡がれる言葉は異なっていた。


「全部ね。よろしく?」


…ただの天才だった。いや、そもそもこの世界で魔法の得意苦手が存在するかも知らないわけだが。そしてなんで挨拶が疑問形なんだ?

ともあれ、俺も続く。


「俺はアリマ。プリーストの役割を担うつもりだ。新参であまり詳しくないところもあると思うが、よろしく頼む。」


そう言って手を差し出す。

ちなみに、この「アリマ」という名前はこのゲームをやるにあたり温めておいた新規のハンドルネームだ。俺は悪魔や神話の悪役などから捩ったハンドルネームを採用することが多いが、これはみんな大好き悪神「アーリマン」から捩った名前になる。


差し出した手に、一瞬戸惑いが見られたが、皆握手で返してくれた。

これから一緒に戦おうというやつが新参で詳しくないなどと言い出したので、悪い印象を与えてしまっただろうか。

つい余計な情報を出してしまったかもしれないことを後悔しつつも、気になることがあるので続けて話す。


「クエストに向かう前に皆の装備を確認させて貰っても良いだろうか。」


皆の頭の上に?マークが出ているように感じる。だが、特に嫌がる理由もないという感じで皆装備を見せてくれた。

ルージュとナッシュの装備はアイアンソードとウッドシールド。それぞれ攻撃力+10%とダメージ-5%がついているだけの、俺の初期装備より弱いものだった。なるほど、プレイヤーは思ったより優遇されているらしい。

俺はルージュにライトソードを、ナッシュにアイアンシールドを渡すことにした。


「はぁ~。あんた良いモノ持ってるんだねぇ。」

「ほぅ…なかなか良い品だな。ありがとう。」


二人は少し感嘆した様子で謝意を示してくれた。特にルージュは盾を使うのはあまり好きでないのか、ウッドシールドを仕舞って二刀を構えて満足げにしている。


2人の装備を更新出来たのは少し意外だったが、俺の本命はリリカの杖だ。

予想通り、無駄の多い術式構成だった。4種の属性魔法が設定されている。そのままだと4種類にするのにそもそもコストが足りず、攻撃にマイナス補正が付いているんだが…

何故初期装備に4種類もの属性魔法を設定する必要があるのか。序盤から強力な耐性持ちが出て来るのか?もし出て来るとしても2属性あれば十分だろう。

内心では「あり得ねぇwww」と思いつつも、リリカのプライドを傷付けるのも申し訳ない。俺はこう切り出す。


「リリカはこの杖の…4種の術式構成に拘りはあるのか?」

「へっ…?」


リリカの目が点になっている。切り出し方がこれでも厳しかったか?

いや、これ以上どうマイルドに言えと言うんだ…

そう思っていると、目を丸くしているのはリリカだけでなく、ルージュとナッシュまでもがそこだけ時が止まったかのようにフリーズしている。

リリカが恐る恐る続ける。


「なんで…解る…の?」


なるほど。色々と合点がいった。

話を聞いてみると、剣士なら剣、騎士なら盾、魔導士なら攻撃魔法というように自分の専門分野を完全に把握出来ればそれだけで一人前ということだ。

特に魔導士はそれが顕著で、リリカが「得意な攻撃魔法は全部」と言ったのは意味のないことではなく、不得意なく扱えるというのは一流の、少なくとも一流の卵であることを証らしい。

自己紹介の時、皆の反応が硬かったのも新参という言葉に反応したのではなく「プリーストの役割を担う」というまるで他も出来そうな口ぶりのせいだったというわけだ。あの時点では凄いやつというよりは、ド三流の口だけ冒険者である可能性を危惧されたのだろうが。


…なるほど。これが噂に聞く「あのー、もしかして、俺、なんかやっちゃいましたか?」というやつか。

あんなものは常識で考えてもおかしい、倫理の壊れた人間の口からしか出ない一種のジョークだと思っていたので、まさか自分がやる側になるとは思っていなかった。


何故解るかと聞かれても、解るものは解るとしか答えようがないのだが、ともあれ、リリカはこの残念な術式構成に特に拘りはないことが解った。

どうやらリリカは本当に天才側の人間のようで、これまで同レベルに術式を理解する相談相手がおらず、よく使われている構成をそのまま使っていたのだそうだ。

一旦、獣や植物など序盤は特に効きそうな相手が多い炎属性を採用し、相談しながら以下のような魔法を設定した。


【コア術式】

炎属性攻撃

【サブ術式】

詠唱時間-20%

クールタイム-30%

魔法攻撃力+50%


仲間との連携もあるため一旦範囲は大きくせず、連射性を重視した上で余りを可能な限り火力に回したという構成だ。

新作ゲームを買った直後のような…いや、少女なので新しいドレスを買ってもらった直後のような、の方がしっくり来るだろうか。ともあれ、リリカは試し撃ちしたくてしたくて溜まらないといった表情で目を輝かせていた。


「じゃあ、準備も整ったことだし、そろそろクエストに行ってみようか。」


そう促すと、皆が頷く。ここから俺たちの物語は始まるのだ。

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