第5話 はじめての晩餐は甘い間接キス。

 甘い匂いに包まれた暗闇の中、僕は柔らかいものに挟まれている。奥方様の御御脚だ。窮屈な筈だけど、とても居心地が好い。スカートの中は暗闇の天国だ。温室のようにむんむんし、奥方様の匂いでむせってしまう。僕の肺の中は奥方様で満たされた。

 ぞろぞろと入って来る召使たちの足音が聞こえる。そろりそろりと卓に食器が置かれていくのが判る。僕は奥方様のスカートの中で息をひそめている。もうそろそろ食事の準備は終わるだろうか?


「ご用意が出来ました。これにて私共は失礼させていただきます。ごゆっくりどうぞ」

「ご苦労様でした」


 扉の閉まる音を確認すると、スカートから頭を出した。卓には所狭しと御馳走の山である。パイとかパンとかスープとかソーセージ、鳥の丸焼きが所狭しと並んでいた。想像を絶する豪華さでは無いが、量が物凄かった。これから大食い選手権でも始まるのかよ?

 御部屋の中ではビビアンだけが控えている。奥方様はすらりとした体形なのに、途轍もない大食いだったのか?

 卓に椅子は一つだけである。ビビアンが椅子を引くと、奥方様が腰を掛けた。奥方様が手招きをするので、僕は椅子の傍の床に正座した。

 ビビアンが給仕した。少しづつ料理を取り皿に取り分けて奥方様に差し出した。

「イーサー、もっと近くにおいで。上を向いて口を開けなさい」

「はい、奥方様」

 奥方様は、お食事を始める前に、僕に餌やりをするのか?

 そんな訳はない。毒味に違いない。

 先ずは僕の口の上で金の杯を傾けた。

「よく味わってから飲み込みなさい」

 言われたとおりに口の中に溜めて味わってから呑み込んだ。

「イーサー、味はどうでしたか?」

「はい、ほのかな苦みがありますが、芳醇な味わいがして、とても美味しいです」

 僕の感想を聞くと、奥方様は金杯に口を付けて一口飲んだ。

「確かにお前の言う通りですね。これからお毒味役をよしなに」

「謹んで承ります」

 お毒味役って、危険だけどやりがいのある仕事だな。でも、なんか寒気を感じる。毒じゃない。ビビアンさんの視線が痛い。お毒味役に嫉妬してるのかもしれない。

 親鳥が雛鳥に餌やりをするように、奥方様は僕の口に少しづつ料理を運んだ。その後で奥方様は食事を召し上がった。

 しかし、ビビアンさんの視線が怖い。僕に向ける眼差しは、明らかに嫉妬と憎悪である。

「ビビアン、こっちへいらっしゃい。あなたもそこに座りなさい」

「はい、奥方様♡」

 ビビアンさんは顔を綻ばせた。喜々としながら、奥方様の隣に正座した。奥方様ナイスフォロー!

 奥方様はビビアンに食べ残しを差し出した。ビビアンは犬の様にむしゃぶりついた。意外とはしたない。その皿は僕に廻って来た。未だ奥方様とビビアンさんの食べかけが残っている。それを片付けるのは僕の役割だ。他人の食べかけなんて普通は屈辱である。でも、大好きな奥方様とそこそこの美少女の食べかけは、とても美味しく感じた。自然と飼い慣らされていく。これも契約魔法の力なのか?

 手つかずの料理が未だ未だ卓に残されている。奥方様は手を止めたので、晩餐は終わりである。腹八分目くらいだけど、満腹以上に満たされた。

「ごちそう様でした。ビビアン、後片付けよろしくね」

「はい、奥方様~♡」

 ビビアンは召使たちを呼びに部屋を出た。

「イーサー、それを持って私に付いてきなさい」

「はい、奥方様」

 僕は、金の酒器と酒杯が載った金のお盆を両手で持ち、奥方様のお尻の後を追いかけた。

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