第6話 ねっとり蜜月のはじまり。

 奥方様のお尻を追いかけて階段を上ると、そこは小さな庭園であった。魔女の塔の屋上は緑豊かな楽園である。もう夕日が差していた。海が真っ赤に染まっていた。姫墻から、城や町、と多くの村々や野原や森が一望できる。

「ここの眺めを気に入って貰えたかしら。朝の眺めも素晴らしいわよ」

「ここより高い建物は無いみたいですね」

「ここは月の塔と呼ばれているのよ」

「月見にも好さそうですね」

「それもそうだけど、別の意味よ……」

 奥方様は少しはにかんで話をつづけた。

「この国ではね。特に殿方たちはね。月の日が来た女は不吉だと信じているの。だから月の日が来た女を閉じ込めて遠ざけるのよ」

「じゃ、奥方様は……失礼しました」

「あら、気にしなくて好いのよ。私、月の日が来なくても、月の日が来たことにして月の塔に籠ってるのよ。その間は夫たちの顔を見ることもなく自由で居られるの」

「夫たち……ですか?」

「そうよ、夫たちよ。お前はこの国のことを何も知らないのですね。この国では、女は夫を二人も三人も、四人でも五人でも持てるのよ」

「夫が二人も三人もですか?」

 奥方様だから夫や子供がいても不思議じゃない。一妻多夫なんて思ってもみなかった。なんか胸が苦しい。

「目が泳いでますね。……私には、今夫が二人います。夫と言っても形だけの夫です。全く愛していません。見るのも嫌、抱かれるのはもっと嫌、あの男たちの子供を産むなんてまっぴらです。でも、お前は違う。お前を秘密の夫、真の夫に迎えたい。お前の子供を産みたいのです」

 奥方様は僕を抱きしめていた。初めて出会って買い取られて、いきなり衝撃の告白をされてしまった。嬉しくて嬉しくて堪らないけど、何か引っかかるものがる。

「あの奥方様お伺いしてもよろしいですか?」

「私とお前は真名を取り交わした仲です。夫婦よりも強い絆で結ばれています。血を分けた母と子、姉と弟よりも濃い繋がりです。それに、お前と誓いを交わした時、血の繋がりを感じましたよ。だから遠慮なく尋ねていいのよ。私は、夫を謀っても、お前には嘘偽りなく何でも話しましょう」

「えーと、血の繋がりって本当ですか?」

 奥方様はドレスを翻すと一瞬で全裸になった。月明かりを浴びて、白く輝いている。両腕を上げて脇を曝け出した。

「私の脇と股には毛が有りません。これは生まれつきです。お前も脇を上げて見なさい。お前は男なのに、脇も股も子供の様にツルツルです」

 言われて今気が付いた。確かに脇と股がツルツルである。生前は毛が有ったような記憶が残っている。

「えーと、毛のないことが、血の繋がりの証ってことですか?」

「そうです。この国の男は猿の様に毛むくじゃらです。女は脇や股が毛でぼうぼです。毛のないことが、血の繋がりの証なのです。私とお前は同族、同胞なのです。この国の者たちに滅ぼされた種族の生き残りなのです。出遭うことも稀な同胞と出遭えたのです。どうして放っておけましょう。子や弟、恋人の様な親しみを覚えるのはおかしいですか?」

「じゃ、奥方様と僕は、この国の人間と異なる種族で、人間じゃないってことですか?」

「そうです。卑しい人間如きとは違います。私たちは気高き種族なのです」

「ところで、奥方様はエルフって感じがしますが、僕はドワーフを虚弱にしたような感じなのですが?」

「この国の言葉では、私たちの女はエルフ、男はドワーフと呼びます。私たちは自らをペリーと呼びます。私たち一族をペリーギャーンと呼びます。私たちの滅ぼされた故郷をペリーヰスターンと言います。私とお前が契り合ってペリーヰスターンを再興しましょう」

 僕と奥方様は、生まれたままの姿で互いに手を取り合い見つめ合っていた。奥方様に恋することは、国を愛することと同じなんだ。僕の愛欲が、とても崇高なものに思えて来た。こんな素敵な奥方様に初めてを捧げられるんだ。ヤッター!

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