第53話 蒼花、襲来。③ ~蘭の本気は、まるで物語のように~
放課後の教室。
授業と終礼が終わり、颯太は机に突っ伏した。
●
「お姉さんが中庭に、か。青空家の女性陣は聞けば聞く程、何というか、その……ああ、うん。パワーに満ち溢れてるよね」
「いろんな事にパワーありすぎなんだよ! お母さん、絶対楽しんでる。ねえちゃん、まさか学校まで来るなんて……!『颯太の七人の嫁』とか、僕、彼女すらできた事ないのに!」
頭を抱えるその姿に、和樹が眉をハの字にして苦笑いをする。
(見た感じ、それぞれがいろんな意味で颯太に好意を寄せているっぽいから……これがライトノベルや異世界なら、ハーレムだったかもね。……でも、『VIP=ID』っていうのが気になる。綾乃さんに聞いてみよう)
もちろん、和樹はこれ以上颯太の混乱を引き寄せるつもりは
スマホの上で指を滑らせた和樹は、続けて颯太に声を掛けた。
「それで、迎えに来るんだっけ? お姉さん」
「ああっ! 忘れてた! どうしよう、どうしよう。おねえちゃん、また学校で騒ぎを起こしそう……!」
立ち上がってオロオロするその姿を見て、和樹はふむ、と考える。
「学校の中で、が心配だったら外に迎えに来てもらうのはどう? こっそりと出てさ。いくらVIP扱いで学内施設の半分以上の出入りができるって言っても、教室までは付き添いが無いと入って来れないし」
「あ、あ! それ、いいかも!スマホ、スマホ……」
「いや、先に出た方がいいと思う。そもそも、何でお姉さんはお昼休みに颯太が中庭にいるってわかったのかな」
和樹の言葉に、教科書やノートを通学鞄に入れていた颯太の動きがぴたり、と止まった。
「あはは……僕、あの中庭でお昼にのんびりできるのが嬉しくって」
「ああー、そういう事か。それは仕方ないよね」
(中庭での事、きっと嬉しくて御家族に言ってるんだろうな)
入学する前から憧れていた場所で、昼ご飯を食べ、読書をして。その嬉しさを家族に伝える颯太を思い浮かべ、ほっこりとする和樹。
「ごめん、引き止めちゃったね。颯太、また明日ね」
「うん! うまくいくように祈ってて……」
それでも、和樹が心配で、そろり、と近づいていく。
何故か颯太の事をキラキラとした目で見つめているクラスメイト達に首を傾げながら、和樹の横の自分の席に、とすり、と座った颯太。
和樹の頭がびくりと動き、顔を傾けて颯太をジっと眺めた後に嬉しそうに笑った。
おかしい。
何かがおかしい。
「おはよ。どうしたの?鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
「……大丈夫?何かさ、怒りのオーラ見たいのがさっき見えたけど」
まるで、枯れ果てた荒れ地に、ひっそりと咲く花を見つけたような。
この、表情は。
「いや……ほら、さ。昨日の舞台で……僕が女……」
がらがらっ!
ビッターン!!
びっくぅ!!!
大きな音を立てて開いた教室の扉に驚く生徒達。
「「え?」」
教室まで振り向いた颯太と和樹の声が重なった。
入口から教室の中を見渡した蘭が、つかつかと颯太に歩み寄る。
今や恒例となった蘭の登場である。
「む、間に合ったか」
「えええ?! どうしたんですか! 放課後に来るなんて……」
「いや、何やらこう、胸の辺りがゾワリゾワリとしてな。颯太と姉上殿の仲の良さに、あてられてしまったのやもしれぬ」
腕を組んで仁王立ちする蘭に、和樹は思った。
(それって、ヤキモチなんじゃ……?)
「ま、颯太と一緒に姉上殿とゆるりと語らせて頂こうと思ってな」
「蘭
「先延ばしにして、何が変わる? 私が颯太の一番弟子であり、
……きゃああああ!
おおおおおおおおお?!
彼女宣言?!
いやきっと、これは……嫁!
教室に居残っていた生徒達から歓声と黄色い悲鳴が上がる。
凛。
背を伸ばし、胸を張り。
燃えるような蘭の瞳に和樹はたじろぐ。
(恋人? 嫁宣言?! ……自分では分かってないのかもしれないけど、これは本気の時の目だ。こうなったら絶対に引かない)
そんな蘭に言葉を失う和樹の前で、颯太が慌てふためく。
「そんな言い方したら……あうう。誤解されますよ!」
「どう思われようと構わん。
「あれ? え?! 先輩、手! 手え!」
「蘭だ」
低く
そして颯太の指に恋人繋ぎでしっかりと指を絡ませ、蘭がずんずんと颯太を引っ張り教室を出ていく。
一瞬の間。
溜め息。
興奮。
叫び、騒ぎ出し盛り上がる生徒達。
それは、誰もが憧れてしまうような、恋愛物語のワンシーンのよう。
(あれは止められないや。颯太、ごめん)
クラスメイト達の熱狂と、珍しく高鳴る自分の鼓動を重ね合わせた和樹は、話が
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