第50話 颯太、目が点。そしてお隣争奪戦、終幕
中庭、昼休み半分経過。
目を閉じて首を傾げ、へんにょり、とする颯太は『申し訳ないけど早く終わらないかなあ』などと考えながらいつものベンチに座っている。
と、そこで。
笹の葉が
手にはマイク代わりのバナナが握られていたが、力を籠めすぎた為にぐにゃりと潰れてしまい、自分のお股をじっと見つめた後に口に放りこむ。
「もぐもぐ、そー君のばぬぁな!だと思うと美味。真打ち、とーじょー。我が
「そこで何で僕が出てくるんですか?!」
顔を赤らめて抗議する颯太と、あれ?私最後なのに真打ちでないの?おかしくない?おかしくない?などと、どよーん、とした顔つきで行方を見守る
「もう!の葉はちゃんと司会してよ!」
「怒らりたー」
「そーた君!私もお隣、座ってもいい?」
「あ、うん!」
颯太に触れるか触れないかの距離で、ベンチに腰を下ろした近は颯太を見上げてにひひー、と笑った。
颯太にとって近は、文芸部でよく小説や趣味の話をし、それとなく自分に気を遣ってくれる中学の頃に出会った優しい女子である。が、近は颯太が二年前の事と自分達の事を覚えている事を知らない。
【※12-14話 『近、颯太との出会い』】
時折近がテンパる事もあるが、それも含めて颯太は近の事を大切な友達だと思っている。
「そう言えば、『
「あ!見た見た!白虎と玄武がやっと会えて、二人で主の元へと向かうんだよね!いがみ合いながらも敵が出てくると息がぴったり!熱く燃える白虎さんと皮肉屋でクールな玄武さんカッコいいよね!」
「うんうん!」
ずっと追っかけている、この前の演劇部のシナリオの元になったであろう小説の話題に颯太が喰いついた。
●
颯太の笑顔を見ながら、近は考えていた。
(いけるっ!そーた君の笑顔、頂いてますよぉ!ふふふ……これで残り時間のお隣は貰ったも同然!いつもは由布院様が独占してるから嬉しい!何のお話しよっかな☆)
近はこの後の展開に心を躍らせ、胸に手を当てて自分を落ち着かせる。
(そーた君、表情豊か。何でこんなに可愛いんだろ、もー。……どうしよう、どきどきしてきちゃった!あと少し、あと少し頑張れば!)
「遠鳴さん、顔赤いけど大丈夫?」
「だいじょぶだいじょぶ!」
赤くなった顔と胸を押さえた手を心配そうに見る颯太に、近は別の意味で心臓を弾ませた。
(そ、そーた君、まさかこの前の事を思い出してないよ、ね?私が暴露しちゃった乙女の秘密……)
【※第6話 先輩、そして遠鳴近。】
近はそうっと颯太の視線を追う。
颯太は首を傾げてにっこりと笑った。
(表情はえっちな事考えてなさそうだけど……も、もしだよ?そーた君が、『遠鳴さんの、今日のお胸の先はどこなのかな?当ててあげようか?』って耳元で囁かれたら……断れる気がしないよっ!はうぅ!)
大暴走である。
近は知らず知らずのうちに、両手で胸を押さえた。
(でも。でもですよ?私だって日々成長しているっ!この前とはきっと場所が違うのだ!ふふふ……!)
しっぺのような形をした近の両手の指先が、ある二点で動きを止めた。
「と、遠鳴さん!」
その動きに颯太が慌てて顔を背ける。
が、近の動きは止まらない。
(そーた君の入院中は大失敗しちゃったけど、いつか……そーた君がここをツンツンキュッキュッってしてくれる日が来ちゃったら、こんなに敏感さんで大丈夫なのかなあ……あふ!あああ!先っぽがあ!)
びっくんびっくん!
眉を顰めて目を閉じた近の顔は真っ赤である。
そして状況は悪化する。
「遠鳴さん、ちょっと!」
「おじょー。また白目剝くぞー」
(どうせなら、こっそりと教えちゃおっかな。そーた君、ここが今、ツンツンしてますよー。そーた君の事を思って、キュンキュンしてますよー。二人でドキドキしませんかー……なんてね!)
こちらがドキドキである。
ガガッ!
ここで、救いの手が差し伸べられた。順番待ちをしていた瑠伽と、笹の葉の手が近の肩にかかったのだ。
「ふえ?!な、何?!」
「遠鳴様、お時間ですよー。タイムアップで、状況はアップアップです」
「おじょー。きんきゅーじたーい。きんきゅーじたーい」
「……えっ?」
笹の葉がちょいちょい、と近の身体を指さす。
右手のしっぺ。
近の右胸の先端辺り。
左手のしっぺ。
近のおへその下の方。
「…………!!!」
近は隣の颯太の顔を見た。
颯太は顔を耳まで赤くして、手で顔を覆っている。
近は無言で立ち上がった。
颯太と同じように、顔が真っ赤っかである。
「こ!ここには!何にもないんだからあああああああ!」
「おじょーそれは言ったらダメなやつー。あー、お待ちになれー」
全力で駆け去っていく近を全力で追いかける笹の葉。
颯太は手で顔を覆ったままである。
「……」
「ありゃま、ですね。さて、大トリを務めますはこの東峯瑠伽!……なんですが、誰も居なくなっちゃいましたね」
そう。
遠鳴近、篠条笹の葉……主従で全力鬼ごっこ中。
九十九那佳……颯太の細マッチョと薫りで大賢者に昇格作業中。
残るは瑠伽のみである。
「うふふ。結局は残り物に福があった感じですね!じゃあじゃあ、私が不戦勝という事で……颯太君を独占しちゃいますよ!」
「は……はい……」
ガックリと力尽きて
ザッ。
特等席の前で、赤いブレザーがふわり、と翻った。
「うむ、間に合ったな」
「ゆ、由布院様?!」
「先輩?!」
「蘭だ!む?どうした。鳩が尻鉄砲を食らったような顔をして」
蘭は当たり前のように、自分の指定席である颯太の隣に座り、サラサラと颯太の髪を撫でた。
「ゆ、由布院様!式典に向かわれたのでは?!」
「ああ、その事よ。屋敷に向かっているうちに、胸の内がこう、もよりとしてな。屋敷にいた兄上にぐいぐい!とな。頭を下げて戻ってきたのだ」
そう語る蘭を、じっと見つめる颯太。
「ふふふ、そんな心細げな顔をしてどうした。私がいるだろう。颯太の一番弟子でお前が困った時には駆けつける私が、な。ほれ」
蘭が両手を大きく差し出した。
そして。
すうっ。
ぽす。
肩に頭を預けてきた颯太に蘭は瞠目した。
が、いつものようにぎゅ!と抱きしめて頭を撫でる。
「む。今日はいつにもまして可愛げが迸っているな。……ぬ?何やら尾てい骨が、もぞりもぞりとこそばゆい。颯太、湯船でも浸かるか」
「……浸かりません」
「つれない奴だ。む、ポッキーゲームでちゅっちゅか!」
「……行きません」
颯太の髪に鼻を寄せながら囁く蘭に、囁き返す颯太。
「むう。わがままな奴だ。では、何がしたい」
「安心したので、少しこのままで……」
「む!今、股の付け根がぬるりときた。颯太、股の様子を見てくれ」
「やです……もう少しだけ、このままで……」
「むむぅ」
七人目の乙女、由布院蘭。
最後の乙女は、その想いにより美味しい所を全てかっさらっていった。
●
そして、不戦敗となった六人目の変た……乙女、瑠伽は。
「残り物にさえなっていないじゃないですかっ!ま、それはいいとして……ああもう、さっさと起きてくださいよ!お嬢様!夏津奈!」
歯をぐぎぎ!と食いしばって校舎へと二人を運んでいたのだった。
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